子供の頃住んでいた地域には、”無えさん”という伝承があった。
黄昏時、姉のいる少年が神隠しに遭い、翌日死体となって発見されるという話だ。
私は一人っ子だったが、友達のよう君には中学生の姉、花ちゃんがいた。
ある日、よう君は委員会の用事で帰りが遅くなると、誰もいない辻道で会った。
黒い喪服を着た、顔のない女に。
震える顔に触れた手はひやりと冷たく、よう君は死んだと思った。
ところが、それ以上は何もせず女は立ち去った。
よう君は助かったことが嬉しくて、走って家に帰った。
玄関を開けると、花ちゃんが死んでいたらしい。