「わたしの初恋」

投稿者:しこたま

 

これは
私の身に起きたお話です

今から数年前のことです

わたしは都内にある美容室に
ネイリストとして就職が決まりました

わたしの生まれは地方の山のふもとです
田畑が広がり、民家もぽつぽつとしかありません

比較的栄えたところで遊ぶとなると
数十分かけて移動が必要な 娯楽が少ない町です

そんな中で育った反発からか
わたしは都会で働くことを目標としていました

上京し専門学校で勉学に励み 念願の就職でした

—–

入社日
とても驚くことがありました

配属された店舗には
美容師アシスタントとして
わたしの初恋の男性がいたのです

「ひさしぶり!!!」
と驚く彼

「えっ??ひさしぶり!」
わたしも驚き再開を喜びました

彼と逢うのは2年ぶりでした
すこし大人っぽくなった彼
優しい声のトーンはわたしの知っている?彼?でした

彼とわたしは同郷で
偶然にもお互い東京に来ていたこと、
同じ美容の道に進んだこと、
そして偶然にも就職先が同じだったことに
運命を感じずにはいられない感動がありました

嬉しいことに
彼も同じように想ってくれたようで
奇跡的な再会に感動し
?こんな偶然ないよね!また昔みたいにいろいろ話そうよ!?と言ってくれました

わたしは彼のその言葉に舞い上がり
彼とのこれからを期待せずにはいられませんでした

—–

彼との出逢いは高校生のときです

当時わたしは学生バンドを組んでおり
同じ地域でバンドを組んでいる人達でイベントをしないかと話がありました

隣町の高校に通う彼もまた学生バンドを組んでおり
そのイベントで出逢ったのが彼でした

彼はとても穏やかで気さくに接してくれ
わたしはその日のうちに彼に惹かれ
初めて?恋愛?として人を好きになりました

そのイベント以降も 友人を通して彼と会う機会があり
彼が作曲した曲を聴かせてくれたり、
いま興味があることの話、彼の学校での話など
たくさんの話を聞かせてくれました

お互いの話で会話が終わらないくらい連絡を重ね
それから程なくして
彼から2人きりで逢おうと言われました

(もしかして この恋は実るのではないか…)
と わたしは期待をしました

—–

彼との約束の日

その日は知り合いが出るライブを2人で観に行くことになりました

わたしの家から待ち合わせ場所まで
原付バイクで30分

彼の家からも同じくらいの距離

(彼はもう家を出たかな…逢ったら何を話そうかな…)
そんなことを考えながら胸を躍らせ
原付バイクを走らせること数分

わたしは交通事故にあってしまいました

走行中に後ろから車に追突されてしまい
避けようがない事故でした

わたしは怪我をしてしまい
その日 彼に会うことができませんでした

彼に連絡が出来たのは事故の翌日です

約束をすっぽかした形になってしまった状況でしたが
事故にあっていたことを伝えると
彼は心配し わたしの家まで逢いに来てくれました

それから度重なる事故や怪我
心が病むような嫌な出来事も重なってしまい
彼への恋心を残しつつも
彼に連絡するのがおっくうになってしまいました

彼と出逢って1年ほど経った頃
彼から来ていた連絡も途絶えがちになり
わたしからも連絡出来ず…
この恋は終わってしまうのだと確信しました

初めての恋
初めての失恋
つらい気持ちを覚えました

彼と完全に連絡を取らなくなって約2年
共通の友人に聞けばわかったかもしれませんが
わたしは心が疲れている状態でしたので
彼の現状を探ることはしませんでした

彼が何をしているか知らない状態からの
偶然の再会でしたので
運命だったら素敵だな…と
わたしは前向きに解釈しました

—–

入社して ひと月も経たない頃
わたしは上司にあたるネイリストからのいじめのような態度に悩まされていました

それは
身に覚えがないようなことを注意されたり、
業務に支障がでるようなミスをされるなどでした

今思えばただの嫌がらせ、
今だったら反論ができるようなくだらない内容でしたが
?やっとの思いで就職した?
?社会ってこうゆうものなのかな…?といった思いが邪魔をし
その時はただ耐えることしかできませんでした

実は高校生の頃にもいじめを受けたことがあり
「あぁ またか…自分が悪いのかな…自分は人を不快にしているのかな…」
と 自分を責める癖がついていたせいで
上司からのいじめも受け入れてしまっていたのだと思います

つらく逃げたいしたい…
でも念願の仕事…

再開した彼の存在がわたしの支えでした

—–

就職して数日が経ったある日
わたし達の働く美容室に
1人のお客様が来店しました

そのお客様は
40代後半くらいの穏やかで上品な雰囲気のある女性でした

その女性は
わたしが携わるお客様ではなかったのですが
何度か物言いたげにこちらを見ていました

(なんだろう…)
わたしを見る視線が気になり
わたしは施術待ちをしている女性に飲み物を薦めるかたちで声をかけてみました

わたし
「失礼致します
お待ちの間 お飲み物はいかがですか?」

女性はすこし表情を曇らせ でも穏やかに言いました
「じろじろ見てしまってごめんなさいね
いま…お話良いかしら…
急にこんなこと言って気を悪くしたらごめんなさいね…でもどうしても…伝えなくちゃと思って…聞いてくれる?」


女性はこれから話す内容で気を悪くしないか配慮するように話を切り出しました

女性
「変なことを聞くけれど…あなた…あそこにいる男の子とどんな関係かしら…」

そう言って女性は
美容室のフロアでお客様の応対をしている
わたしの初恋の彼に目を向けました

わたし
「え…っと」
わたしは言葉を詰まらせ女性に不信を抱きました

女性は
わたしが不信に思うことは承知
すこしでも信頼されようと
まっすぐ穏やかな眼差しで
話を続けました

女性
「急にこんなこと聞いてごめんなさいね
変に思うわよね

でも
どうしても気になって…伝えなくちゃと思ったの…

あの男の子とあなたは
今よりもっと前から知り合いだったりしない?

それとね
あなたは怪我をしたり辛いことが多いんじゃないかしら?

…なにか思い当たることはない?」

女性への不信感はつのり
?え??彼の知り合い??
?誰かが何か言った??など
わたしは不安な気持ちを巡らせ
さらに言葉が詰まって何も答えれずにいました

女性は続けます
「不安にさせてごめんなさいね
…あの男の子と知り合ってから事故にあったりしなかった?」

わたしは はっとしました

頭に浮かんだのは そう
彼と知り合った高校生の頃

彼との待ち合わせ場所に向かう途中で
交通事故にあったこと

事故は
一度だけじゃないのです

一度目の事故の怪我が治って
また彼と会うときにもう一度…

そしてまた怪我が治ってから
3度目…

—–

3度目の事故は
不思議なことが起きました

事故に合う数日前に
乗っていた電車の中で変なおじいさんに会ったんです

その電車は
人が乗っているのが珍しいくらいの
田舎のローカル線です

ガラガラの車内
ぽつんと座っているわたしに
不意におじいさんが話しかけてきたのです

「これ!持っとけ!!」と
すこし怒鳴るような口調で
無理やり手のひらに何かを握らされました

驚いて手を振り解くと?濃い青色のビー玉?が手から転がりました

さらに強い口調で「持っとけ!!」
とおじいさんに言われ
無視するのは怖いな…と思い
足元に転がった1つのビー玉を拾い
気持ち悪いなと思いつつ
着ていたコートのポケットにビー玉を入れました

わたしは
「はい 拾いましたんで…」
と言うと

おじいさん
「…うん」
おじいさんは まだ何か言いたげに見えましたが
わたしは関わりを避けるべく 車両を移りました

それから数日後

この日も彼との約束の日でした
何度も無下にしてしまった約束でしたが
今日こそは…と 気持ちをはやらせて

わたしは原付バイクで彼との約束場所へ向かいました

何度も事故にあっているため
いつも以上に気をつけて

走行してほどなくして
___カツンっ
コートのポケットから
何かが落ちました

(あっ この前おじいさんに押し付けられたビー玉だ
ポケットに入れていたの忘れてた
うわ 嫌だなー
でも 拾わないのも気が引けるな…)
と思いバイクを歩道に停めました

ビー玉が落ちたところまで小走りで向かい

その瞬間

ガシャーン!!!!

耳を貫く破壊音

前方からわたしの真横を横切り車が猛スピードで通過して行きました

すぐ車の進行方向へ振り返ると
車は停車していたわたしのバイクを
さらに前方へ吹き飛ばすように追突しました

驚きと恐怖ぇ
わたしはその場にへたり込みました

もしビー玉を拾わなければわたしもろとも追突されていたかもしれない…?

いや 走行していたら追突されることは無かったかもしれない?

ぐるぐると考えを巡らせました

震える手で電話を手に取り
彼には「行けなくなった…」と伝えました

運転手は居眠り運転だったそうで怪我はあれど
命に別状はなかったそうです

わたしの原付は廃車
度重なる事故のせいで
親からは今後原付バイクを乗ることを禁じられました

今日までさ
わたしが不注意すぎるのかな…?と思っていましたが
彼に逢う日に限って事故が多かったのは確かです

女性から言われて思えば
彼と逢ってから事故や怪我、いじめに合い
彼と疎遠になっていたここ2年は
いじめも事故にも合っていないのです

—–

これをを思い出しゾクっと背中が冷たくなり
「彼と出逢ってから事故をしていないか」
という女性の問いに対して
「事故…してます」
と答えました

女性は続けました
女性
「あなたと彼はとても深い縁があるの
これから近いうちにまた離れて
また数年後に偶然再会があると思うわ

運命のように感じると思うわ
とても深い縁よ
でもね
それは決して良い縁じゃないの

あなた達が親い関係になろうとすると 
怪我や人からの言われで嫌なことがあなたに起きてしまうの

あなたと男の子の縁は変えれないけど
あなたを守ることはできるのよ

こんな話信じられないと思うわ
信じなくても良いから
でも心配だから伝えるわね

なんでも良い…
?青い物?を身につけて

?青?はあなたを守ってくれる色なの

少しでも何か変だと思う時は必ず?青い物?を身につけて
?持っている?ってことを強く想って」

女性はそう良い
わたしの肩に手を置きました

すると
不思議なことに何かがボロボロと剥がれ落ちるような不思議な感覚がありました

この恋は実らない諦めろお言われたような辛さや、
いままで人に言えなかったいじめられていたことを暴かれた恥ずかしく情けない気持ち、
多すぎる事故の理由など
様々な想いが巡りました

同時に涙が溢れてきました

女性は
「辛かったわよね…
ひとりでがんばったのよね…
大丈夫よ…
これからは良くなるわよ
事故も大丈夫だし 変な言われや誤解もなくなる
大丈夫…大丈夫…
あなたはちゃんと守られるから
ちゃんとあなたらしく生きてね…」

女性は暖かな言葉でそう言い わたしの肩を抱き寄せました

仕事中で美容室のフロアで泣いてしまうのは他のお客様の目もあるので
女性に断りを入れ
一旦バックヤードに下がらせてもらい
落ち着いてから
改めて女性の話を聞かせてもらいました

—–

女性は神霊などが視える方とのことでした

彼には守護霊のような悪霊のような存在が憑いるそうです

わたしと彼 2人の仲を割こうと言うよりは
彼に憑いているその霊はわたしに執着していて
わたしと一緒にいたい、わたしを疲れさせて取り込みたいと思っているんだと聞かされました

女性に?青い物?と言われ思い当たった
おじいさんからもらった?青いビー玉?話を伝えたところ

「もしかしたら…そのおじいさんは視える方だったのかもしれないわね
あなたが心配で?青い物?を渡してくれたのかもしれないわね」
と言っていました

女性と話していて
とても悲しい気持ちもありましたが
見透かされたような
ほどかれたような安心感がありました

—–

その日からわたしにとって?青?は特別な色になりました
気にして身のまわりの物は?青?を選ぶようになりました

その後
半年も経たない頃
女性の予告通り彼とまた離れる機会がありました

お互いに店舗の移動の辞令があり
彼とは別々の店舗で働くこととなりました

彼と離れてから
いじめで悩むこともなくなりました
いままでの理不尽な悪意が明るみになり
会社から謝罪されました

もちろん
事故にも合っていません

運命のような彼との再会のはずだった…

とても悲しいですが自分から彼に連絡を取らないようにしています

仕事でどうしても彼と顔を合わせる際は必ず?青い物?を身につけています

わたしの身体には
事故による傷痕がたくさんあります

心には失恋の傷

彼への想いは忘れなくてはいけない

わかってはいるのですが
わたしはまだ彼への恋心を引きずったままです

 

得点

評価者

怖さ鋭さ新しさユーモアさ意外さ合計
大赤見ノヴ191716151683
毛利嵩志10151051050
吉田猛々171617161884
合計4648433644217

 

書評:毛利嵩志
短文で短く行を区切っていく、掲示板や携帯小説のような書き方ですが、それによりすっきりとまとまり、体験者の気持ちや戸惑い、葛藤などがよく伝わってきました。

書評:大赤見ノヴ
まずは今まで人に言えなかった体験を書き綴って頂いた事へ感謝します。そう言いたくなるくらい1つ1つの場面、言葉、感情がリアルで怪異を体験した事がある私には刺さりました。誰かに話すと「嘘でしょ?」と思われる様な事が起きるんですよね。1番好きな人の後ろに憑いている悪霊が実体欲しさに自分を取り込もうとしている・・・メチャクチャ怖いですよ、これ。そして偶然にも助けてもらえる人と出会えた事、これはこの方の後ろで守ってくれる存在の導きだったんじゃないかと思いました。今後、この体験を乗り越えて素敵な方と幸せになって欲しいと思える感情が揺さぶられた話でした。

書評:吉田猛々
今の自分が叶えたい事、それが人知の計り知れない部分で叶えてはいけない禁忌になっている、結実しない恋心。それでも縁があるから巡り合ってしまう、このパターンはとても悲しいですね。怪談版ロミオとジュリエットとでも呼びたくなります。偶然出くわしたお客さんの指摘から今までの謎がほろほろと解けていく場面、思わず惹き込まれました。「生霊の話かな?」と思って読んでいましたが、「守護霊のような悪霊」という驚きもあり、自分も怪談に携わる身として、舞台などで語ってみたくなるようなお話でした。初恋を表す「青春」という言葉にも入る「青」に護られるという事、そこはかとない味を感じます。