「夢の中に現れる黒いワンピースを着た女性【前編】」

投稿者:阿修拉麺

 

これは実話である。
 僕が当時まだ小学5年生の時から続く『夢』の話。
 先に記述しておくと別に僕個人は怖いと思わないし、人によってはただの夢の話しでしょで終わるモノだと思う。
 ただこの話をすると恐怖は感じないモノの体が拒絶をしているのか、はたまた何かに反応しているのか、話せば声が震えたり、コレを書いている今も鳥肌が治まらなかったりと少し厄介な事が起きる。あ。今、何故か左耳で音が聞き取れなくなった。まぁ、気にしない、気にしない。
 では、少しこの話を読んで頂く時間を拝借しようと思う。

 限りなく暈した表現をすれば、冬は積雪が多く氷点下の広大な面積を誇る都道府県の一つが地元である。
 そんな地元は少し特殊な環境下で自衛隊の駐屯地があり、演習の大砲の音や戦車が走る為の道路、上空を戦闘機が普通に飛んでいるの日常だ。その為、小学校のクラスの父親の職業は結構な割合で自衛隊員だったりする。
 そんなフィジカル強めな大人たちの楽しみと言えば宴会だった。夏になれば誰かの庭先でBBQが行われているのも、ごく当たり前の光景である。例に倣って僕の家と幼馴染の家も家族ぐるみでBBQをしていた。
 しかし、他の家とはちょっと変わっている所があり、それは大人たちの宴会時間がえげつない事と、多くの部下や色々な家族が来て、アメリカのホームパーティーかよって位の大人数で各自で持ち寄った酒やら食い物やらを飲み食いしている大宴会が毎週末に行われていた事であった。

 ――小学5年生の夏。この日もまぁ毎週末の恒例とばかりに、正午から幼馴染の家の庭でBBQをやるとの事で僕の家族も参加。深夜過ぎ迄続く宴会の幕を開ける。
 最初こそは大人に混じって肉を食らって居るが子供のお腹はすぐいっぱいになるもので、近くの公園で野球、家の中でゲーム等で遊び、お腹が減ったらまた会場に戻って肉を食う、夜になれば手持ち花火を楽しむなどを繰り返すのが子供達の宴会であった。

 時刻は大体、夕方過ぎ。外は薄暗くなり、街灯に明かりが灯ったくらいの時間帯。その時間帯になれば他の家族もチラホラと集まり始め、飲めや食えや喋れやの大宴会になる。
 こうなると僕と幼馴染A(※下記、A君)は高学年と言う事もあり、年下の面倒を飲んだくれの大人に代わって見ることになる。

「ねぇ。人も増えたし、お前の家から64持って来て、みんなでゲームやらね?」

 A君から提案を受ける。
 この当時、僕は任天堂64。A君はプレステと互いの家庭にないゲーム機を所有し、共有して遊んでいた。どうでも良い事だがコントローラーは各家庭の子供が自前で持ち寄るのが子供達の中でのマナーでもあり、暗黙のルールだった様に思う。特にスマブラやマリオパーティーなどは人気でトーナメント戦に興じていた。

「そうするか! なら、一緒に取りに行こう」

 僕はA君の提案に承諾すると、実家へと二人で向かう事にした。
 A君宅と実家はめちゃくちゃ近く、歩いて大体5分位。A君宅の玄関を出てからすぐのT字路を曲り、少し歩けば十字路がある。その十字路には一時停止の道路標識や街灯も当然あり、その一角に僕の実家が建っている。
 意気揚々とA君と薄暗くなった道を歩き、T字路を曲がって少し進む。もうすぐ実家だという所で、十字路の街灯の下に人の姿が見えた。
「あっ、人だ」くらいで特に気にも留めない感じなのだけども、何か不思議な感覚と言うか、異質な感じを察して僕とA君の会話が止む。
 何だろう? と思いながらもその人を眺めつつ、実家に向かって歩を進める。近くになるにつれ徐々にその人の姿を認識出来た。

(女の人だ。黒いワンピース。たぶん、お葬式の恰好だ。街灯の下に立ってるなぁ。タクシーとか待っているのかな?)

 距離にして20m先くらいだろうか。街灯に照らされうなだれる様に立つ女性は微動だにしない。僕も幼馴染も目が離せなかった。
 斜め後ろからなので顔は見えない。寧ろ、胸元まで伸びた黒い髪のせいで横をからでも顔が見えない事が分かった。
 僕らは異様な違和感を感じている。

(なんで傘を差さないんだろう?全身ずぶ濡れじゃん)

 その時、グンッとA君が横から僕を押し、耳元で女性に聞こえない様に強い口調で、

「早く! お前ん家、早く入んぞ!」

 と走るように促された。オイオイ、何だよ急かすなよとか思いつつ走る。実家にバタバタと入り、靴を脱いでリビング向かうと僕は友人に今の事を聞いてみた。

「今の黒い服の人見た?」
「見てた」
「何あれ、怖くね?」
「うん、なんかビビったわ」
「葬式とかかな?」
「知らないよ。つか、この辺では見ない人じゃね」

「いや、葬式だったら他から来た人かも」
「まぁ……」
「でも、何で一人だったんだろ。てか、あんな濡れるなら傘差せば良いのにね」
「……。……お前、そこじゃないだろ」
「え?」
「今日、雨なんか降ってる訳ないだろ」

 僕はA君のこの言葉で違和感の正体に気づき、一気に全身に鳥肌が立った。そうだ。今日は昼からずっと庭でBBQしているのだ。雨で濡れる訳がない。
 頭を正常化したかったのか、お風呂上り? とか一瞬考えるが、服を着て入る人なんているはずもない。
 僕は少し押し黙った後、A君に提案した。

「なぁ、あの人が居なくなるまでウチにいね?」
「いつ居なくなるんだよ、アレ」
「わかんない。でも、僕の部屋の窓からだったら、あそこの十字路見えるし、とりあえず64の準備して窓から確認しね?」
「わかった。そうしよ」

 二階にある僕の部屋へA君と向かい、A君宅に持っていくゲーム機とアダプター等一式の準備をする。
 手慣れたもので準備にはそう時間はかからない、ものの5分ってところだ。互いに抱える様に準備した物を持つ僕とA君。
 僕らは顔を見合わせて意を決したように「よしっ」と頷くと、二人して窓から外を覗く。自室の窓からは先の十字路を一望出来き、確り隈なく確認が出来る。

「あれ、居ない……」

 ポツリとA君は言葉を漏らす。

「だな。もう、どっかに行ったんでしょ。じゃ、さっさと行くか」

 その言葉にA君は「うん」と返すと、妙な安心感からか二人して一気にテンションが上がり、意気揚々と靴を履き実家の玄関を出た。
 玄関を出て無意識に十字路に視線をやる。

「ヤバっ! 行け! 行け‼」

 僕は一瞬立ち止まるA君へ本能的に体をぶつけて走る様に合図を送る。恐怖心もあったと思うが、ただヤバいという感覚が強かった。
 この場から早く逃げないと行けないと感じ、その後はもう会話もなく血相かいてA君宅までダッシュ。A君宅に着くと心臓がバクバクと音を立てていた。

「居たよな?」

 僕がそう言うとA君は頷く。確かに二階の自室の窓から見た時には居なかった。何かに隠れて見えないなんて事はない。にも拘わらず、外に出た時には同じ様に黒いワンピースを着た女性が居た。訳が分からない。
 そうだ、今は外にたくさんが大人が居る。今見たモノや体験した事を話そう。そう思った僕とA君は庭先のBBQ宴会場に向かい口早に話した。
 しかし、まぁそれは子供の荒唐無稽な話。場に居た大人たちは大いに笑い、「近所での葬式の話しなんて聞いてない」「何かの見間違えじゃないのか?」「お前らも、酒飲んだのか?」など、酒のつまみにしかならなかった。
 そんな中、「一応、見て来てやれよ」と上司に言われた若い人が面白半分で僕とA君を連れ立って黒いワンピースの女性が居た十字路に向かう事になった。
 着いてみると、そこはいつもと何ら変わりないただの十字路。

「ハハハッ! 誰も居ないし、ほら地面も全く濡れてない。全身が濡れていたなら水の後が残るだろうけど、そんな痕跡はないぞ」

 確かに言う通りだ。僕もA君もその場に恐る恐る近づいて確認するも、道路には水滴の一つも落ちた跡はなく、全身が濡れた人が立って居た証拠がない。
「さ、戻って宴会の続きをしよう」そう言いながら笑い飛ばすと若い人は僕らを促し宴会場に戻っていった。

 ――あの当時、確かに僕とA君は見た。見たはずである。何だったのかは分からない。しかし、その後に何か不幸が起こったとか呪われたとか、そんな事は一切無く、別に変らぬ日常を送っている。ただその後、A君とはその話に触れる事は無かった。
 あの夏の日の不思議な体験は未だに謎だ。
 だが、ここで『完』とはならない。ここまでが前談であり、後に数年に渡って不思議な体験する事がこの出来事にリンクしているのか、また別の何かなのかは分からないが、たぶん僕の中では『黒いワンピースの女性は全て同一人物』な気がしてやまないのだ。

 ――一年が過ぎ、僕は小学6年になっていた。別に特に変わった事も無く、どこにでもある小学生ライフだ。この時期はアイドルグループによるオカルト番組が流行っており、学校でもそのネタは盛り上がっていた。
 そうなると小学校で注目されるのが怖い話をしてくれる先生の存在だ。
 どこのクラスの担任ではないが、クラス担任が不在時に臨時でやって来る先生がおり、どうやらその先生は少し霊感があるらしい。ここでその先生をN先生と仮名するとしよう。N先生がヘルプで来た際、怖い話をしてくれとの小学生の要望に応え、授業の最後に怪談を色々と聞かしてくれるので人気があった。

 ある日、僕のクラスにもN先生がヘルプで来た。そうなると授業の後半には怖い話が聞きたいと僕を含めた生徒の声が上がる。

「じゃーそうだね。カーテンを閉めて部屋を少し暗くしよう」

 N先生は窓際のクラスメートにカーテンを閉めるよう促した。

「僕はね、あまり怖い話をしたくはないんだ。怖い話をすると幽霊が集まるって、みんな聞くと思うんだけど、これは本当。僕は怖い話をすると首の後ろが痛くなったりするからね。そしてどんな事をしてくるか分からないから、絶対に幽霊の事を馬鹿にしてはいけない。それが守れるなら怖い話をしよう」

 N先生は怖い話しをする前に毎回必ずこの注意喚起を言って生徒と約束をしてから話を始める。

「そうだねぇ……。なら今日は少し変わった事をしようか」

 クラスメート全員に目を閉じさせ、自分の家の前を想像し、そこに自分を立たせる。
 オカルト好きならピンと来た人も居ると思うが、簡易の霊感&家に幽霊が居るか居ないか診断の様なモノで、この日はコレをする事になった。
 当時、僕はこの診断が何なのか知らずに、N先生に言われるままに頭の中で想像する。まずは玄関を開け、次にリビングに歩いて行き、次はキッチンに向かいと頭の中で自分の家の中を次々と探索していく。

「はい、目を開けて。じゃあ、みんなに質問します。家の中に人が居た人は手を挙げて」

 クラスメート数人が手を挙げた。

「それが自分の家族だった人は手を下ろして」

 この時、クラスが少しソワソワし始める。僕ともう一人の女子だけが手を挙げたままだった。先生が少し頷くと、

「分かりました、二人とも手を下ろして良いよ。これは家の中に幽霊が居るとか、霊感を持っているとかを調べるゲームみたいなものなんだ」

 クラスのソワソワがザワザワに変わった瞬間だった。
 最後まで手を挙げていた女子は顔面蒼白。僕はと言うと、へぇ~と言った感じだった。別に怖さも無ければ変な気もない。ただただ、そうなんだ位の感想でしかない。それに幽霊なんて見たこともないし、心霊体験もない。
 ただ、この診断中に頭の中で自宅を探索をしている時、リビングに入ると誰かが居る様な気配がして、N先生の言葉を待たずにキッチンへ向かう。歩いて行くとそこには黒いワンピースの女性が立って居た。
 見覚えがある。一年前、BBQをしていた日に見た女性だ。しかし、恐怖心などはなく「あぁ、あの人だ……」位のもので何故か居ても不思議ではないと感じていた。

「最後まで手を挙げていた二人は今後絶対に、幽霊を馬鹿にしちゃいけないよ」

 N先生がそう言うと、カーテンが開けられて燦燦とした陽が教室に差し込まれ、この日の怖い話が終わった。この後、最後まで手を挙げていた僕と女子の周りにはクラスメイトが集まり質問攻めに合うのだけれども、正直、何故かは分からないが『頭の中に出て来た女性を揶揄されたくない』と思いはぐらかす事にした。

 ――大人になった今でも霊感は全くないと思っている。やはり幽霊も見たことないし、何かの気配を感じるって事も全然ない。たぶん、この先も無いんだろうなと思っている。だからこそオカルトをエンタメとして楽しめてるかもしれない。
 此処までの事が「いや、それ霊やで!」って思う読者も居ると思う。ただ、僕の中では心霊体験ではなく、ただの不思議な体験って事で怖さが全然ないのだ。
 いや、後数年後に起こることが切欠で、僕がこの黒いワンピースの女性に罪悪感を抱いているから恐怖心を感じていないのかもしれない。

 ――時は建ち、学校の環境にも慣れた中学1年の夏の頃だったと思う。
 変わった事もなく、飯食って、テレビ見て、ゲームしてとか極々ありふれた日常を送って居た僕に、本当に何の前触れも無く、数日間、同じ夢を見る事となる。

 一日目、僕は何処かも分からない雑木林の中に立っていた。
 そこから少し遠い場所に二階建ての廃墟が見える。何故か僕はそこに行かなければならないという感覚があり、特に舗装もされてない林道を廃墟に向かって歩く。
 数分は歩いただうか? 林道をあと半分で抜けると言う所で足が止まった。何かに見られている、そう感じて辺りを見回すと林の中に誰か立っている。

 そこには、黒いワンピースを着た女性が居た。

 表情は長い髪のせいで見えない。ただ何をする訳でもなくうなだれた様に立って此方を眺めている様だった。女性の顔は見えないが僕と視線が合っているのが分かる。数秒程、お互いに動かずに目を合わせて居ると、女性は真っ暗な林の中へ歩き入って行った。
 僕はその様子を最後まで観察すると、また廃墟に向かって歩き出す。

 廃墟に着くと、とある一室を除いて一階の部屋を雑ではあるが確認しながら一つずつまわり、二階へと向かう。二階も同じ様に一部屋ずつ確認をする。
 この廃墟がいつ建てられたのか定かではないが、しかし年代は古く、映画やドラマの中に出てくる昔の学校か病院みたいな感じでコンクリート打ちっぱなしのような外観と、上半分がコンクリートで扉や下半分が木製の壁で装丁された施設。建物内もThe廃墟と言う感じで荒れており、木の椅子やら壁にスプレーの落書きやら何やらが散乱した状態だ。
 廃墟を一通り探索すると、最初に確認をしていない一階の部屋に向かう。手術室なのか検査室なのか、はたまた学校の教室かは分からないが、その一室に入ると部屋の丁度真ん中に椅子がポツンと置いてあった。
 僕は無意識にその椅子の前まで行くと、椅子を前にして何も考えずにボーッと暗い部屋で椅子を眺める。ただただ物寂しい空虚な椅子を見つめているだけ。しかし、視界とは別に頭の中の感覚で、そこに誰かが座っているかの様な気配だけが僕には残っていた。
 そこで夢から覚める。

 二日目、昨日と同じ場所に僕は立って居た。夢の内容は同じだが、一部違う部分がある。
 一日目は廃墟に向かう途中の林の中に女性が立って居たのだが今回は居ない。僕は前日に女性が林の中に消えて行った方へと踵を返して進む。
 雑木林をかき分ける様に進むと、例の女性が立って此方を眺めており、僕は立ち止まって眺め返す。その女性の背後には土砂が崩れた場所が見える。僕がそれを認識したところで女性はスッと土砂が崩れた方に歩いて消える。
 その光景を見終わると僕は来た道をそのまま引き返し、前日同様に廃墟に向かい探索、そして椅子の前に立つ。
 夢から覚める。

 三日目、また同じだ。法則として、どうやら前日に見た夢の廃墟探索前が更新していくらしい。僕は前日と同じように土砂崩れの前に行くがそこに例の女性は居ない。今回は来た道とは違う別のルートで戻る。その先には池か沼なのかは暗くて分からないが大きな水たまりがあり、その傍に例の女性が立って居た。やはりまた僕を眺めている。僕が水たまりを認識すると、女性は水たまりへ歩き出してズブズブとゆっくり水中へ沈み消えた。それを確認して来た道を引き返して廃墟探索に向かい、最後に椅子の前に立つ。
 夢から覚める。

 四日目、同様なので割愛するが、昨日の水たまり迄行き女性が居ないのを確認をして来た道を戻り廃墟に向かう。雑木林を抜けると廃墟が後数メートルという所にある。廃墟の周りは先ほどの雑木林ではなく、少し開けた平地になっており、深夜なので一寸先は闇と言った具合に辺り一面が黒でしかない。
 僕は廃墟ではなく、その真っ暗な平地に向かって少し歩く。真っ暗な平地を歩いていると例の女性が立って居た。僕を眺めている。僕も眺め返す。少し視線を交わした後に、例の女性は夜の平地に吸い込まれる様に消えていった。それを確認して、来た道を引き返し廃墟探索に向かい、最後に椅子の前に立つ。
 夢から覚める。

 五日目、四日目までの自分の行動をなぞり、廃墟の探索を始める。二階の廃墟を探索しているとガラス窓が割れ、特に荒れてる部屋があった。その割れた窓の外に例の女性がいる。互いに眺め合うと例の女性はストンと落ちて下に消えて行った。その後は同じく探索を続け最後に椅子の前に立つ。
 夢から覚める。

 六日目、これまでの行動を全て行っていく過程で僕は初めて違和感を感じる。

(何だ、この違和感……。あの女性に会って居ないからか?)

 探索の最後、椅子が置かれた部屋の前まで来た。
 古びた扉を開け部屋に入ると、やはり部屋の丁度真ん中に椅子がポツンと置いてある。
 しかし、誰かが座っている気配がない。いや元々、椅子しか無いのだから座っている気配の方が変なのかもしれない。そう思って居ると、本当の違和感の正体に気づいた。

(あれ? いつもは無意識での行動だったのに、今日は全て思考が出来ている……)

 明らかに自分の意思で行動し探索をしていたのだ。林の中は踏み入れてはいけない、土砂が崩れた場所やデカい水たまりがあって危険。平地も危ない目に会うから行かない。廃墟探索の際は二階の荒れまくった部屋だけは入ってはダメ、各部屋の確認をしたら、真っすぐにこの部屋に向かう事。

(あっ、そっか。あの黒いワンピースの女性は危ないスポットに先回りをして教えてくれて居たんじゃないだろうか……?)

 それに気づいてから椅子に近づく。ふと視線を下にやると、椅子の上に前までは無かった、ノート端を雑にちぎった紙が置いてあった。
 何も書かれていない。ただのノートの切れ端。でも、僕にはこう書かれているという感覚がある。分かる。文字は無いけど読める。

『アナタはいつか此処に来る。』

 黒いワンピースを着た女性からの僕へのメッセージだ。

 この日、夢から覚めた僕は泣いていた。何か大事なモノを失った喪失感だけが胸に残っている。何故、淋しいという感情があったのかは、正直な話、解らなかった。

 ――今の僕はそこそこ、いい歳のおっさんになったのだが、この当時の体験は今でも鮮明に覚えている。
 この話の後、当然、僕は中学二年、三年。高校、社会人と歳を重ねる事になるのだけれども、夢で死神? みたいなのに追いかけられたり、霊に物理攻撃? をしてみたりと、この話に出てくる黒いワンピースの女性が『以後、10年以上』も出てくると言う続きがある。
 しかしながら、今回は文字数の関係で此処までにして、次の機会、後編にて追記しようと思う。
 お時間を割いてのご拝読、ありがとうございます。

 

得点

評価者

怖さ鋭さ新しさユーモアさ意外さ合計点
毛利嵩志101010101050
大赤見ノヴ141515151574
吉田猛々171715161479
合計4142404139203

 

書評:毛利嵩志
まさかの前後編というスタイル。どうしても全体が揃わないと、部分的な評価の良し悪しを定めることができないため、現時点では基本点とさせていただきます。

書評:大赤見ノヴ
とっつき易い文面で、それでいて丁寧に描かれる怪異の日々。非常に素晴らしいんですが…いかんせん大会なので前編だけだと加点しずらいです。ただ、一つの作品として前編後編合わせた1本を朗読してみたいなと思いました。

書評:吉田猛々
実際の出来事から時間を経ての夢、キーとなるであろう黒いワンピースの女性。文中で「あれ、雨降ってたっけ?」と、登場人物達と同じ反応をする位、引き込まれる自分がいました。非常に読みやすい語り口で構成されており、「最後まで読みたかった!」と思う内容でした。編を分けた事により減点はしましたが、投稿グランプリという枠組みでなくとも、個人的に後編を楽しみにしています。