今から36年前、私が中学生の頃に起こった出来事。
東北地方Y県とМ県の県境辺りの田舎町にT中学校がある、田舎といっても第二次ベビーブームの世代なので中学校の総人数は300名以上、各学年は3クラスづつと、かなり賑やかな学生生活を送る事になる、T中学校はABC Dと四つの小学校の学区が統合された中学校で通学には徒歩、自転車、バスまたは電車を活用して通学する、位置的にA地区とB地区は山間部含む農業地帯、D地区は工業地帯、C地区は商業施設が展開し中学校もC地区内にあるという構図。
私(タケ)は幼馴染みのケンゴ、フミヤ、カッツんの4人で自転車通学、同じクラスになったシンとミユキはB学区だが通学路が途中まで同じ道だったので 下校時には6人一緒に帰るようになっていた、中学生活もだいぶ慣れた頃クラスで妙な噂を聞くようになる、内容はいわゆる怪談話。
「この学校の7不思議知ってる?」
「この学校の7不思議って変だよね」
「トイレのミー子さんだから?」
「違うって!7個無いんでしょ?」
「7個目は学校じゃないらしいよ」
「7個目?A地区とB地区のあの話しじゃないの?」
「お地蔵さんの話し?」
「学校の7不思議」は何処の地方にもありそうな内容だったしかし我々の学校にしか存在しない
7個目の怪談となると話は違う、私にはその7個目の怪談の「お地蔵様」に心当たりがあった。
これは私の祖父から聞いた話。
祖父は第二次大戦へ出征し、敗戦後フィリピンで捕虜になりながらも生還したのだと聞かされた事があった、そんな祖父が「怖い体験」として一度だけ話してくれた話がある、私が小学4〜5年生の頃だったと記憶している。
自宅のリビングでお喋りをしていた時、「タケ坊はどんな遊びをしてる?」と聞かれ「友だちとゲームしたり、釣りをしたり、虫取りに山にも行くよ」と答えた。
「なぁタケ坊や…山で遊ぶ時には気をづげねぇどな」と私の肩に左手を乗せ一定のリズムでポン、ポン、と私の肩を軽く叩きながら語る祖父。「オラほうの村(A地区)とあっちさ村(B地区)の真ん中に太い道路があっぺ?」県道◯線の事だ。
「あれはじぃちゃんが何歳ぐれぇだっげな?12歳とかそん位ぇだったが、隣村の友だちが突然居ねぐなってな、オラほうの村の大人だぢも総出で探しまわったんだげっど結局見つからずじまいでさ、そん子の親が言うには、夜中に物音がするので起きて見たら息子が居ねぐなってたってよ、神隠しでね〜が!?とか言い出す奴も居たけど、去年は別の家の娘っ子も居ねぐなったべ!ってさ、人さらいとか、神隠しとか、家出とか、色んな説が出たけんど、本人が見つからんから何も言えんべ?そんなこんなで結局友達が8人居ねぐなったのな」8人!?
「そん中の一人にオラほうの村の女の子が居でさ、夜中に娘の姿が見えね!となって親は近所中に声掛けて手当たり次第探し回ったと、そすたらな…オラほうの村から町さ行ぐ本道の山の斜面に、寝巻き姿のまま、仰向けで大の字になってて…両目を見開いたまんまの状態でよぉ…Mちゃんって名前のめんこい子だったんだぁ……それがあんな死に方するなんてよぉ…他にも1人、男の子が本道沿いの川に突っ伏した状態で発見されてな、そこの親とМちゃんの親がもしかすて?って話があってな、居なくなる数日前からその子らが山の中で変な物を見た 、その夢を見るって言ってたんだと」
『どんな夢?変な物って何?』
「2人とも山ん中で黒いお地蔵様を見たんだと、行方不明になるまでの間、毎晩夢にそのお地蔵様が出てきてたど家族に相談してたらしいんだ」
『山にあったお地蔵様を見たんじゃないの?』
「いんや、本道沿いには一つもあらんよ、まして黒い地蔵様なんて物は見たこともなかった」
『じいちゃん…も見たの?』
「ありゃぁ見た内に入るんかのぉ…一度それらしいのに出くわしたって言った方がいいがな…Мちゃんが死んだ年の秋頃な、うちで取れた米を町に持って行ぐごどなって、自転車の荷台さ米袋いっぺぇ結わえつけられでよ、舎弟(弟)だち2人も連れで自転車をヒーコラ言いながら引いて町に行ぐわげよ米を渡し終わるとな、今度は醤油のビンやら日用品やら便所紙やら、自転車さ乗せられて帰って来んのさ、あっこの真ん中ら辺さ、細い川が流れてで石橋あんの知ってるがなぁ?そこまで来た時さ目線の先のずーと上の方の斜面が何かボンヤリ明るくなってで、何だべ?って。 見てると段々と大きくハッキリしてきて…白ぐボンヤリしたモヤの中に子どもの身の丈ぐれの地蔵様が浮かんでてな…咄嗟に見たらダメだと思ってよ!口がら!
デマカセに『野良犬さ出だがら走れ!!』って叫んで舎弟だちど一目散に逃げで来たんだ、家さ着いて舎弟だぢが親さ泣きづでだなぁ」『そのお地蔵様って…』
「ああ、そん時は怖くて気づかんかったけんど、ありゃぁMちゃんたちの見たっちゅう、黒い地蔵様ど同じだべなぁ…」
私たち6人は夏休みに入っても、プールや、宿題合宿などといってほぼ毎日顔を合わせていた、互いの趣味に付き合う時は言い出しっぺの家に集まって1日中遊ぶという有意義な夏休みを過ごしていた、フミヤの家に集まりファミコンをしている時
「学校の7不思議って聞いたことある?」と誰かが言った。
その時の会話はこんな感じだった。
「7個目の話しの事?」
「それAB地区にまつわるって話しだよね」
「お地蔵様が何とかって話?」
「そうそう、おじいちゃんがお地蔵様の怪談って言ってたよ〜」とミユキ。
この当時はTVであなたの知らない世界や心霊番組など頻繁に放送していたし、学校行事に肝試しがあったくらい心霊に距離が近かったので、信じる信じないは別にして「怖い話し」は当たり前の話題だった。私は当時心霊に興味はあったものの説明の出来ない怖い現象であると捉えていたので話題を変えたくなり強引にこう言った。
『うちのじいちゃんが子供の頃の話しらしいよ、A地区の外周りの道で子どもの行方不明が相次いだって聞いたよ、7不思議でも怪談でもないよ。』
「じゃあさ、あの道で誘拐とかあったのか?神隠しとか?」カッツん特有の勝ち気な言い方。
『分かんないけどさ、学校の7不思議なんて元々無くても無理やり7個作ろうとするから近所の事件とかまで数えたりするんじゃないの?』
その時は私の言葉でそんな事もあるか、という雰囲気になった。
その日の帰り道ミユキが小声で話しかけてきた「ねぇB地区の外周りって実は怖いの知ってる?」それは初耳だった、ミユキが言うには町からB地区へ続く外周りはB地区に入る手前にトンネルがあるらしい、距離は50メートル程度のトンネルで軽トラックがぎりぎり1台通れる程、ポツンポツンと電灯が点いているがコンクリートにシミが浮き出てて雰囲気は心霊スポット、何よりトンネルの真上が火葬場なのだ。
帰り道にここを通る際はシンと2人で帰るのが暗黙の約束になっているという。
「実は昨日ね…」ミユキが言いかけたところで、前を走っていたシンとケンゴが「置いてくぞー!」と声をかけてきたのでその続きを聞くことは出来なかった。
…ミユキの訃報が届いたのはそれから4日後だった。
ミユキには2つ歳上のお姉さんがいて両親との4人暮らしだった、その日は夏休みでいつもの様にシンと2人で遊びに行くと家を出て19時前には帰宅していたという。
その日の就寝前にミユキはお姉さんにこんな話しをしていたらしい。
「昨日の帰り道に変な物をみた…」
「何を見たの?」姉の問に
「火葬トンネルに入る前のところで…多分、見ちゃいけないもの…」
「何それ?もしかして幽霊とか?」
翌朝ミユキは姉の部屋に泣きながら入ってきて「夢に出てきた!」と叫んだという。
「黒いお地蔵様が夢に出てくる! お地蔵様が近づいて来て怖い!」「私何もしてないのに!」
亡くなる前日の朝も同じ事を言っていたらしい。
ミユキの葬儀が終って数日後お姉さんが私たち5人に聞かせてくれた話だった。
私たちは2年生になっても5人で行動していた、 ある日の休み時間 「タケ今度の日曜はヒマ?」とケンゴが声をかけてきた、次の日曜に弟と一緒に町に行かないか?という、たまたま日曜日は父と釣りに行くことになっていたので断った。
「ビックリマンのレアシールが出る店があるんだよ!」
初夏の日曜日、ケンゴは弟を連れて町へ向かった、自転車を走らせ外周りの道をひた走る、お昼頃に例の駄菓子屋で買い物をして、C地区の同級生とバッタリ会って一緒にテーブルゲームをしていたらあっという間に夕方になっていたそうだ。
時間的にまだ明るいが外周りの道が暗くなるのはケンゴが予想したよりはるかに早かった、真っ暗ではないものの自転車のダイナモ電灯がなければ道のクボミも見えないほどで、弟はだいぶ後ろを走っていた「にいちゃん待って〜」と叫んでいる、道中の真ん中辺りにある石橋付近で弟が追いつくのを待つことにした。
「にいちゃんそこに居るの?」「早く帰るぞ、行くぞ〜!」
弟の姿を確認してまた帰路につこうとすると弟がこんな一言を言った。
「にいちゃん、さっき山の中に○◯◯がいたよ」
「え!?」「ねぇ!にいちゃん黒いお地蔵様がいたんだってば!」
…その1週間後ケンゴの弟が行方不明になった。
ケンゴの弟が行方不明になってから1週間が経った頃、ケンゴの家に5人が集まった。
「地蔵様って言ってた、弟は山の斜面に黒い地蔵様が居たって言ってたんだ…ミユキもお地蔵様って言ってたって」ケンゴが続ける。
「あいつのお姉ちゃんが言ってたよな……ミユキが居なくなった日の朝あいつの部屋を開けたら居なくなってて、夜中のうちに家を出たらしいって……うちの弟も夜中に居なくなってる、玄関のカギが開いてて、でも靴はそのままあったから誘拐じゃないかって……警察が調べてるけど」
実際のところ中学生の私たちには手出し出来ない自体になっていた。
話に共通して出てくる「お地蔵様」の件も子供じみたオカルト的な考察しか出来ない。
『うちのじいちゃんも子供の頃、山で黒いお地蔵様を見かけたって話してた……お年寄りなら何か知ってるんじゃないかな?』
年配の人に聞く為のキーワードをいくつか決めて、聞き込みに行こうという事になった。
①「AB地区の山には何かあるのか?」
②「行方不明が起こったのはいつ頃から?」
③「黒いお地蔵様とは?」
聞き込み情報↓by.近所のお年寄り。
①「元々は1つの部落だった道路工事の時は大きい事故もあった、山中に何かのお社があった」
①「昔は年に一度、神主さんと村のお偉い方々が何かの御参りしてたようだ」
①「山の中に小さい神社みたいな社があった、道路工事の時罰当たりな業者が壊したんだ!」
②「昔から毎年子供がいなくなってた」
②「50年も前に友達が2人居なくなった、神隠しの噂があった」
②「人が居なくなるのは昔からだ、親は祟りとか呪いとか言ってた!」
③「噂で聞いた事ある程度、黒い地蔵様?見たことない」
③「居なくなった子が山ん中でお地蔵様をみたって聞いた、黒い?それは知らない」
③「黒い?さぁ?あの山さお地蔵様は無かったはず」
情報集めの最中シンは親戚のつてを使ってある人物に行きついた、Y県在住の斉藤さんという方でなんと「霊能者」らしい、シンが内容を話したところ「一度君たちに会って直接話がしたい」と言われ私たちに相談してきたのだ。
この人物の登場で今まで私たちが口に出せなかった言葉が形を成す。
「この行方不明事件は心霊現象なのか?」
「その人が会いたいって、わざわざY県まで行くのかよ?」カッツんが口にする。
シンはうなずきこう言った。
「電話で喋ったけど、斉藤さんって普通の感じじゃなかったよ、話してるこっちの状況が見えてる様な…こっちが話す前に内容を当てられるっていうか」
「そういうのってさ、すごく高いんじゃないの?」フミヤが口にした。
「お金は要らないって言ってた、本来ならその山を実際に見てみたいって言ってくれたんだけど、斉藤さんの事情で長く家を空けられないんだって、だから君たちが来てくれる事は出来る?って言われてさ、あ!地図があると助かるって言ってたな」
2週間後の日曜日、始発の次の電車に乗り中学生の初めての小旅行に出発した。
1時間30分程でY県へ到着し住所をタクシーの運転手さんへ伝えて駅から15分ほどで斉藤さんの自宅に着いた。
閑静な住宅地の中にある平凡な平屋の一戸建てで玄関のチャイムを押すと40歳中頃の女性が現れた、化粧っ気はなく優しそうな表情が印象的だった。
「遠くまで来てくれてありがとうね」
斉藤さんはケンゴの顔をジッと見つめてこう語る。
「お友達の女の子そして…弟さんの件は辛いわね」
ケンゴは一瞬目を丸くしたがシンに目を向け「お前、電話で弟の事も話したの?」
少しトゲのある言い方だった、だがシンは
「…言ってないよ」
皆が沈黙する
「とにかく中に入って、狭いけどね」
斉藤さんは笑顔を見せ私たちを家へ招き入れてくれた、畳敷の座敷のちゃぶ台に人数分の麦茶が用意してあった、挨拶を終えるとおもむろに斉藤さんが口を開く。
「さてと、シン君からお電話で聞いた話だけど、M県の地図は持ってきてもらえたかしら?」
シンが地図を開きながら差し出す、AB地区、CD地区、県道◯線に分かり易くマーカーがしてある、さすがシンだ。
斉藤さんは左の掌を地図にかざしながらジッと視線を地図に落とす。
A地区からC地区に行く山道を指でなぞりながらこう切り出した。
「この付近は闇が深い様ね…この真ん中の道は…県道かな?」
私が答える
『はい、県道◯線です、私の祖父が子供の頃は無かった道らしいです。』
斉藤さんはふぅむと答え更に地図を見つめる。
「この道を通す時に事故があったのね、沢山の方が亡くなってる。その工事を始める前に行なった事が…良くない…良くない…良くない」
シンはどこまで説明したのか? 斉藤さんには霊能力で当時の情景が視えているのだろうか?
フミヤはともかくケンゴとカッツんも固唾を飲んでいる。
「あのね……君たちは因習って聞いた事あるかな? 例えば昔からあるその地域の習慣みたいものなんだけどね」
「あぁ、そうか…口減らしねぇ…あぁ、ずうっと古い因縁があるのねぇ…井戸があって…お社もあったのね」
斉藤さんが言葉を続けようとするとフミヤがたまらず声を上げた。
「ちょ、ちょっと斉藤さん!?何か見えてるんですか?さっきから言ってる意味が分からないんですけど!」
「ああ、ごめんなさいね、えーと、私は霊能者と言われることがあるんだけど、よくTVに出演してる◯◯愛子さんの様な能力はないのよ。自分で自覚しているのは、土地の記憶を読み取ったり、現場に行って当時の状況を脳裏に投影する位しか出来ないの、その情景を言葉にして今君たちにしている様に人に説明するのね」
「普段から霊は視えているけど成仏を望んでない霊の改善供養は出来ないし、まして悪霊や魔物の類を祓う事は出来ないわ、私のはそういう能力なの。」
ここから2時間程、斉藤さんが私たちに質問し私たちが答える時間が続いた。
斉藤さんに視えていたのは私たちの地域の歴史。
あの地域周辺では「口減らし」と呼ばれる風習があったらしい、またその他にも因習と呼ばれる「生け贄」に似た儀式が行われていたと思われる、これはあくまでも斉藤さんに視えた映像と、私たちの情報を繋ぎ合わせた考察に過ぎないので、斉藤さんも独自で調べて情報を集めるので君たちは山には絶対に近付かないで!と念を押された。
帰りの電車の中でシンが言った「正直なところ俺たちじゃ何も出来ないよ…だろ?斉藤さんは霊媒師じゃないって言ってたし、それこそ◯◯愛子さんレベルの案件じゃないのか?……ソレを見ただけで連れて行かれちゃうなんてさ、もはや祟りじゃん」
確かにその通りだ、たかが中学生の私たちは土地の歴史を調べる位しか出来ず、もしも怪異に行き合ったら何も出来ずただただ祟りを受けるだけだった、帰り際に斉藤さんの言ってくれた一言を待つしかない。「私なりに調べてみて何か分かったら必ず君たちに連絡するから」
翌年の春、私たちは中学3年生になっていた、斉藤さんとは主にシンが連絡をとっていて1ヶ月に一度のペースで報告がある、 斉藤さんが集めた情報がシンから私たちに伝えられるといった具合だ 。
この頃はカッツんの家に集まりファミコンをするのが恒例になっていて、週末はそのまま泊まる事もありこの日もそうだった。
「よっ、お邪魔します、あれ?2人だけか」
『フミヤは今日は来れないってさ、ケンゴは夕飯食べたら来るって』
「そっか…まぁフミヤは怖がるから丁度良いかも、斉藤さんと電話してて色々と教えてもらったから皆に話そうと思って」
しばらくゲームで時間をつぶしてるとケンゴが買い物袋いっぱいにお菓子とジュースを買い込んで部屋にやって来た。「シンそろそろ斉藤さんの話を聞かせてくれよ?」頃合い良しとカッツんが促す。
「うん、昨晩、斉藤さんと電話で話した内容を今まで聞いた分とまとめてみたんだ」
・この地域ではその昔、飢饉や水害が起こると願をかけるため生贄を供える因習があり贄を差し出す習慣があった、場所は後に井戸が掘られる場所である。
・AB地区の山は元々1つの山で、山頂辺りに井戸があったらしい、山頂の井戸は水が湧いてる物ではなくただの縦穴。
・井戸は口減らしの為、幼い子供を投げ込む為に使われていた「子捨て井戸」と呼ばれていた。
・井戸の目の前にお社が建ててあり、その中に背の高いお地蔵様が祀られていた。
恐らく犠牲にした子供の供養の為。
後に供養塔も近くに建てられていた様だ。
お地蔵様は普通の石だったが時間の経過と共に何故か黒ずんでいき真っ黒になってしまった。
その風貌を見た村人がお社に「玄地蔵」(くろじぞう)と名を彫った。
……ここからが怖いぞシンが念を押す。
・件の黒いお地蔵様は実体を持たない怨念の集合体であり、弱い霊体を取込み続け現在は魔物化している為、除霊や浄霊などは不可能である。
この年の夏休みカッツんは釣りと虫取りを再開した、カッツんの自宅は山に隣接しており、裏庭が山の裾のなのだ、この日は山というか森に深く入りオオクワガタを数匹発見した時点で辺りが暗くなっていることに気づいた、急いで家へ向かうが足元も見えづらくなって思うように進めない、フッと気配を感じて来た道を振り返ると山の上の方にぼんやりとした白い灯が見えたという。
この日の夜から私たちはカッツんの家に毎晩泊まることになった、彼が見たものはやはり「黒いお地蔵様」だった、皆がカッツん宅に集まり
『夜中に家を出るのが、今までの行方不明者の行動なら夜通し俺たちが見張って出歩かない様にするしかないよな』
ケンゴは朝方に起きて見張る役になりベットですでに寝ていた。
三日目の夜、夜中の2:00頃眠気がきて、頭を持ち上げ様とした時すでに異変が起こっていた。身体が動かない!金縛り??目以外全身が硬直している、目線の先にはフミヤが寝ているのが見える。
シンは右横、ケンゴは左後ろの配置だったはず……!?カッツんは?シンの右側にいたはずなので私の位置から目線に入るはずなのに居ない!
金縛りを解こうとお経を口にしたが効果はなく意識が遠のき気づくとカーテンの向こうが明るくなっていた、時間は5時前、身体が動いたのですぐに3人を起こす。
「カッツんどこだ?!」朝方に他人の家の部屋をかたっ端から開け放し友人を探す、異常な物音にカッツんの両親が起きてきたが私たちの説明を受け、親父さんはみるみる顔色が変わっていった「お前ら来い!車で探す!クソ!」親父さんは アクセルを踏み込み、まるで行き先が分かっていたかのようにA地区から外回りの山道に入り込んだ、小川のある場所まで来ると車を停める。「頼むよ……やめてくれよ~~」親父さんは一人で呟きながら小川へ降りていく。
…カッツんは小川に架かる石橋から 下流に30mほど離れた場所にいた、両手を左右に広げた状態でうつ伏せに倒れていた……すでに息をしていなかった。
それから間もなくサイレンが聞こえてきた親父さんは救急隊員が来るまでカッツんのそばに座り込んだままだった。
夏休みが終わり新学期のある日、シンの家に手紙が届いた。
「あのさ、斉藤さんの息子さんから手紙が届いたんだけど」シンが開封された封筒を私たちに渡してきた『シンはもう読んだのか?』シンがうなずく。
~以下手紙の内容~
こんにちは。
皆さんお元気でしょうか?
君たちに霊障がないように毎日お祈りしていますが、遠く離れているため毎月一度シン君に連絡を取って様子を聞くだけになってしまって御免なさいね。
手紙を書いたのは今までに分かった事の詳細を書き留めておく為と、もしも私と連絡が取れなくなった場合に備えて。
まず、あなたたちの町で起こる事象は「祟り」の類です。
以下、霊視で視えた情報を筆記しました。
・この地域の因習は1700年代頃からのもの、当時は国内で災害や飢饉が多く起こった年代。
・その災害や飢饉を天の怒りと考えた人々は神に「お供え」として生贄を捧げていた様です。
・場所はAB地区の山の山頂。
・1800年代になると天保大飢饉と呼ばれる飢饉が発生し「口減らし」の習慣が出来たようです。
・地域の人々は山中へ子共やお年寄りなどを置き去りにしましたが帰って来る者が後を絶たず、方法を考えた結果、以前祭壇のあった場所へ井戸のような穴を掘りその穴を使用する事にしたそうです。
・供養の為に井戸の近くにお地蔵様を祀りましたが、すでに生け贄として差し出された御霊は忘れられていたみたいです。
・怨念と化した霊の集合体が拠りどころに選んだのが目の前にあったお地蔵様。
・後に真っ黒に変色した様を見て「玄地蔵」と呼ばれた。
・行方不明になる者はその家系の先祖に因縁がある、口減らしを行なった、生贄を出す際に協力したなど、家系の業を辿ることが難しい為、次にどこの家で犠牲者が出るかは分からない。
怖がらせるためにこれを書いたわけではないの、何故かこの怨霊はあの山を出れない様なので山に踏み入れなければ出くわす可能性が減るということを君たちに伝えたかったの、近いうちに現地へ調査に行くつもりですその時に元気な君たちとに会えるように祈っています。
1988年〇月〇日 斉藤 〇〇子
『やった!斉藤さんがこっちに来るって!』私の言葉を遮ってシンが話し出した
「手紙は一昨日届いたんだけど昨夜息子さんから電話がきてさ、斉藤さんから(自分に何かあったらこの手紙を出してほしい)って頼まれてたらしい…」
シンは夕刊の新聞の切り抜きを出して見せた、日付は三日前になっている。
【Y県在住の主婦、M県○○山中で山菜採りの途中心臓発作により死亡しているのが発見された】
「おい!嘘だろ!?」ケンゴ
「これ斉藤さんの事なの!?」フミヤ
『お、おいシン?』
「息子さんが言うには『M県で起こっていた真相を確かめに行く』と言い残して家を出たんだって、その二日後M県警から連絡がきて身元を確認したって……」
葬儀は終わっていたが私たちは斉藤さんの自宅に向かった、そして息子さんと会う事が出来た、息子さんは20代中頃の真面目そうな雰囲気の方だった。
「母はいつも人の為に何かやっていてね、君たちと連絡をとり始めたのは去年からだったかな?母は去年の夏辺りから案件を一つも受けなくなっててね、毎回お断りしてたから変だなとは感じてたんだ、君たちの案件に集中したかったんだね」
「あの……怒ってないんですか?」フミヤが恐る恐る聞いた。
「君たちは困ってたんだろ?だから母を尋ねて来た、母は困っている人の頼みを断る人ではないんだよ、自分の能力が人助けになるのなら力を使う事を惜しまない、それが母の信条だったんだ」帰り際、息子さんからこう言われた。
「いいかい、僕たちは母の様な能力者とは違う、興味本位や好奇心なんかで関わってはいけないものは存在する、金輪際この件を蒸し返したり首を突っ込まない様に生活してくれ」
1988年の夏の終り、この日以来私たちはこの山で起こった出来事に触れる事を止めた。
何一つ解決していないし祟りの原因も立証されず分からない事だらけ、ただただ私たちは祟りに触れないように生きて行くことを選んだ。
二人の友人と友人の弟、そして斉藤さんを失いやり切りれない喪失感を抱いたまま時は流れた、忘れようとしても記憶の片隅に残る記憶、今回文章にまとめるまで忘れていた部分も多かった、だがその記憶を呼び覚ますキッカケがあった……それは今年から中学生になった息子の一言。
「父さん!学校で聞いたんだけどさ!黒いお地蔵様って知ってる?」