その日、団地に住むAさんは、
夕方になり団地内の公園で遊ぶ息子を迎えにいった
団地の真ん中にポツリと存在する公園は、
西日によって、ちょうど団地の影となり、
夕方の早い段階ではまだ街灯が点いていないため、
周囲の明るさによって、その公園の闇が際立ち、
まさに逢魔が時といったような光景だった
Aさんが、公園に近づくと、
キコキコと公園内のブランコが揺れる音に混じって
息子の泣き声のような声が聞こえてきた
不安に思って息子の名を呼びながら駆け出すと、
公園の方から
「ママぁ、ママぁ、お兄ちゃんに、ブランコ取られた~」
と泣き叫ぶ我が息子の声が聞こえてきた
Aさんが、公園に着き、
その暗闇の中から泣き声の方、ブランコの方を見ると、
揺れるブランコと、泣いている息子が見えた
息子がいることに、ホッとしたのもつかのま、息子が、
赤い色の液体でグショグショに濡れているのがわかった
そして、Aさんは「キャー」という
大きな叫び声上げて倒れてしまった
Aさんの悲鳴は団地内に響き渡り、公園内に住人が集まった
それからAさんではなく、ブランコの方を見て、誰かが叫んだ
「救急車だ。早く、もう手遅れかもしれんが早く」
キコキコと揺れていたのは、若い男性だった
若い男性から流れた体液がAさんの息子を濡らしていたのだった
Bさんは、仕事中不安だった
最近、妻の様子がおかしい
話しかけると驚いたり、何かに怯えるように震えたり、
急に走り出したり、奇行が見られるようになった
あんなことがあったばかりだから当然なのかもしれない
妻(正確には息子かもしれないが)が第一発見者となった、
自宅団地で自殺した男性は妻の高校の時の同級生だった
妻があの様子なので、深くは聞いてないが、
参列した妻の友人の話だと二人は付き合っていたとのことだった
そんな元カレが自宅前での自殺
二人に何があったのかは知らないが、もう10年近く前の話。
何で今更、しかも、わざわざウチの近くで
そう思わざるを得なかった
ここ数日間は、妻の錯乱した様子が気がかりで休みを取り、
妻の代わりに子育てや身の回りの整理をしていたが、
流石に、そう長くも休んではいられないので、
今日からは子供は日中は近くに住む実家の両親に預け、
妻には家でゆっくり休むように話した
1人で落ち着くことも大事だろうと思い決断し
妻も納得したのだが、何か言い知れぬ不安を感じていた
「すいません、休み明けすぐで申し訳ないですが、
今日は、17時フレックスで失礼します」
と上司に話す
上司にはここ最近の経緯を説明していたので、
「わかった。奥さんを大切になさい」
と許可がすぐ下りた
そして、実家へ息子を迎えに行き、帰宅する
おかしい、なぜ、真っ暗なんだ
もう19時近いというのに灯りもつけずに…
先日、処方してもらった睡眠薬で寝ているのか?
Bさんは言い知れぬ不安を抱えながら、玄関のドアを開ける
ドアを開けるとムアッとした空気とともに異臭が立ち込める
なんだ、この臭いは、と思いながら玄関の灯りをつける
すると、ダイニングキッチンのドアノブを使って
首をくくって倒れている、妻がいた
「ごめんね、二人を急に呼び出して」
カフェに着くなり、先輩がこっちこっちと私たちを呼ぶ
「二人ともアイスコーヒーでいいよね」
店員を呼び、私たちの分の注文をする
「どうしたんですか、急に、しかも僕たち二人を呼び出すなんて
何かあったんですか?」
彼が先輩に質問する。
「先輩、最近、アルバイトが忙しいって言って、
サークルに顔だしてなかったじゃないですか?
はっ!もしかして、私たちに先輩の仕事を手伝えと!」
「それは嫌だなぁ、先輩のバイトしてる雑誌、
スクープ絡みの裁判で大変そうじゃないですか」
「違う、違う、勝手に二人で話を進めないで、
ただ、二人に手伝ってほしいというか、
お願いしたいのは確かなんだけど」
「ほら、やっぱり」
「ええ、なんかあったら私たちに頼むのやめてくださいよー」
先輩はすまなそうに私たちに頭を下げる
とはいえ、そんな先輩の顔を見るのは
何度も見ているので辟易している
先輩は、去年から雑誌のライターとして仕事をしているので、
仕事の情報収集やアンケート、はたまた体験取材の際に、
私たち含むサークルの後輩たちに手伝いを頼むことが多々ある
先日なんかは、怪しいセミナーの勧誘が
炊き出しで行われているというので、
「女性の私じゃリアリティが足りないから、上手く潜入できないのよ」
ということで、彼が、東京各所で行われている
炊き出しに参加させられていた
彼曰く
「都内中の炊き出しに参加したけど、
意外と数が多くて、体重が3キロ太ったよ」
とのことだった
「ちょっと、先輩ライターさんから聞いた話で
気になったことがあってね
君たちにも、ぜひ聞いて欲しいんだ」
「先輩、その話長くなります?
そして本当に聞くだけですか?」
「うーん、最初に話したけど、少しだけ、お願いもある」
「ちょっと待ってください、じゃあ、
パパに遅れそうって連絡だけしておきますね」
そして私はいったんカフェを出てパパに連絡したあと、
もう一度席に着いた
「じゃあ、さっそく話していい?」
「はい」
私と彼は返事をした。
「先輩から聞いたのは、今、この地区、この大学の近隣で
非常に関係が近い人同士による自殺の連鎖が続いているっていうのよ
私が働いている雑誌の都合上、色んな事件の情報が入ってくるの
それで、先輩のところには主に変死事件があると、
ネタ元から情報提供されるようになってるんだけど、
ここ最近、入ってきた自殺者の中に「夫婦」で
それぞれ別の日に自殺したという件があって、
気になって調べたら、
その夫婦の周辺で自殺が相次いでいることがわかったんだ」
Cさんは、テレビのニュースを見て驚いていた
主婦の自殺のニュースが流れていた
その主婦の名前と顔を見たところ、
学生時代にガールズバーで
バイトしていた頃の同僚に間違いなかった
確か、あの子と、あの客とで、できちゃった結婚したのよね
どこかの商社マンで、いろんな子を指名しては、
巧みな話術と金払いの良さで、アフターしていた男
その、さわやかな外見に何人の女性が騙されてきたんだろうか?
私もその一人だったわけだけど
そう思いながら、仕事に行く準備をする
あの頃の若い私を思い出し、身を引き締める
今日は、あの人と同伴の日だったかしら
スマホのスケジュール表を確認する
すると、ピンポーンと、インターフォンの音がする
通販を頼んでいたかしら?
玄関のカメラを確認する
「ひっ」と思わず悲鳴が漏れる
そこに立っていたのは、
先ほど自殺したAさんの旦那である、あの客だった
「なんで?この家を?」
一瞬パニックになる
すると、ピンポーンともう一度インターフォンが鳴る
カメラ前には、あの精悍なマスクはすでになく
目にクマができ、生気をなくした顔だった
そして、カメラ前から
こちらがカメラを見ているのがわかったかのか、
薄気味悪くニヤっと笑うと
どこからか取り出した包丁で
グサりっ
自分の首を刺して掻き切った
カメラ前に鮮血が迸る
恐怖と今の映像にパニックになりつつも、まずは警察へ連絡した
以前、別のキャバクラで勤務していたときに
ストーカー被害の担当してもらっていた婦警さんにすぐに連絡した
「刑事さん、今、私の家の前で死んだんです」
婦警さんは落ち着くように促し、改めて深呼吸して状況を説明した
すると婦警さんは
「Cさん、あとで取り調べと言うか事情は説明してもらいに伺いますが、
まずは私の方で救急車の手配や捜査課への連絡はします
もしかしたら玄関であればCさん以外の誰かが
通報しているかもしれないのでその辺も含めて確認します
一人では不安だと思いますので私も向かいますから、
できるだけ落ち着いてください
私が向かうまで少し時間がかかるかもしれないので、
その間に誰か信頼できる人がいれば、その人に相談してみてください」
婦警さんは以前のこともあったので丁寧に対応してくれた。
とはいえ、言い知れぬ不安を感じている
目の前で人が首を切った
しかも知っている人が
怖い
そして、彼に電話した
繋がってすぐ、声の震えを察したのか、
落ち着くように諭し、言葉を聞いてくれた
彼は、会社を早退して向かうから少しだけ待っていてということだった
彼の声で落ち着いたのか周りの音が耳に入るようになる
周りから悲鳴や、救急車、救急車!、いや警察に連絡を!
と叫ぶ声や悲鳴、怒鳴り声が聞こえる
そして遠くから、救急車やパトカーのサイレンが鳴り響いている
ベッドの上で布団にくるまりながらやり過ごしていると、婦警さんから電話があった、
玄関前に着きましたが玄関ドアの前に男性が倒れているので、
男性を運ぶまで待ってほしいとのことだった
それでも婦警さんが近くにいるのとこうして電話で話せるのは安心する
しばらくして男性を運び終わって、捜査の準備が整ったらしく、
玄関ドアを開けてよいと連絡が入った
「Cさん、大丈夫ですか?」
婦警さんと、中年のサラリーマンのようなスーツを着た人が入ってきた
「婦警さん」
思わず泣きながら婦警さんの胸に飛び込んでしまう
「もう大丈夫ですよ。落ち着いてくださいね。」
婦警さんが優しく声をかけてくれる横で、
中年のサラリーマンが何の表情も読み取れない顔で私を見ている
「ありがとうございます。落ち着きました」
「良かった」
「婦警さん、ちなみに一緒にいる中年の方は捜査を担当してくれる私服警官の方ですか?」
すると婦警さんは、
「外にいる方たちですか?」と不思議そうに答えを返した
「いえ、婦警さんの後ろにいる方ですが、茶色いスーツの…」
と話そうとすると、そのサラリーマンは消えてしまった
婦警さんは
「以前のストーカー被害の時にもあった、ショック状態の幻覚/幻視が発症したかもしれないわね」
と言うと、外に出て捜査官と思しき人に話に行った
そして戻ってくると
「Cさん、本当はすぐにでも警察署で聴きたいことがあるんだけど、
以前の事件のこともあるから、問題なければ今日の夕方、落ち着いてからにしましょう
夕方であれば、私も取り調べに立ち会ってあげられるから、
Cさん、大丈夫かしら」
事件が起きたのだからしょうがない、ハイと応えた
すると婦警さんが
「ちょうどお友達も来たようですよ
落ち着くまで二人で過ごしたらどうかしら」
と視線を玄関前に移すと
彼が来てくれたようだった
そして彼に経過を説明して落ち着くまで彼と過ごしたのだった
「実は、先輩のライターが夫婦の自殺を調べたところ、
奥さんは自殺する直前に自殺者を目撃しているんだけど、
その目撃した人と高校の同級生だったらしいのよ
そして、旦那さんが自殺した時の第一発見者の女性、
彼女は、夫婦の奥さんと昔、一緒にバイトしていたらしいの
そして旦那さんは、そのバイト先のお客さん
奥さんと、発見者の女性は旦那さんを巡って
何らかのトラブルがあったらしいんだけど、
とはいえ、関係が近い同士よね
そして、彼女が相談していた相手、彼氏っていうのが、
Dなのよ」
「Dって?、あのDさんですか?」
「先輩の元カレですよね。
一度、お会いしたことがある」
「そう、あのDだったの
そして、重要なのは、二人にお願いしたいのはここから先の話なのよ
実はCさんは、事件のあった数日後に自殺したの」
「え!?」
「も、もしかして、Dさんの前でですか?」
「そうなのよ
実はDからも、その直前に相談を受けていて、
彼女がおかしなものが見える、というのと、
彼女の周りで変な事件が起きているというので調べてほしいと、
ちょうど、この事件のことを調べてたのもあって、
コンタクト取ろうと思ってたから、Cさんに会いに行こうと日程も決めたのね
Cさんとも電話で話したけど、自殺する素振りはなくって、
あくまでDの元カレではなく友達という形で話したから
同じ女性同士で相談できるのは安心するってことだったの
それで、Cさんが自宅マンションでDがマンションに来たタイミングで
目の前に落ちてきたんですって
飛び降り自殺で処理されたみたいだけど、そこでDも取り調べとか色々あって大変だったけど、
すぐにでも会いたいってことで、Dと話してきたの
そこで、Dからの話や、先輩が調べてる内容とか整理していくと
色々わかってきたんだけどね
そしたら実は、3日前、Dが死んじゃってさ」
「ええええええ」
先輩のあまりの軽い言いようもだが、あまりの展開に大きな声をあげてしまう
「も、もしかして、Dさんは、先輩の前でですか…」
「そう、家に帰ったら、私のキッチンの包丁で手首を切って死んでたわ」
「じゃあ、この法則、この連鎖でいえば、次は先輩じゃないですか…」
「いやぁ、キミは実にオカルト思考、思った通りの反応だ
でも、相談したいというか、お願いしたいのは、そのことなの」
「どういうことですか?」
驚きながらも恐怖に震える彼を放っておき、私が確認する
「たぶん、次のターゲットは私で、その次のターゲットも、なんとなくわかったんだ」
「もしかして、私たちのどちらか?というんじゃないでしょうね?」
先輩の性格と、これまでの近い関係性の連鎖という言葉からの推察
「いや違う、あなた達じゃないわ
そして、私の次の相手にはもう説明しているわ
一応、誰かは言わないでおくわ
もしかすると、何らかの行為によって法則が変わるかもしれないしね
そして私も今、どうにかして私で最後にならないか調査しているんだから
迂闊なことして最悪のケースにならないように頑張らないとね」
「まだ偶然の可能性も…ありますしね…」
彼が希望的観測を呟く
「まあね」
先輩は調査しているというが悟りきった表情をしている
この人の事だから、何かに気づいていてそれが無理なことを察知しているのかもしれない
「とはいえ、私が仮に自殺してしまったときのことを考えて
あなた達に、これまでのケースの調査結果や
私が体験している事象をまとめたノートを残してるんだわ
私が自殺したら、それを元にこの件の調査を引き継いで欲しいの
今の私の推測が正しければ、私の次のターゲットで終わるはず
あなた達は巻き込まれないはずだわ」
それから1週間後
先輩は自殺した
先輩は、今の彼である、E先輩の寝ている横で
取材用のボールペンで自分の腹を何度も何度も突き刺し
自分の腸を引きずり出し、E先輩の首にかけて亡くなっていたそうだ
そして先輩の最期の顔は狂ったような笑顔だったとのことだ
先輩の葬儀に参列したあと、E先輩が私たちのもとにやってきた
「明日、時間を作って欲しい」
私たちは頷き、大学のカフェで会うことにした
次の日、パパに送ってもらいカフェに着くと
E先輩と彼はすでについていて
テーブルにはノートが置かれていた
「彼女から聞いていたよ
君たちは調査を頼まれたんだろ」
「もしかして、先輩から次のターゲットには話していたと
聞いていたけど
それってEさんだったんですか」
「そうだ…」
「そうですか…」
「それで、君たちにノートを渡すように頼まれたので持ってきた。」
「これが先輩が調査をしたというノートですか?」
「そうだ、そして、先に読ませてもらったが、
これにはあいつなりの結論や、俺に対しての今後の対処が書いてあった。
おそらく、俺が何もしなければ、俺が死んで今回の連鎖は終わるだろうと。
いや、この先は、このノートを君たちに読んでもらって、君たちの判断を仰ごう」
そして私たちは先輩のノートを開いた
【自殺連鎖事件に関して】
これを他人が読んでいるということは私がすでに死んでいるからということだろう
彼や後輩達に託してはいるが、これ以上広がってないことを祈るばかりだ
今回の件について何点か疑問があったので記載する
・いつから始まっているのか?
・関係性が近いというのは具体的にはどのような関係性なのか?
・自殺するまでの間隔が長い人と短い人がいるがこれはなぜなのか?
・助かるすべはあるのか?
という点だ
まず、いつからかは調査した結果、わからないことがわかった
Aさんをきっかけに気になり調べ始めた先輩は、深堀りすればするほど、
かなりの期間まで遡ってしまったということだった
これだけ続いていてわからなかったのは、
本当に誰も気に留めなかったのか、それとも次の関係性という点のせいかもしれない
それで関係性という点だ
これは私の番になって、推測が出来た
そして次にEがターゲットになれば確定だった
それは、男女の関係になっていること
性行為という関係の有無に違いないと、推測をたてている
この自殺の連鎖は性行為のあった男女で繋がっている
私の男性経験は二人しかいない
DとEの二人だ
私を媒介にDとEに連鎖したのであれば確定だ
だから、ここ最近の関係性が夫婦や元カレ、元カノが続いたので気づくことができたが
その前は、合コンやナンパ、もしくは犯罪行為、1000人斬りと噂される芸人
といった感じで関係性がわからない偶然で処理されたケースも中に含まれていたから
連続性や関係性がわからなかったのかもしれない
またAさんのような例外ケースもありそうだ
Aさんの場合は子供が最初に発見している
しかし子供は死を認識していなかったのと、
子供を呼び水としてAさんを誘い出したとか色々考えられる
しかし、これに関しては正直、この現象の事例が少なすぎて検証できていない
ここはこれを読んでいるキミたちに調査を託したい
またターゲットの選定もよくわかっていない、
性行為を行った相手の中から、何らかの法則があるのか、
ランダムに選ばれるのか、など、わからない
が、性行為自体がキーになっているのは、私がEの前で自殺しているのであれば確定だ
自殺するまでの間隔についてだが
これは、自分の番になってわかった
Cさんが見たといい、Dが自殺する前に私に語っていた
中年のサラリーマンの存在
これが私の前にいる
そして私が存在を認知すると消える
つまり、このサラリーマンから逃げ続ければ、
認知し続ければ助かるのかもしれない
ただし、寝ているときにきたら終わりだ
出現する時間に関しての法則まではつかんでいない
最後に助かるすべに関して
私が死んだのであれば、ないのであろう
認知し続けるのも限界がある
そして、奴はいつ来るかもわからない
ただし、私が感染させて申し訳ないがEは私が初めてで経験は私しかないはずだ
(浮気をしてなければだが)
だから、すまないが
E
おとなしく死んで欲しい
キミが死ねば、この連鎖は終わるはずだ
もしかすると、キミが死んだ場所によっては、そこから感染するかもしれないが、
こればっかりはわからない
調査を後輩に依頼したが、本当は
自暴自棄になったEがソープランドや買春行為をしないよう、見張っていて欲しいんだ
幸い、後輩たちはお互い初めて同士と語っていた
彼らはお互い浮気するような関係性ではない
だから、そこに感染することはないし、閉じた関係こそがこの調査に適任だと考えた
死んだ私が言うのもおかしいが、これ以上感染させたくないんだ
しかし、もしこのノートがEや後輩以外に広まっていたら、
何らかのことがあったと思って
私たちを恨んでほしい
恨んだところで回避するすべはないが
以上
「Eさん……」
「わかっただろ、俺は死ぬらしい
実際、さっきまで君たちの後ろに中年のサラリーマンがいたんだ」
振り返ると、そこには誰もいなかった
「君たちには見えないだろう
あのサラリーマンは俺の意識をついてやってくるんだ
彼女は本当に凄いよ
こんな状態でここまで分析して、長い間逃げ続けたんだから
俺はもう限界に近いかもしれない」
「でも、先輩」
「わかってるさ、自暴自棄になってそういうことはしないさ
彼女が達観した気持ちが何となくわかる
逃れられないとわかると、かえって悟ってしまった感じがあるんだ」
E先輩の一言が重く響く
すると彼がその空気に耐えられなくなったのか、
「ちょっとトイレ」とトイレに向かう
するとE先輩も「俺もトイレに行くか」と二人で向かった
私はその間にパパにメールをする
「今日は遅くなりそう」
そして数分後、男子トイレの方が騒がしくなっていた
私の名を呼ぶ声が聞こえる
彼だ、彼が叫んでいる、
「救急車、救急者、早く!早く!
Eさんが大変なんです!」
私は慌てて駆け寄る
彼は私に目を向けると
「Eさんが自殺した!」
と叫んだ
Eさんは、男子トイレの水の中に自分の首を突っ込み溺死したのだった
彼も大きい方、Eさんも大きい方、それぞれ個室に入ったのだが、
しばらくするとEさんの方からゴボゴボと水を流すにはおかしい音が聞こえてきたそうだ
気になったが、まだ彼も終わっていなかったのでEさんの個室に向かえなかった
そして数分が経ち、彼が用を終え個室から出ると
Eさんの個室から明らかに異音がし、
個室から水があふれて外に漏れているのに気づき
個室の壁を昇り確認したということだった
しかし、ということは第一発見者は彼だ
つまり彼が感染したということか?
先輩の予想が外れたということなのか
彼は悲壮感を漂わせながら、私の疑念に気づいたのか言葉を紡いだ
「ごめんな
たしかに女性経験は、僕は君しかなかった
だけど、君と付き合う前、
僕はEさんと1回だけあるんだ…
先輩も僕らの関係は知らない
そしてEさんはわからないが、
僕は先輩の記述を読んで、さすがに同性同士の経験は
カウント外だろうと思っていた
だけど、これで同性同士でも感染することがわかってしまった
そして…次のターゲットは君になることが確定してしまった」
「そうね、このままだと私の番ね
でも私は死にたくないわ」
「もちろん、僕も君を殺したくない
幸い、先輩は解決方法ではないが君を救う可能性がありそうな方法を書いている
僕が、これから風俗に行って、いろんな女性と関係を結べば
君に感染する確率を減らすことができる」
「いいの。本当に」
「Eさんは悟ったと言ってたけど、
僕もなんだろう頭が冴えるというか不思議な気分なんだ
君が助かる確率をあげるためなら、
他の女性に感染させてもかまわないと、
これから行おうとしている行為の罪悪感が消えてるんだ
もしかすると、これがこの感染による影響なのか、
さっきまで君の横にいた中年サラリーマンの影響なのかわからないが」
「そう…」
「このあと、おそらく取り調べがあるだろうから、
終わったらすぐに風俗に行く、
もう死ぬんだし貯金全部使って色んな女性とHできると思えば悪く無いさ」
そう言うと、彼はこれ以上いると君への未練が残りそうだからと、
彼は第一発見者として到着した警察官の元へ向かった
私の携帯に着信があった、パパからだった
「ねぇ、パパ、今日は、カバンが欲しいわ」
数週間後、パパ活相手が目の前で自殺し取り調べを受けていた中年男性が
警察署を脱走し、自宅の妻の前で自殺する事件が発生した