「悲葬眼」

投稿者:夏川薫

 

俺の父親は塗装業を営んでいる。
中学を卒業後、親方に弟子入り。
それ以降ペンキ屋一筋で俺たちを支えてくれた。

ペンキ屋に弟子入りして間もなく、出張があったそうだ。
近畿地方の、とある建築物の塗り替え作業だった。

【屠殺場】

普段一般の人は入れないらしいが、作業の為に屠殺場へ入る。
親方が、命の大切さを知る為にも見学してこいと、半ば強制的に見学させられたらしい。
その後、一年程は「牛」「豚」「鶏」どんなお肉も食べられなくなったそうだ。

この話を思い出したきっかけとなった出来事。

俺は【夏川薫】ちなみに男性だ。
両親の支えもあり、高校を卒業後に専門学校にも二年通わせてもらった。
その後、印刷会社に就職したのだが…。

入社式も済み、先輩方には厳しくも優しく業務を教わる日々。
そんな中、同期であろうある男性から声を掛けられた。

『夏川くんだよね?僕の事覚えてる?』

見覚えがあるようなないような…。

『同じ中学だった山神だよ!覚えてないかなぁ…』

あぁ…確かにいたいた!。
隣のクラスのイジメられっ子…と言うより、いじられキャラと言った方がしっくりくるかな。
隣のクラスと言う事もあり、特に関わりがあった訳でもない。
何故彼は俺の事をこんなにも覚えているのだろう?。

『ほら!ディスカウントショップの二階のゲーセンで助けてくれたじゃん!』

そうだ…思い出した…。
隣の中学の奴らにカツアゲされてる所を助けた事があったな。
止めに入ったはいいものの、俺も喧嘩が強い訳ではない。
なけなしの二千円を渡して許してもらった苦い思い出…。

【山神潤】
しかしあんなにチビデブだった彼が、175cmの俺よりも身長が高くなっている。
デブと気の弱さは相変わらずだが…。

そんな事もあり、彼とはそれから仲良くさせてもらっていた。
そう…あの日までは…。

彼と再開して半年が過ぎた頃、仕事にも慣れ充実した日々が続いていた。
しかし、気になる事があった。
山神が日に日に痩せていくのだ。
元気が無い…と言うか、覇気がないようにも見える。
そしてとうとう彼から変な話を聞かされる事となる。

週末の仕事終わり。
会社の休憩室で飲み物を買っていた時だ。

『夏川くん…ちょっといいかな?話を聞いて欲しいんだけど…』

やはり元気が無い彼が心配だったので話を聞く事にした。

『こんな事…誰も信じてくれないと思うけど本当に本当なんだ!』

鬼気迫る勢いで彼は話を進めた。

『お肉がね…僕を見てくるんだ!お肉から目が浮き出てきて…いや…目が生えてきて…僕をギョロギョロ見てくるんだよ!』

あまりにも突拍子もない話だとは思った。
ただ、それが事実で自分の身にも同じ現象が起きたなら…そう考えると滅茶苦茶気持ちの悪い話だ。
それから彼は肉類に限らず、食欲不振に陥ったらしい。

『昨日は僕の誕生日だったんだ。今まではお肉だけだったのに…』

嫌な予感がした。

『お祝いに母さんがお寿司を買ってきてくれてね…寿司折りの蓋を開けたら、お寿司の一貫一貫から目が生えてきてね…シャリの一粒一粒からも目が生えてきて…たくさんの目が僕を見てくるんだよ!』

彼は涙と鼻水を垂れ流し、震えながら俺に訴えてきた。
とて、俺にはどうしてやる事も出来ない…。

『僕、どうしちゃったのかな…頭おかしくなっちゃったのかな!』

その時、先輩の石田さんが声を掛けてきた。

『もしかしたら悲葬眼かもな…すまん…盗み聞きする気はなかったんだけど…』

【石田誠】
俺たちの2つ上の先輩だ。
面倒見が良く、本当に頼りになる先輩だ。
余談だが【ガンジー横須賀】さんの大ファンだという、ちょっとした変わり者だ。
石田先輩も諸橋の様子が気になっていたらしい。
だが石田先輩、どうにも怪訝な表情を浮かべている。

『悲葬眼って呪い、呪詛的な類なんだよなぁ…お前なんか怨まれる様な事したか?』

山神は石田先輩の方へ向くと小刻みに首を横に降った。

【悲葬眼】ひそうがん
動物の悲しみや恐怖の念を用いて人を呪う呪詛だそうだ。

しかし石田先輩は何故その様な知識があるのだろうか…。

『お前ら明日暇だろ?俺の婆ちゃんならなんとかしてやれるかも…一応だが明後日の日曜も空けとけよ』

山神は泣きながら石田先輩にしがみつき、助けて下さいと何度も懇願し続けた。
ここから俺たちは石田先輩としばし行動を共にする事となる。

翌日の土曜日。
石田先輩の車でお婆さんの家へ向かった。
俺は勝手に山奥の秘境のような場所を想像していたのだが、なんて事はない。
田舎には違いないのだが、美しい自然に囲まれた盆地に石田先輩のお婆さんの家はあった。
趣のある家屋からお婆さんは出迎えてくれた。

『おやおや、早速だが誠…こりゃ私じゃ無理だねぇ…』

山神の表情が絶望へと変わる。

『まぁ、ここじゃなんだからお上がりなさい。色々と話さなきゃならない事もあるから…』

俺たちは綺麗な縁側のある仏間に通された。
石田先輩が口を開いた。

『実は俺、婆ちゃんに憧れてたんだけど才能ないみたいで…それで知識だけって訳』

石田先輩のお婆さんはかなりの能力者なのだが、頼ってきた人だけを無償で助けてひっそりと暮らしているのだとか。
しばらくするとお婆さんはお茶を入れて振る舞ってくれた。

『誠、昨日あんたから電話をもらった時にね、なんか違和感を感じたんだよ。悪い予感が当たっちまったねぇ…』

山神は絶望的な顔をしているし、石田先輩はお婆さんの話に食い入っている。
お婆さんは話を続ける。

『こりぁ悲葬眼なんて可愛いもんじゃないよ…禍々しさの類が違う…分かりやすく言うと種類が違う』

山神は相変わらずの表情だが、俺と石田先輩は???となった。
種類???。

『まぁいいさね。兎にも角にもここに来て正解だよ。おおよその原因が分かったからねぇ』

そう言うとお婆さんは立ち上がり、台所手前にある電話の受話器を手に取る。
時間にしたら5分程だろうか…お婆さんの表情が険しくなる。
必死にお願いしている姿が見て取れる。
電話機に向かって何度も何度もお辞儀をする。
受話器を置くと、メモ用紙に何かを書き…。

『誠、その子をここへ連れて行きなさい…だけどその場所は本当に他言無用だよ…いいね』

石田先輩はメモを受け取り目を通すと、引き締まった表情でうなづいた。

『薫!潤!行くぞ!』

どうやらここからが本当の勝負になる…そう感じたのは言うまでもない。

石田先輩は険しい表情で車を走らせる。
何処へ向かっているのかさっぱり分からない。
石田先輩がコンビニで車を止める。

『少しでも時間が欲しい!この先は店もない山奥に入る。悪いがここで昼飯を買おう!』

石田先輩と俺は各々買い物を済ませたのだが…山神はお弁当コーナーの前でガクガクと震えていた。

『あぁ…あぁぁぁぁぁ…たくさんの目が睨んでくる…怖いよ…怖くて動けないよ…』

そんな山神を引きずるようにコンビニから出す。
車に乗り込むと石田先輩は袋からペットポトルのお茶を取り出し…。

『取り敢えずこれ飲んで落ち着け!』

山神は泣きながらお茶を飲み干す。
そんな様子を見て石田先輩は…。

『このままじゃ仕舞いにはお茶にも目が見えるようになっちまうぞ…そうなったら本当に命がやばい!』

再び車を走らせ4時間程だろうか…石田先輩は車道脇に車を止めた。

『ここからは歩きだ…』

時刻はPM17時を過ぎていた。
二時間までは歩かなかったものの、辺りはもう暗くなっていた。
決して大きくはないのだが、綺麗に整地された神社。
この神社が目的地ではなく、その脇に建てられているこじんまりとしたお屋敷。
玄関には既に60代くらいのご夫婦?が出迎えてくれていた。

『よく来てくれたわね。疲れたでしょ…さぁこちらへ』

女性が優しい笑顔で招き入れてくれたかと思ったその時!。

『違う!』

石田先輩は大声で叫び、パンっ!と大きく手を叩いた…。
パッと景色が一変した!。
神社もお屋敷もご夫婦も消えてなくなっていたのだ。

『ほほぉぉぉ…落ちこぼれにしてはやるの…お前が石田の婆さんとこの誠か?』

振り返るといかにも頑固爺いのような男性が立っていた。

『あぁ…はい!』

石田先輩が返事を返すと、爺さんは苦笑いを浮かべ…。

『まぁ、落ちこぼれて正解じゃ…こんな能力を持ったお陰で何度も恐ろしい目に会っておる』

そして爺さんは山神を見るなり彼の首根っこを掴み…。

『お前だな…死にたくなければ早うついて来い!』

俺たちは爺さんの後をついて行った。
ほんの2〜3分歩いただけだ…先程の神社と、こじんまりとしたお屋敷がそのまんまそこにあった。

『こっちが本物じゃ…もうこいつだけじゃない…既に三人とも狙われておる!気を引き締めぃ!』

私たちは神社の拝殿に通された。
もう既に時刻はPM20時を過ぎていた。
山神は恐怖でクタクタ。
そして石田先輩は運転でクタクタのはずだ。
俺がしっかりしなければ…そんな事を思っていた時、ある女性が入ってきた。
俺よりも年上…25歳前後だろうか…。
とても綺麗な…いや、可愛らしい女性で、彼女は座ると俺たちに深々と頭を下げた。

『早速だが始めるぞ!疲れたとは言わせん!こっちも石田の婆さんから連絡を受けてから休みなしじゃ!』

石田先輩の顔が引き締まる。
お婆さんからメモを受け取った時と同じだ。
あのメモには一体何が書いてあったのか…住所だけだったのだろうか…。
俺は疑問に思っていた事を爺さんに尋ねてみた。

『あの…具体的には何をするんですか?山神がおかしくなった原因は?そしてこの女性は?』

矢継ぎ早の質問が癇に障ったのだろう。

『やかましい!』

一括された後、爺さんは話を続けた。

『この子は紗耶…訳あって預かっておる…この坊主を助けてやられるのは紗耶だけじゃ』

そう言うと爺さんは山神の額を軽くデコピンした。

『簡単に言えばこれからこの坊主に入り込んでおる魔物を紗耶が取り込み、更に別にかけられておる呪詛を解かねばならん…難儀なこっちゃ』

ふと石田先輩を見ると明らかに様子がおかしい…これから何が起きるんだ…。

紗耶さんが山神と向かい合う様に座る。
爺さんは大きな姿見を2台用意し、紗耶さんの背後で合わせ鏡とした。
爺さんは短刀で紗耶さんの左腕を切り付ける。
紗耶さんは軽く振り向くと、腕から流れる血を合わせ鏡の中央に数滴垂らす。

向き直ると山上の手を取る。
指を絡めて手を繋ぐ。
いわゆる恋人繋ぎ?それを向かい合ってやっている異様な光景だ。

『紗耶、誠、始めるぞ…お前は身に危険を感じたら本殿へ入れ…分かったな?』

俺は小さく何度も頷いた。
爺さんは山神の後ろに立ち何かを唱え始めた。
お経ではない何か…聞いていてとても心地が良い。
心地良く聞いていたのは俺だけのようだ…。
紗耶さんの苦しそうな表情…その紗耶さんを冷や汗を垂らしながら心配そうに見つめる石田先輩…。

何時間経ったんだろう…俺は信じられない光景を目にした。
苦しそうに雄叫びを上げる紗耶さんの身体が、みぞおちの辺りから少しずつ闇に包まれていく。
その闇から無数の手が合わせ鏡の中央へ向かい伸びてくる…。

すると石田先輩も何かを唱え始めた。
爺さんが唱えているものとは明らかに違う。
しかし紗耶さんの身体はほぼ闇に包まれ、多くの手が必死に何かを掴もうとしている。
それでも爺さんは辞めようとしない。
後は紗耶さんの顔しか残っていない…その時…。

『落ちこぼれには落ちこぼれの意地があるんだよ…』

石田先輩が山神を抱きしめた…。
紗耶さんの身体が元に戻りほっとしたのも束の間…。

【【【 石田先輩が…消えた… 】】】

もう本当に意味が分からなかった。

『あの馬鹿者が!婆さん一体何を吹き込んだんだか…』

気絶している紗耶さんには目も触れずに、爺さんは台所から塩結びを持ってきて山神に見せた。

『まだ見えるな?』

山神は震えながらコクンと頷く。
確認した爺さんは再び山神の後ろに周り、左手を頭に乗せて何かを唱え始めた。
いやいや待てよ!石田先輩は?なんの説明もなしかよ!。
俺は爺さんに強い怒りを覚えた。
すると紗耶さんが意識を取り戻し…。

『もう少しです…先生が呪詛を解き、私の身体で渦を封印すれば、あなたは救われますから…』

はっ???何言ってんの?。
山神にも聞こえたのだろう。

『もう止めて下さい…僕の為に何人もの人が…もう本当に止めて下さい…』

山神は泣きながら爺さんに懇願する。

紗耶さんの背後…合わせ鏡の中央から大きな漆黒の渦が現れる。
その渦が紗耶さんを包み込むように襲う。
渦の中には憎悪に満ちた無数の顔がぎっしりと詰め込まれているかのように見えた。
まさに地獄の入り口のような、あまりのおぞましさに耐え切れず俺は目を閉じた。
山神が叫ぶ。

『ダメだ紗耶さん!僕がそっちに行くから!』

山神は頭の上の爺さんの手を振り払って紗耶さんに向かって這いずる。

『ダメよ!潤ちゃん!こっちに来ちゃダメっ!』

えっ?潤ちゃん?。
爺さんは躊躇う事なく唱え続ける。
どう説明したらいいのか分からないが、紗耶さんが背後の渦に包まれる時…まるで氷が溶けるかのように美しく輝きながら消えていった。
漆黒の渦が消えると、畳には紗耶さんが身に付けていたであろう指輪が転がる…。
その指輪を山神が拾い握りしめる。
何度も何度も畳を叩きながら号泣する。

俺は全く何も出来なかった。
ただ見ていただけ…俺は一体何をしに来たんだ…。
二人の犠牲と引き換えに、山神は救われた。

ここからは後日談だ。
爺さんの話によると、何者かが山神にいくつもの呪詛をかけたのだろう。
恐らくは素人の真似事。
呪詛が絡み合って、もう何が何だか分からない状態だったらしい。

結果、爺さんでも見た事のないような、おぞましい魔物を作り上げてしまったようだ。
悲葬眼を装い、人を恐怖に追い込むタチの悪さ。
そいつを更に捻じ曲げたような魔物だそうだ。

そして呪詛と言うよりは念、怨みの塊。
生霊とはまた違うのだと言う。
本当に悪趣味な奴もいたもんだ。

本来であれば紗耶さんが魔物を封じ、その後爺さんが呪詛を解く予定だったそうだ。
俺の目には紗耶さんが闇に取り込まれていくように見えたが、実はその逆…紗耶さんが魔物を取り込んでいたらしい。
それを石田先輩も勘違いしての結果だと説明された。

最後に爺さんが俺にかけてくれた言葉が唯一の救いとなった。

『悔いる必要はない…お前、無意識のうちに山神の坊主を助けてやっていた事に気付いておるか?』

俺には全く意味が分からなかった。

『お前がここへ来た意味と必要性があった…お前が居なければ、山神の坊主も一緒に持って行かれておったわい』

そして爺さんは、偶然ではなく必然…運命で俺がここへ来たとも言った。
俺自身全く納得はしていないが、爺さんにはそのうち分かると…。

そして石田先輩…。
俺と山神は爺さんに挨拶を済ませ下山した。
車に辿り着くと運転席にはメモ用紙が。
メモ用紙には住所と…。

『紗耶が居る。あの子の力になっておくれ!』

そう書かれていた。
石田先輩は初めから自ら身代わりとなる覚悟をしていたのであろう。
車で下山し、お婆さんを尋ねると…。

『そうかい…でも心配しなくてもいいよ。ほら!誠が誇らしげに微笑んでいるだろ!』

俺たちには何も見えなかったのだが、お婆さんの目にははっきりと映っていたのだろう。

『紗耶の事も心配要らないよ…あの子は神の使いみたいなもんだからね…必ず戻ってくるさね』

俺も強くそう願った。

翌日の月曜日、俺と山神は石田先輩の事を引きずりながらも出社した。
事務所が騒がしい。
事務員の女性に何があったか尋ねると…。

『Sさんが亡くなったのよ…それもね、自分の目玉をくり抜いてね…それを飲み込もうとしたらしいのよ…でもそれを喉に詰まらせて窒息死だそうよ…』

人を呪えはば穴二つ…そう言う事かと俺と山神は納得した。
Sさんとはそれ程親しくはなかったのだが、Sさんとの会話中にオカルトや心霊に懐疑派だった山神が少しバカにした事があった。
たったそれだけの事…。

それから数日も経たないうちに山神は会社を辞めた。
どうしても石田先輩と紗耶さんの想いを継ぎたいと…。
山神は爺さんの元で修行をする事にしたそうだ。

俺はと言うと…どうしても紗耶さんの事が気になっていた。
紗耶さんはどのような幼少期を過ごしていたのだろう…。
そして最後の言葉…。

『ダメよ!潤ちゃん!こっちに来ちゃダメっ!』

【山神潤】ここから調べ始めた。
紗耶さんが何故、山神の下の名前を知っていたのか。
おおよその予想は当たってはいたが意外だった。
戸籍上、山神には4つ上のお姉さんがいた。

【山神葵】これが紗耶さんの戸籍上の名前だ。
理由は不明だが6歳の時に養子に出されている。
あの爺さんの養子になったのかが気になり、役所の職員に尋ねると…。
【石田千代】と言う女性の養子に入ったようだ。
住所が記載してあったのですぐにスマホで検索すると…やはり石田先輩のお婆さんの家だった。

その後、紗耶さんが12歳の時。
こちらも理由は不明だが【橋本巌】これが恐らくはあの爺さんの名前だろう…。
あの爺さんが紗耶さんの身を引き受けた事になる。

少なくとも石田先輩が4歳から10歳の約6年間は、紗耶さんと顔を合わせていた事になる。
戸籍上、紗耶さんは石田先輩の叔母にあたる訳だ。
恐らく紗耶さんは、幼少期より自身の強い能力によってかなり苦労したのではないかと想像する。
きっと孤独感にも見舞われていたであろう。

石田家とも繋がりがあり、山神潤とは血の繋がった実のお姉さん…。
何故【紗耶】と呼ばれていたのかが気にはなったが、俺は調べるのを辞めた。
恐らく山神はこの事実を知らないだろう。
そして伝える必要もない。

山神があの爺さんの元へ修行へ行く際、最後に俺に残した言葉が今でも心に残っている。

『あのさぁ…これ覚えてる?』

紗耶さんが漆黒の渦に取り込まれた際に落ちた指輪。
山神はその指輪をシルバーのネックレスに通し、首からぶら下げていた。

『この指輪を握りしめるとね、紗耶さんの声が聞こえてくるんだ…潤ちゃん!ガンバれっ!ってね』

血の繋がり…その事実を知らなくとも、二人の間には目に見えない強い絆で結ばれているのを感じた。

 

得点

評価者

怖さ鋭さ新しさユーモアさ意外さ合計
毛利嵩志121212101561
大赤見ノヴ151615161577
吉田猛々181817161887
合計4546444248225