「私の知らない世界」

投稿者:☆ YUTA NAITO ☆

 

まだ幼少期の頃、
おじいちゃんのカブ(バイク)
に乗って、
山へ山菜採りに行きました

初めて入ったその山は、
鬱蒼としていて、少し薄暗く、
樹々や葉の間から木漏れ日が差していました

おじいちゃんと二人で山菜採りに来て、
わらび、ゼンマイ、コシアブラ、
こごみ、タラの芽、セリ、ふきのとう、
ウド、フキ、
(一部季節外れで入手不可)
色んな山菜やズイタケなどを知り、
食べるのを楽しみに、
三人でいっぱい採りました
そう、三人で…

おじいちゃんは、その時口数が少なく、
黙々と採っていました
新しいのを発見すると、
「 これが、タラの芽じゃ 」
とか、「 コシアブラじゃ 」みたいに、
食える物だけ教えてくれる程度

僕は、
金髪ミディアムショートヘアくらいの
綺麗な女性に、
山菜採りを教えてもらいました
若干四歳の僕は、マセガキでした
何の疑問も違和感もなく、
綺麗、というだけの知らない方と、
一緒に楽しんでいたのです

山菜を夢中で採りました
目に付く限り、いっぱい採りました
おねえさんと一緒に、無我夢中で…

次第に日が影り(陽も陰り)、
知らぬ間に山奥へ入り込んでいて、
気が付くと、
おじいちゃんが見当たりませんでした

籠いっぱいに採れた山菜を背負い、
辺りを山索しながら
おじいちゃんを探します
おねえちゃんが、
「 一緒に探してあげるよ、山を降りよう 」
と、言ってくれました

何とか山を降りたその頃には、
辺りは暗く、夜になっていました

不安になった僕は、
おねえちゃんの手をしっかり握り、
無言でついて行ったのです

知らない山だったと言っても、
そんなに遠かったわけではありません
距離的には、おじいちゃんの家と、
自分の家の丁度中間くらいの距離
一つの小学校の学区の三つの町内で、
一・二・三と並ぶ町内の
一の町から三の町の距離の中間
と言えば、想像つくでしょうか?
幼い僕でもおじいちゃんの家に、
何度も行っているので、
見慣れた景色はあるはず
なのに…
全く知らない街並みが、
目の前に広がっています

そうなると、もうついていく、
選択肢は一つしかなかったのです

その日は、
おねえちゃんの家に泊めてくれました
おねえちゃんは、ニコニコしていて、
ご飯も食べさせてくれて、
その日採れた山菜を料理してくれました
段々と不安は消え、
お風呂にも入れてくれて、
心が休まるのを感じました
そして、
一緒の布団で寄り添いながら、
眠りについたのです

目を覚ます頃には、何の違和感もなく、
いつもと変わらぬ朝のように、
おねえちゃんと朝食を摂り、
散歩に出掛けます

相変わらず、見覚えの無い景色…
が次第に見慣れた景色だと
感じていきました

「 〜くん、おはよう 」

「 〜ちゃん、今日も良い天気だね 」

「 あんまり一人で出歩いたら、危ないよ 」

などと、さも知っているかのように、
親しげに周囲の住民から、
毎日毎日声をかけられるのです
そして、
昼食を取り、テレビを見て、
また散歩に出掛け、
夕飯を食べ、またテレビを見て、
風呂に入り、寝る

そんな日々を一週間ほど過ごした、
ある日の朝、
一人で目を覚ましました

何も分からなくて、ぽかん、としました

おねえちゃんは、どこにもいません
この家は、空き家です
布団も生活用品など何もないのです

家を出ました

相変わらず、知らない景色
あの感覚は、
錯覚だったと思い知らされます
唯一、知っているのは、
あの山だけ…

急いで、一目散に山に向かいました

おじいちゃんのカブがあります

( 良かった )

安心したのも束の間
おじいちゃんの姿がないので、
探さなくてはなりません
少しためらいながら、
意を決して、山に入りました

金髪セミロングの綺麗な女性がいました

「 この辺で、おじいちゃん見んかった?」
僕は、そう尋ねます

「 一緒に探してあげるよ、山を降りよう 」

僕は、、ついて行ってしまいました…

見覚えのある風景です

僕の住む団地が見えて来ました
団地は市営と県営の団地で、
二階建ての五軒が連なる一棟で、
市営が十三棟、県営が二十三棟と、
市内では、そこそこデカい団地です

( 家に帰れる )
そう思いました

いよいよ自分の家の玄関前に来ました

「 ガチャリ キィ〜 」

ドアが開きます

一緒に中に入りました

そういえば、
表札を見た覚えがありません

間取りも家具も僕の家と一緒

しかし、
お父さん、お母さん、幼い弟、
誰もいませんでした

おねえちゃんは、
料理を出してくれました
山菜料理です
美味しく頂きました
お風呂も頂きました
そうなると、
また安心感に包まれるのです
一緒に寄り添って寝ました

朝目覚めると、朝食があります
一緒に食べて、散歩に出掛けます

「 〜くん、一人で出歩いたら危ないよ 」
そして、毎日同じルーティン
その繰り返し…

また、一週間ほど経ちました

朝目覚めると、一人ぼっち…

今度は、淋しくて、
なんでおねえちゃんいないの?
そんな気持ちになりました

急いで、山へ帰る

おじいちゃんのカブが…

山へ入ると、
僕が探していたのは、、、
金髪のおねえさんでした

肩より髪の長い、綺麗な、
金髪のおねえさんに出逢いました

薄々分かっては、いたのです
感触はあります
でも、冷たい
色素も薄い
少し透けて、背景が見えていたのです
そして、服も薄く透けていたのです

「 一緒に探してあげるよ、山を降りよう 」
そう言われると、
僕は、
いつも無意識について行ってしまいます

山を降りる頃は、
いつも夜でした

そして、
見覚えのある風景
自分の家のある団地
今度は、表札がある事も確認しました

その当時の僕には、
表札という言葉は知りませんでしたが、
玄関横の所には家族の名前が書いてある
そういう認識だったと思います

通り過ぎます

(えっ?あれ?… )と思っている内に、
僕は、後ろ目に、手を引かれ、
団地の連なる隣の家に招かれました

晩御飯は、山菜料理
めちゃくちゃ美味しくて、
待ち遠しくなる程、
山菜を好きになっていました

一緒にお風呂に入り、お布団で添い寝

朝は散歩に出掛け、
近所の住民とたわいもない会話、
昼食や夕飯、テレビに風呂、
毎日のルーティン、
そして、一週間が経ちます

至福の時は、突然終わりを告げます

朝目覚めると、一人ボッチ…

かすかに、
( 山へ帰りなさい )
毎回そう言われてる気がしていました

急いで山へ帰ります

おじいちゃんのカブがあります

このままでは、ダメじゃと、
必至におじいちゃんを探します

山の一番薄暗い奥深く、
春の暖かさも感じない寒さの中、
金髪の腰までありそうなロングヘアの
女性が立っていました
うつむいていて、
髪で顔が隠れる程でした
不安に駆られると現れてくれる
おねえさんに、
少し照れくさくて、
僕もうつむき加減で近寄ります

一言もなく、お互い立ち尽くしている、
妙〜な時間が流れます

後ろから、抱きつかれました

子供ながらに、
「 ドキッ! 」
と、します

と、その時…

突然、苦しくて息も出来なくなりました

足もとが浮いていきます

「 カハッ、クッ、… 」

もがきながら必至に掴まり、
ジタバタします

掴まっていたのは、あの、
ロングヘアーでした

近くにあった木の枝に、
金髪の髪が渡り、吊るし上げられ、
どんどん、どんどん苦しくなりました

「 ドーン 」

木に何かがぶつかる衝撃がありました

僕は、気を失ってしまいました…

気が付くと、
おじいちゃんの家で目が覚めたようです

おじいちゃんが言います
「 今日は、山菜でも採りに行くかぁ 」
僕は言います
「 やめとく 、行きとうない 」
おじいちゃん、
「 なんでな!昨日採った山菜、
美味しそうに食ようたがな 」と…

おじいちゃんが言うには、
昨日、山菜採りに行き、
籠いっぱい採って、
思いのほか採れたから、
僕の家に持って帰り、
おじいちゃんと一緒に、
家族で山菜を食べた、
そういう話しでした

僕の記憶には、全くありませんでした

おじいちゃんが、
なんぼか自分の家に持って帰るから、
僕は、ついて行って、
また泊まったそうです

そう、
この日、朝目覚めたのは次の日で、
わずか一日しか経っていないのです

朝起きた時、若干まだ苦しくて、
首を触りました
クッキリと窪んだ線が入っていて、
絞められた跡が残っていました

手には、金髪の髪が数本ごっそりと…

子供だった僕は、
手を洗いに行くのではなく、
布団で拭い、
そっと畳んで片付けたのです
普段は畳むくらいしかしないくせに…

結局、おじいちゃんに、
無理クリ山菜採りに連れて行かれ、
またあの山に行くハメになりました

今度は違う所から山へ入りました
登って行くと、全く違う雰囲気でした
樹々や草が鬱蒼と生い茂り、
薄暗い中、木漏れ日が差し、
朝露がキラキラと輝いていました

今回のおじいちゃんは、
嘘のようによくしゃべり、
ゼンマイとこごみとコシアブラの違いまで、
語り出す始末
それはくしくも、
あのおねえさんに教えてもらった事と、
同じ内容でした
おじいちゃんは物知りで、
本当はおしゃべりなのです

また、山菜を籠いっぱいに採り、
おじいちゃんと下山しようとした所、
前回は背負えた僕の背中程の籠は、
やたらと重く、持ち上がりませんでした

「 四歳じゃまだ力がないのぉ 」
と、おじいちゃんに言われ、
悔しかったのを覚えています
結局、おじいちゃんが二つ持ち、
降りました

まるで、誰か乗ってるかの如く、
重かった

それなのに、カブに乗る時には、
普通に背負って乗ったのだから、
何かが乗っていたとしてもおかしくない
そんな気がしました

おじいちゃんの籠は、
股に挟むように足もとに
僕は、おじいちゃんにしがみ付き、
籠は背中に背負う形に

僕の家に着き、
お母さんに、山菜を渡すと、
「 嬉しいけど、
そんな頻繁には行きんちゃんな 」
そう言われました
おじいちゃんは、
服やズボン、靴を泥々に汚して、
洗濯がかなわんと、母に怒られてました

お年寄りという者は、
孫が好きな物を知ると、
しつこく与えたがるものです
僕にはそれが有り難かったのですが…

この時、おじいちゃんは、
小さかった僕に、
黙っていた事がありました

小学六年生の頃、
おじいちゃんが入院した時の事

「 昔、山菜採りに行ったの覚えとるか? 」
ふと、おじいちゃんが話し出しました

僕、
「 覚えとるよ …」

おじいちゃん、
「 あの時な、
お前楽しそうに、
独り言しゃべっとったな 」

僕、
「 あん時な、実は… 」

おじいちゃんが喰い気味に、
「 解っとる、誰かとしゃべっとったな
あっちで一人、こっちで一人、
三人としゃべっとったがな、
アレはこの世のモノじゃないけぇ、
あぁゆうのは、気をつけぇよ 」

僕、
「 おじいちゃんにも話しとるけど、
色々体験もしとるし、
なんかそういうのたいぎぃな 」
( 本当は四人じゃけど触れませんでした )

おじいちゃん、
「 わしの血じゃろうな、すまんな 」

おじいちゃんは、
京都の親戚の家の寺を継ぐ修行中に、
戦地に行きました
戦争から帰って来て、
岡山の津山に住み、酒屋になりました
が、親戚の中でも期待されるくらいの
素質があったそうです

僕、
「 昔は怖い事もあったけど、
いっつも無事じゃし、大丈夫じゃろ 」

おじいちゃん、
「 お前が木に吊るされた時な、
必至に木ぃ蹴ったり、
引きづりおろそうと大変だったんじゃ 」

僕、
「 あれ、
やっぱおじいちゃんが
助けてくれたんじゃな 」

おじいちゃん、
「 籠に入れて背負うて帰ったんじゃ
娘( 母 )にも誰にも話さなんだけどな
疲れて眠った事にしたが、
ちゃっかり飯時には起きて来たなぁ(笑
まぁ、二回も連れて行ったのは、
楽しい思い出にしちゃろう、思うての 」

僕、
「 山菜、うまかったなぁ 」
おじいちゃん、
「 … 」

入院中、
おじいちゃんとは、色々話しましたが、
これが、まともに話した、
最後の会話です

時々、
説明のつかない、不思議な体験をします

あの体験の中、
散歩中に話しかけて来た
見ず知らずの方々は、
体験後、本当に近所にいました
向こうは知ってる風に話しかけてくるのに、
僕は、全く知りませんでした

今でも二歳の出来事まで
思い出せたりするくらいなのに、
何故、
その方々の事は知らなかったのでしょう…

僕は転校して、
小学三年生までしか
この町に住んでなかったので、
今では誰も知り合いはいません
同世代の家族も引っ越したみたいです
市営県営などの団地では、
住むのに審査基準などがあり、
諸事情のある方が多いとは思いますが、
僕がいた頃は人の良い方ばかりでした

今現在の団地は?と言いますと、
右の方や裏稼業、外国の方など、
市営団地に色んな方が住むようになりました
市議会議員にそっち系の方が、
当選するようになったから、
なんですかね…
田舎あるあるでは、ありますが…

今こそ思う事ではありますが、
あのおねえさんは、
外国人だったように思います

わたしは、あの時、
ちゃんと元の世界に戻って来れた
のでしょうか?

この世界は、
本当に私の知る世界なのでしょうか …

私の知る世界とは … ? …

私は、生きてますか? …

あなたには、私が、見えますか? …

あの日の山菜の味は、
今だに忘れられません

 

得点

評価者

怖さ鋭さ新しさユーモアさ意外さ合計
毛利嵩志121212151263
大赤見ノヴ161617171884
吉田猛々171716161783
合計4545454847230