「受け継いだ精神」

投稿者:小日向まこと

 

昭和の時代。子供たちが家庭用ゲーム機に夢中になっていた頃。
僕は父ちゃんと二人暮らし、父子家庭でした。
母ちゃんは僕の出生と引き換えに、息を引き取ったそうです。

父ちゃんは元警察官で正義感が強く、いつも貧乏くじを引いてしまう。
でも僕はそんな父ちゃんが大好きでした。

しかし、本当に貧乏でした。
当然ゲーム機なんて買って貰えるはずもなく、学校では当時流行ったRPGなんかの話にも入れませんでした。

そんなある日。

「~♪こたえーが あるわーけじゃ なぁいー♪らぁーらっ♪らぶみー うっしーろゆーび…」

父ちゃん…恥ずかしいから歌いながら帰ってこないで…。

「おい!まこと!ドラゴンファンタジーやるぞ!」

え!?まさか!買ってきてくれたの!と、期待した僕がバカだった。

「隣のクソババアが現れた!…ほら!どうすんだよ!」

逃げるよと伝えると。

「戦えよ!あのクソババア…どうしてやろうか、ちっきしょう!」

隣の婆ちゃんと何かあったようだ。かなりムカついている様子の父ちゃん。戦うよと伝えると。

「まことの攻撃!クソババアの垂れ乳が更に垂れ下がって地面に着いた!

クソババアの攻撃!まことは上手く身をかわした!

まことの攻撃!クソババアは餅を喉に詰まらせた!

掃除機で餅を吸いとってもらおうとしたら、間違えて垂れ乳を吸われてしまった!

まことの勝利!まことはレベルが上がった!チ○毛が生えてきた!」

僕の落胆した気持ちは晴れる事はなく、もう寝るよと伝えると。

「ビンボウナガヤヘ ヨウコソ オトマリニナルニハ ベルマーク3マイガ ヒツヨウデス」

普通はゴールドだし、裏声が気持ち悪いからもう止めてと頼むと。

「いいから早くベルマークよこせよ!金なんて家にある訳ねーだろ!」

こんな調子でいつも僕を喜ばせようとしてくれていた父ちゃん。

そんな父ちゃんが、その年の秋に亡くなったのです。
車に轢かれそうだった子供を助ける為に。
子供は無事で良かったのかもしれないけど、死んじゃったらダメだよ…父ちゃん。

そして僕は施設へ入る事になりました。
一緒に生活した兄弟、そして先生方にも恵まれ、高校卒業までお世話になりました。

卒業後の進路について、施設の先生に言われた事。
学費の心配はしなくていいので大学へ行くようにと。
僕は歴史や宗教、民俗学が好きだったので、その言葉に甘える形で大学へ進学しました。
学費の事は気にはなったのですが、なぜか怖くて聞けませんでした。

大学に入り、大槻教授と出会いました。
心霊現象や呪いや呪術、村の風習や因習など、全てにおいてのスペシャリストでした。
僕は教授に魅力を感じ、多くの事を学ばせてもらいました。

そして、僕が大学に通える理由が分かった日。

僕は夕飯のお弁当を買う為、コンビニに寄りました。
すると、刃物を持った男がレジ前に立ったのです。
父ちゃんの血を引いているのかなぁ…僕は辞める様に説得を始めると。

数台の黒塗りの高級車が店の入り口を取り囲む。
そして一人の男性が車から降り、それに続くかのように強面の人たちで店内が埋め尽くされたのです。
先頭の男性が僕に罵声を浴びせ掛けました。

「お前バカか…下手打ちゃ刺されてっぞ」

強盗の男は、その圧に圧倒されポカンとしていた。

そして僕は車に乗せられ、屋敷に招待されたのです。
車から降りると、僕に罵声を浴びせた男性は、何も言わずに僕を抱き締めました。

「ずっと礼を言いたかったんだよ…俺も親父もお袋も…」

答えは簡単でした。
父ちゃんが助けたのがこの男性だったのです。

○○組直系、○○会。僕でも知っている大きな組織。
広い屋敷には怖い人ばっかり。そんな怖い人たちが、僕に頭を下げてくる違和感。
でも《姉さん》と呼ばれる男性の母親は、物腰が柔らかく優しい女性でした。

親分さんと若頭さんは現在収監中で、姉さんとこの男性で組を仕切っているのだとか。
その男性の名前は《瞳》。女性のような名前だけど、僕は魅力的に感じました。

「瞳って気軽に呼んでくれよ」

そんな事言われても…。姉さんからも、本当のお母さんだと思って欲しいと…。

父ちゃんが死んだ時、僕は9歳。親分さんが僕を養子に引き取ると言ってくれたらしい。
でも、この稼業の子にしてしまうのも…と、姉さんが助言したのだと。
その結果、組を上げて静かに見守ろうとなったそうです。

それから瞳は、大学生活に支障が出ない様に声を掛け続けてくれました。
年を聞けば僕の二つ上。頼りがいのあるお兄ちゃんが出来たみたいで正直嬉しかった。
それから僕たちは親交を深めました。

半年以上経つと、僕と瞳は友達…いや、親友に近い関係になっていました。
屋敷にもよく招かれ、姉さんの事も《母ちゃん》と呼ぶように。

そして瞳は、突然姿を見せなくなったのです。
瞳…何があったんだよ…。
そんな時、ある男性に声を掛けられました。

「え!?本田さん?どうしたんですか!その顔!」

瞳の御付きの組員さん。
話を聞けば、本田さんが少し油断をした隙に、瞳が何者かに攫われたと。
その結果、いわゆるヤキを入れられ今の状態なのだそうです。
それからは耳を塞ぎたくなるような事を聞かされました。

組の事務所に毎日送られてくる8ミリフィルム。

猿ぐつわをされた瞳の子指を第一関節から切り落とす。
次は第二関節から、そして根元から。そして薬指、次は中指へと。
切断と止血を繰り返し、輸血までされる。

昨日までに届いたフィルムは全部で28本。

今、瞳の両手に指はない…。

本田さんは瞳から、僕が民俗学や宗教について学んでいる事を聞かされていた。
それを思い出し、僕の元へ来たのだと。
正直、僕に話すべきかどうか相当悩んだそうです。

僕は本田さんに連れられ、組事務所にお邪魔しました。

確かに映っているのは瞳で、お経のようなものが聞こえる。
そしてそのお経の音量が、日増しに大きくなっているのだとか。
さすがに切り落とされる場面は目を背けた。

場所も何もかもが不明で、打つ手がないのだと。

次からの動画も届いたら連絡して欲しいと組員さんにお願いしました。
すると、組員さんから渡された機械。ポケベルでした。

僕は最後に送られてきた28本目のフィルムを預かりました。

心配なのは《姉さん》…母ちゃんだ。
本田さんには、今は会わない方がいいと言われました。

幸い大学には再生機があったので、大槻教授に視てもらいました。
再生すると、教授はすぐに停止したのです。

「以前にも聞いた事がある。関わらない方が君の為だ」

しかし僕は、友達の為にどうしても協力したいのだと食い下がりました。
すると教授は渋々と話し始めたのです。

ありとあらゆる宗派を貶め冒涜し、お経の教えを反転させ《呪詛》に変えたものだと説明されました。
この団体が、かなり過激で危険なのだと。

カルト教団を騙ってはいるが、お釈迦様を冒涜する罰当たりな団体。
調べるのは構わないが、その団体とは一切関わるなと釘を刺されました。

そして初めてポケベルが鳴った。

◇29本目
うなだれる瞳の姿がしばらく映される。少しずつ黒い人影が瞳に近づく。
すると、それをさえぎるかのように、白い防護服を着た人物が現れた。
そして紙をカメラに近づけた。そこには…。

《ぎしきのはじまり》

そう書かれていた。

すると数人の信者が、白いガーゼで瞳の全身をグルグルに巻いたのです。
そしてその横にマネキンの頭を置いた。

何をしているんだ…この人たちは…。
瞳…まだ生きているんだよね…。

大槻教授からの情報を、そのまま本田さんに伝えてしまって良いものなのか。
そんな事を悩みながら、その日は終わってしまった。

次の日のお昼前に、本田さんから連絡があった。
毎日フィルムをチェックしていた…そう、僕にポケベルを渡してくれた矢島さんが、自室で首を吊って自死したと。
まさか、呪詛の影響…僕は意を決して本田さんにだけ話す事にしました。

組事務所近くの公園で待ち合わせ、僕は全てを話しました。
そして一つ付け加えました。フィルムを再生する際は、音を消す事。
本田さんには、また何か分かった事があれば連絡しますと、僕は大学に戻りました。

すると、女の子に声を掛けられたのです。

「小日向まこと君!」

早苗姉!。僕と同じ施設にいた二つ上の姉ちゃん。

「オカルト研究会に入らない?大槻教授に声を掛けるようにって頼まれたの」

早苗姉に例の団体やその呪詛について聞いてみました。

「え!?それって都市伝説だよね?本当にあるの?」

なんか凄く興味津々だ。続きをサークルの部室で話す事になりました。
部室には二人の男性がいました。《泉先輩》と《若槻先輩》。
泉先輩はおっとりタイプで若槻先輩はハツラツタイプ。

僕は今までの経緯を全て話した上で、協力して欲しいとお願いをしました。
すると若槻先輩が。

「今から行ってみるか!早苗、都市伝説では住所の噂があったよな?」

「うん、○○県の山間部にある民家って聞いたけど」

瞳を助けたい。でも先輩たちに危険が及ぶかもしれない。
若槻先輩が僕の肩を叩いた。泉先輩と早苗姉はニヤけながら僕の様子を伺う。
お願いします!と僕たちは出発した。

若槻先輩の運転で、それらしい場所まで来ると。
白い防護服を着た人とすれ違ったのです。

「あいつらだよな…お前が言ってたの」

そう言うと、若槻先輩は上手く茂みに車を隠した。
周りが結構見渡せる絶好な場所だ。
僕たちはしばらく様子を見ていた。

すると、ある獣道から白い防護服を着た信者が出てきた。
泉先輩が地図を開く。民家があるであろう位置を特定する事ができた。

そしてまた、しばらく車内で様子を見ていると…。

「ほぉ~らお出ましだ、逃げるぞ!」

防護服の集団がこちらに向かって来る。若槻先輩は軽快に車を走らせた。

帰ると僕は組事務所を訪ね、現地の詳しい場所など情報を伝えました。
でも50人は居たであろう信者の数。
しかし、組員さんたちの士気が上がる。

すると…フィルムが届いたのです。一斉に静まり返る。

◇30本目
マネキンの鼻と耳がキレイに消えている。
目と口も消えかかっている

どうなっているんだ…手品なのか?。

組員さんたちの士気が恐怖に変わった。
そしてその夜、本田さんは僕たちが行ったあの民家へと向かった。拳銃を手に。

そして朝、組から連絡が入る。本田さんと連絡が取れないと。
嫌な予感しかしない。

◇31本目
信じられない…マネキンの顔が…完全に瞳の顔になっていた。
信者たちが瞳に巻かれた白いガーゼを足元から巻き取る。

まさか…嘘だろ…ありえない…。

瞳の顔からガーゼが巻き取られると…。

そんなバカな…瞳の顔が変わっていた。
マネキンの顔じゃないか…。

防護服の信者が紙を見せてきた。

《ぎしきおわり》

何なんだこいつら…何をしたんだ…。

一体何が起きているんだよ…。

そして…。

防護服の信者はホルマリン漬けの指を見せてきた。
その指の断片を次々と油で揚げ始める。

その揚がった指を、まるで手羽先でも食べるかのように本田さんはむしゃぶりつく。
本田さん…なにしてんだよ…一体なにされたんだよ…。

組員さんは言う。

「これ…考えたくはないんですが、若の指なんじゃないかって…」

僕はその場で嘔吐してしまった。

◇32本目
次の日の夜、瞳が死んだと連絡を受けた。
フィルムは視るに耐えないので視ない方がいいと…残忍な内容だったそうだ。

《たましいいれかえた》

そう書かれた紙を見せつけると、マネキンと顔を入れ替えられた瞳の身体を次々と…。
その行為を視ていた瞳の顔のマネキンは、まばたきをしながら口を動かしていたそうだ。

そして、うっすらと黒いモヤがかかる中、本田さんは拳銃の銃口を咥え、自ら引き金を引いた。

◇33本目
そして、最後のフィルムが届いた。

防護服の信者たちが、民家から黒い袋に入れられた遺体のようなものを次々と運び出している。
そして一人の防護服の信者がカメラの前に立つと、ヘルメットを脱いだ。

嘘だろ…。

あからさまにまだ子供じゃないか…。
その子がカメラに向かって中指を立てながら不気味に笑う。
まさかこの子が瞳を…信じられない。

そして、瞳の顔のマネキンの頭を焚火の中へ放り投げた。

「ぎィいやァァァァァあ!!」

マネキンの頭は叫び、炎の中で小刻みに跳ねる。

いや、マネキンなのか?…瞳?もう何が何だか訳が分からない…。
ただ茫然と焚火の炎を見つめるしかなかった。

そして、組にフィルムが届く事はなくなった。

僕はいつもの大学生活に戻った。
オカルト研究会の先輩たちも可愛がってくれるし、楽しい毎日が続くと思っていた。
ただ、瞳の奇妙な死については、理解できずに葛藤していた。

早苗姉が僕にチラシを見せてきた。

「ねぇ、まこと、この子見た事ある?」

!?…あの子だ。

このチラシをどうしたのかと聞くと、自宅のポストに入っていたと。

《教祖様を探しています。私たちと共に新たな世界へ》

あの子が教祖として担がれているだけなのか。
それとも、あの子の禍々しい恐怖に従うしかないのか。

すると早苗姉はスッと立つと、僕を見つめながら…。

「おい、まことさん、助けてくれよ、死ねねーんだよ、あいつのせいで死ねねーんだよ…

助けてくれよ、助けてくれよ…」

そう言いながら僕に抱き付いてきた。

信じられない…ハッキリと分かる《本田さんの声》…。

「なんで誰も助けてくんねーんだよ、なんで俺から逃げんだよ…

殺してくれ、殺してくれよ、頼むから殺しっ…」

早苗姉はそのまま気を失った。
僕は早苗姉の手からチラシを取ると、ビリビリに破り捨てた。

若槻先輩と泉先輩は腰を抜かしてブルブルと震えていた。

その夜、僕は夢を見た。

あの子だ。辺りを不安そうにキョロキョロと見渡している。
すると、彼の身体がどんどんと小さくなっていく。

《身体は赤子。顔だけは成人した本田さんの顔》

「全てをお前に返してやった!ざまぁ見ろ!!」

そして、ハイハイしながらゆっくりと僕に近寄ってくる。
来るな…来るな…本田さん!来ないで!!。

「なぁ、まことさん、これで俺助かるよなぁ…

これで、これで俺は自由だ…クソガキがぁぁぁ!!」

そう叫ぶと《ボンっ!パンっ!》と音を立て、本田さんの頭部が破裂した。
頭部の無い身体だけの赤子は、首から大量の血を流しながらハイハイを続ける。

すると、首からあの子の頭部がゆっくりと生えてくる。
顔面を血で染めながら不気味に微笑み、僕に近寄ってくる。

「来るな!来るな!!来るなぁぁぁ!!」

そこで目が覚めると、僕はトイレへ駆け込んだ。
トイレから出ると、洗面所の鏡に返り血を浴びた僕が…映ったように見えた。
目を閉じ見返してみると、いつもの僕だ。夢…だったんだよな…。

その後、僕たちに怪異は起きていない。

そして二年生になった春、久しぶりに組から連絡が入った。
若頭の藤木さんが出所し、僕に会いたいと。

藤木さんも当然、僕の存在は知っていた。
僕にも危険な事をさせてしまい申し訳ないと頭を下げられたが。

「瞳は僕の友達でもあり親友、兄ちゃんですから。本当に助けたかったんです」

そう言うと、藤木さんは感慨深そうに。

「なぜ若が狙われたのか…話せば長くなるけど聞いてくれるかい?」

僕はハイとうなずいた。

今から三年ほど前、瞳はとあるご夫婦から相談を受けてたらしい。あの例の宗教団体に絡む相談だった。
子供が入信して出家したいと言い出した。当然、ご夫婦は猛反対した。

仲の良い友達が入信していて出家するかもしれないから。
子供の単純な考えだ。学校の夏合宿みたいなものを想像していたのだろう。

結局その子は家出同然で出家したそうだ。
その子供を宗教団体から取り戻して欲しいと。

そして子供もそれを望んでいた。
出家しなかった友達、何もない娯楽、質素な食事、短い睡眠時間。

理解できない毎日の作業。
意味の分からない呪詛を毎日読まされ、半ば半狂乱状態で施設から逃げ出した。
そして子供は自宅へ戻ると、自分を助けてくれなかったと…。

両親を殺害した。

すぐに信者たちによって施設へ連れ戻される。
結局、瞳はこの一件から手を引く事になった。

両親が自分を助ける為に、瞳に相談した事実を知った子供は、瞳を逆恨みしたのだろうと。
年数から数えると現在中学2年生になる。動画のあの子…。

当然、殺人事件として警察も介入したのだが、現在も未解決事件となっている。
当時は分からなかった事だが、フィルムを視ての藤木さんの考察だ。

藤木さんは、自ら望んで邪悪な存在となったあの子を救いたい。
それが瞳への一番の供養になるのではないかと語ってくれた。

そして、瞳の死を受け入れ、正気を取り戻した母ちゃんに会ってやって欲しいと。
僕は藤木さんにお礼を言うと、屋敷へ向かった。

全快ではないにしろ、母ちゃんは僕を抱き締めてくれた。

「母ちゃんごめん…瞳の事助けられなかったよ…ごめんね」

母ちゃんは僕の両肩に手をのせ。

「まことが謝る事じゃないでしょ。今回の件は、誰も何もできなかった。

瞳と本田と矢島、この3人だけで済んで良かった。そう思うようにしているの」

すると、色あせた百貨店の袋を僕の目の前に置いた。

「思い出したの。まこと、あなたが施設に入った年のクリスマス。

あなたに贈るはずだったんだけど、瞳がね《他の子もいるから止めた方がいいと思うよ》って渡せなかった物なの。

今更だけど、受け取ってちょうだい」

10年越しのプレゼント。僕は喜んで受け取った。

ふと母ちゃんを見ると、僕は自分の目を疑った。
母ちゃんの背後に、優しく微笑む瞳の姿をハッキリと見たんだ。
瞳は僕を見つめると、大きく《うん》とうなづいて、母ちゃんを後ろから優しく抱き締めた。

「ほらほら、まこと!こんな事くらいでそんなに泣かないの」

それから僕は、毎週必ず母ちゃんと…瞳に会いに行っている。

袋の中には大きな箱と小さな箱。
大きな箱の包装を取ると、子供の頃に欲しかったゲーム機だ。
小さな箱はソフトだろう。

ドラゴンファンタジーだった。

~回想~

「向かいの大工のジジイが現れた!…ほら!どうすんだ?」

逃げるよと伝えると。

「だから逃げんなよ!あの好色ジジイ!」

爺ちゃんとも何かあったのかよ。戦うよと伝えると。

「ジジイの攻撃!酒を呑んだ翌朝の強烈な口臭を吐いた!まことは毒に侵された!

まことの攻撃!会心の一撃!ジジイはチャリに乗るとサドルがドスン!と落ちて、イボ痔が飛び出た!

まことの勝利!」

全然勝った気がしない。

「さてと、夜の見回りにでも行ってくっかぁ…

♪べいべぇ♪げぇろぉんまいきゃでぃるぁっく♪おぅのぅ♪あいわぬどぁんすむぁいちゃちゃ♪

♪ちゃっちゃら♪ちゃっちゃら♪ちゃちゃちゃちゃっ♪ちゃー…」

「茂!気持ち悪いしうるさいんだよ!!」

「てめぇの葬式でも歌ってやるよ!クソババア!!」

~…~

父ちゃん…。

そしてある日、僕は大槻教授に聞きたい事があり部屋を訪ねた。

教授は見慣れない僧侶の方とお話をされていた。
高野山で修行を積まれたお寺のご住職だそうだ。

ご住職は、僕を見ると。

「ほほぉ~…君は大丈夫。これからもずっと」

そう言うと、優しく微笑んだ。
僕には全く意味が分からなかった。

そして、あの子は僕の前に姿を現した。
明らかに瘦せ細り、やつれた姿で。

「みーつけた!俺の事知ってるよね?」

君は自分の死について考えた事はあるかい?。
いつからだろう…僕はなぜか、自分の死を全く恐れなくなっていた。

「あいつと仲良さそうにしてただろ、だから殺す」

瞳は君を恨む事なく打ち勝った。君は哀れな裸の王様だ。
君はこれから辛く苦しい人生を歩まなければならない。

「怖い?死ぬのって怖いよねぇ!謝っても許してあ~げない!

俺は不死身?…な・ん・だ?」

君はなぜ、死を怖いと表現するの?なぜそうだと感じているの?。
そう、君こそが自身の死への恐怖を解決できていないんだよ。

「だからなんで俺なんだよ…なんで俺と同じ姿してんだよ!

今度は何すんだよ…やめろ…俺やめろ!!」

君への多くの怨み。帰ってきた多くの呪いが、君の姿を象っているだけなんだ。

僕に人の死の本当の悲しみや切なさを、一番最初に教えてくれた人。

…父ちゃん!。

ご住職に言われた言葉の意味が理解できた。

『とってもとっても哀れで惨めで虚しさ丸出しの、

女々しいクソガキが現れたんだけどよぉ…まこと、お前どうすんだ?。

でもなぁ、これはゲームなんかじゃねぇ。コマンドなんてねーぞ。

まこと、お前の人生だ、お前のやりたいようにやってみろ。

絶対にだ、何があっても絶対に父ちゃんがお前を守ってやる!!』

そうだよね…やっぱり僕は父ちゃんの息子だ…。

僕は…彼を強く抱き締めていた。

 

得点

評価者

怖さ鋭さ新しさユーモアさ意外さ合計
毛利嵩志121215151266
大赤見ノヴ171717181786
吉田猛々151516161779
合計4444484946231