「A崖の亡霊」

投稿者:Zukkyunn

 

その日も俺と東(あずま)は心霊スポットに行く計画を立てていた。
俺ら2人はそれが特段好きというわけではなかったが一通り遊び終わったら暇になり心霊スポットに行くことが多かった。
俺らが出会ったのは大学のサークル。
俺らは変人が多いと言われている歴史研究サークルの一員で人数もそう多くはなかった。だからすぐに打ち解けられ、講義が終わればよく2人で遊びに行っていた。
その日もその場の雰囲気で海に行ったはいいが1時間ほどで飽きてしまい、結局いつもの心霊スポットに行く流れになってしまった。
時計を見ると午後3時。
「この近くのA崖、自◯者多いらしいぞ、前行った所より雰囲気あるぞ」とスマホを片手に東が俺に言ってくる。
A崖、調べてみるとまぁまぁ遠い地点にあり道も混んでいる事が容易に想像できた。「どこが近いんだよ。ここの道が混んでるから着くの夜になるけど?俺の車だからって適当抜かすなよ」と東を小突くと「いいじゃんいいじゃん明日大学ねぇよ?」と調子よく言う。確かにな、と俺も納得して二人で海から少し離れた駐車場に向かって歩き始める。
駐車場に着き二人とも車に乗りカーナビの目的地を設定し出発する。
運転はもちろん俺。正直面倒くさいなと心の中では思っていたが助手席のやつが行く気満々だったから頑張って運転してやる事にした。
東は隣でA崖の情報を調べていた。調べては俺に教えてくれたから一応まとめるとこんな感じ。
・夜になると白い着物を着た女の人が歩いている。
・夜になると女の泣いている声が聞こえる。
・夜にそこへ行くと異世界に迷い込んでしまう。

共通してるのは夜そこへ行くとやばいということ。
そんな事を延々と聞かされているうちに意外にも道は混んでなくあっさり着いた。東の顔がほらみてみろと言わんばかりににやけていて腹が立ったが、駐車スペースを探すことに専念した。
もちろんそんな場所に駐車できる場所なんてないから、その崖まで歩いて10分くらいの廃墟に停めさせてもらうことにした。
廃墟の雰囲気も相当で外装も剥がれ落ちていて、人が住んでいないのは一目瞭然だった。
何やら視線も感じる気がした。
もうあたりは既に薄暗くなっており、これから進んでいくであろう道を闇へと染めていった。
そこから歩いて木々が生い茂っている小さい森に入る。
森に入ると視界が更に深い闇にのまれているのと独特な森の雰囲気が相まって、まるで別世界にいるみたいだった。
東もさっきまでの調子はなく顔が少し引きつっている。海の近くということもあり潮の匂いが歩いて行くたびに強くなる。その潮の匂いが強くなっていく度に俺らはA崖に近づいている感じがして会話する気も失せた。
そんな調子で森を抜けると殺風景な広い場所に出た。
どうやらここがA崖のようだ。
風とその風により波がザァザァと音を立てて夜特有の寂しい雰囲気を作り出す。奥を見ると落ちないようにしているのか小さい柱を両端に頼りのないロープがぶら下がっている。あそこで自◯を図る人がたくさんいるのだろう。「行くぞ」、東に崖の先のロープまで行こうと指差す。
「俺はいいよ」とブルブル震えながら言う。
こいつはいつもそう。
自分から行きたいと言ってくるくせにその場所を目前にするとビビって進まなくなる。
俺は少しイラッとして「ここにいろバーカ」と言い残し一人ロープへと近づいていく。
ロープへ近づくにつれ、波音が段々と大きくなっていき崖の先へ着く頃には既に波音とピューと激しく音をたてる風以外の音は聞こえていなかった。
確かに辺りを見回すと海が広がっていて自◯をするには打ってつけの場所なのだろうなと冷静に考えてしまう。
しかしロープから顔を出して下を見ると顔が青ざめた。
この場所は確かに正面から見たら海が広がっている。しかし下を見ると岩がたくさん並んでいて普通の地面と何ら変わりない。
何が言いたいかっていうと、ここから飛び込んだら地面に真っ逆さま、ということだ。 
自◯者がたくさん出ているのだとしたらその遺体の状況は見るに耐えないものばかりだっただろう。また下には白い石で作られた祠みたいなものがあった。自◯者をあれで弔っているのだろうか。
それを見ると更に恐怖が増幅していった。もう戻ろうと後ろを振り返るとそこにはもう東の姿はなかった。
あいつ逃げやがった。
すぐに崖を離れ、森を抜け、車の置いてある廃墟まで走った。
すると車の助手席には青白い顔をしている東がいた。
すぐに運転席に戻り「ふざけんな、お前何考えてんだよ!」と思いつく限りの暴言を吐きまくった。東は俺に落ち着けと制止しこう説明した。
「お前がさロープに近づいて行ってる時に顔が潰れている女がお前の後ろあたりに現れて俺を見て笑ったんだ。それでそれで、、」
こいつもかなりパニックになってると知り、俺も落ち着きを取り戻し、その後を促した。
「それでそいつロープに近づていくお前の方を向いて崖に落とす仕草をしたんだ。俺何度もお前に逃げろって声かけたけどお前聞こえてなくて。それ続けてたら耳元で急に女の笑い声が聞こえたんだ。俺もう怖くなって逃げちまったんだ。本当にすまない。」
俺は体の全身の力が抜け「いいよもう帰ろう。」と力なく提案した。
東も頷いて、納得する。
俺は車のエンジンをつけて帰路へと着く。エンジン音が鳴り響き勢いよく車を走らせる。
東の声が遠くから聞こえる。
「おい!どこ行くんだよそっちって、、」

私と紬(つむぎ)が出会ったのは高校1年生の時だった。
私は県外の高校へ通うためにこの地に越してきて一人暮らしをしている。
毎日の慣れない一人の生活に心細かった私に紬は入学式で「ねぇねぇ、名前なんていうの?部活動は?」ととても好意的に話しかけてくれた。
私たちは同じクラスで席が隣同士だった。そんな私たちはすぐに意気投合した。
紬はコミュニケーション能力が高く、私以外の子ともよく話していたが、私たちは誰から見ても親友だったと思う。
いつも授業が終わったら一緒に高校の近くの某チェーン店に行き時間を潰していた。私にとってそんな日常が楽しかった。
そんな日々を1年ほど続け、私たちは2年生に進級した。私と紬はクラスが離れてしまった。クラスが違うと会う機会も減ってしまい話さなくなってしまった。
クラス替えをすると周りの環境も変わり、私も馴染むのに精一杯だった。
3ヶ月ほど経過しやっとクラスにも馴染んできたところで私はある噂を耳にする。
私のグループの一人がこう話した 「他のクラスで不登校が出たらしいよ?なんでもいじめられてるとか」他の一人が訊く「誰?」
「〇〇(苗字)紬って人」
私は青ざめる。
私はその場をやり過ごし、その日の放課後、一人で紬の家へと直行する。ドキドキしながらインターホンを鳴らすと、すぐにドアが開いた。
出てきたのは見るからに元気がない紬の母親だった。私はよく一年の時、紬の家に遊びにいっていたから紬の母親とは顔見知りだった。
「おばさん、紬は?」
おばさんは悲しそうに「紬ね、1ヶ月前から行方不明なの。」言い終わって顔を見るとおばさんの目から涙が既に溢れていた。
おばさんが落ち着くまで待って、事情を訊くと、この3ヶ月の間、紬に何があったか話してくれた。
紬はクラス替え後も持ち前のコミュニケーション能力でどんどん馴染んで行った。
すぐに同じクラスのBという彼氏もでき順風満帆に思えた。
しかしそれが問題だった。クラスにはボス的存在のC子がおりC子はBを狙っていた。
そんな矢先、紬と付き合っているという噂が流れ、とことんクラス全体で紬をいじめたらしい。紬がいじめられているのを知り最初の方はBが守ってくれていたみたいだが、C子の圧、、というよりも集団心理にやられたのだろう。
最終的にはBまで一緒になって彼女はいじめたそう。
それを母親に教えてくれた次の日の朝、起きたらいなくなっていたという。
おばさんが泣きながら話しているのを聞いて、私も一緒になって泣いた。
泣いた後は疲れ切ってしまいすぐに自宅へと帰った。
次の日から私は紬に向けて懺悔の言葉をメールに載せ何件も何件も送り続けた。私自身、紬がいなくなった事実を否定したかったのだろう。気づけなくてごめん。私が気づいていれば…
一応、捜索願は出しているみたいだがいずれ探すのをやめるだろう。
私も明日探しにいこう。そう決心したその夜、急にパッと目が覚める。どこかから呼ばれている感覚がする。行かなきゃ。
私はそのまま家から出て暗い夜道を一人歩いていった。気がつくと家からそう遠くない拓けた崖にいた。そこは、小さい頃から大人たちから絶対近寄るなと言われている禁足地だった。崖下で神様を祀っているとか。
波音がうるさいが気にせずに歩いていく。
小さい頃から近づいたことないこの地に少し感心しながら海を見渡す。
夜の海は荒れていて風も強い。確かに危険だ、そんな事を思っていたその時、ふと下を見るとそこには紬がいた。うつ伏せで変わり果てた姿の彼女だった。
何日間も潮風にさらされたその遺体は見るに耐えないものだった。本当に。
ここから先はショックで覚えていないが恐らく私が通報したのだろう、朝になり警察が来て変わり果てた紬を回収していったのは覚えている。
その日の学校はすぐに休校になった。
その日は一日中彼女の事を考えていた。
彼女は何故私をそこに呼んだんだろうか。
自分のことを見つけて欲しかったのだろうか。
日が暮れる外を見ながらそんなことを考えていると居ても立っても居られなくなり近所に頼りにされている霊能者を訪ねることにした。
家を訪ねるとすぐに髪が長く、いかにもな格好のおばさんが出てきて「待っていたわ」と一言。
「分かるんですか?」と訊くと霊能者はコクンと頷き私を家の中へと招き入れた。
中は私の家と何ら変わらない普通の民家だった。
私はリビングに案内され、そこにある椅子に座るよう促された。
私は涙を溢れさせながら1から全てを説明した。
霊能者は全てを知っているようだったが私の話をしっかり聞いていた。
聞き終わると、霊能者は私にこう質問した。
「あの崖、何故立ち入り禁止になっているか知っているかい?」
「神様が祀られているから?」
霊能者は頷き「そう、あの崖は昔から神様が祀られてきた神聖な場所なんだ。」と言った後悲しそうに「その友達、もう天国には行けないね。」と言い、その後に理由を続けた「神様は神聖な場所を汚されたことに対して怒ってらっしゃる。お友達は見つけて欲しくてあなたを呼んだんだろうけど下手したら◯んでいたよ。」と冷酷に私に言った。
私はびっくりして何故と問いかけた。
「あの子は今地縛霊としてあの土地に縛られ、彼女の代わりになる生贄を探している。」
私は恐怖よりも悲しくなった。
彼女はいじめを苦に自◯したのに死んでからも更に苦痛を味わうなんて。
私はその場を後にし、せめて彼女と一生そばにいてやろうと決心した。
その後、月日が経ち、私はかろうじて高校を卒業して通信制の大学に通う事にした。
私はあの日以来、何をやるにも手につかず、人間としての最低限の生活水準を下回っていたと思う。
そんなある夜、一台の車が家の前に停まった。男二人のようだ。
A崖について話しているのが聞こえる。この人たちあの禁足地に行くのかな。
止めはしない。彼女が天国に行けますように。そう何度も祈った。

女性は6年前から朝起きると投函口を見る癖がある。
何故なら6年間一人暮らしを続けている娘の楓が手紙を出すからと中学校卒業の日に言っていたからだ。
確かに一人暮らし始めたての頃は心配で電話を毎日のようにしていた。
しかしいつからか楓から「もういいよ」と言われるようになりそれ以来連絡を一切取っていないのだ。
だから親心にも本当は連絡を取りたいが我慢して手紙をこうして待っているのだ。もしかしたら忘れているのかもしれない。
その日も投函口を無意識に確認した。
どうせくだらないチラシだろうとそっと覗くと一通の小さい横封筒が入っていた。
お母さんへ。封筒にはそう書かれていた。楓だ。中をすぐ確認し読む。

お母さんへ
元気ですか?手紙、遅れてしまいごめんなさい。決して忘れていたわけじゃありません。本当に伝えたいことがあった時に書きたいと思ったので。
私がその家を出てから6年が経ちますね。
本当に懐かしい気持ちでいっぱいです。
さて、私は高校で親友と呼べる人ができました。彼女は可愛らしい女の子で誰とでも仲良くなれる女の子でした。彼女とは毎日放課後になると遊びに行きました。…

そこには娘の友達との思い出がびっしりと書かれていた。
最後には「育ててくれてありがとうございました。」と締め括られていた。
嬉しい気持ちになり感動で涙が出そうになったが、一瞬にして気持ちの悪い違和感を覚えた。その違和感の正体にすぐに気がつく。「ありがとうございました」?
それにこの娘の友達に対しても使われている不自然な過去形の文章。
すぐに娘が住んでいる地域の警察に通報した。

すぐに通報を受けた警察がそのアパートを訪れた。まず人が住んでいるのかという疑問が生まれた。
屋根外壁、何から何まで汚すぎる。
とりあえず中へ入ってみようとドアノブに手をかけると外側からでもツンと鼻をつく異臭がする。
ガチャ、鍵はかかっていないようですぐに開いた。
開けると部屋の向こうが見え、そこにはもう足が床から離れている後ろ姿の仏がいた。女の子か、可哀想に。
天井から下がっている太い紐に首を括って亡くなっていた。足元には便箋やら写真やらが落ちているようだ。
顔を見ようと遺体に近づくと驚嘆の声が漏れてしまった。
自◯遺体は数回見たことはあるが他の遺体とこの女の子の遺体とでは奇妙な相違点があった。
それは、笑っているという事だ。本当に満足そうに笑って、亡くなっている。
そんな事を考えているとこの近くで何日か前に事故が起こったことをふと思い出す。
この近くの崖から車が海にそのまま突っ込んでいったという。
あぁ、不吉だ。
彼女の足元には高校生の時に撮ったのだろう、女の子二人が笑顔で写っているツーショットの写真が散らばっていた。
その笑顔の写真と横にいる彼女の笑顔を対比すると少し違和感を感じる。
その言い知れぬ違和感の正体は何度見ても分からず、ただただその気味の悪さだけが部屋全体にうずくまっているのだった。

 

得点

評価者

怖さ鋭さ新しさユーモアさ意外さ合計
毛利嵩志121215121263
大赤見ノヴ181717161785
吉田猛々171716161884
合計4746484447232