世の中に知られている心霊スポットや怖い場所の数よりも知られていない場所の数の方が多いと私は思う。
そしてその場所が知られていない事にも何かしらの理由が存在するとも思う。
これから私が話す事は私が生まれ育った村で実際に起きた話でその村の秘密も含まれます。
私の家族は6人家族で父と母、姉1人と兄が2人で末に私がいます。
母が私を妊娠中にその村に引っ越したため家族の中で唯一私だけがその村で産まれました。
そのせいかその土地にまつわるおかしな事に何度も遭遇する事も。
私が覚えてる限りで1番古い記憶だと幼かった私は家の中で兄たちと遊んでいました。
走り回ったり戦いごっこなどではなく段ボールで街を作ってその中をおもちゃの車を走らせたりと大人しい遊び。
しかし私は突然、のたうち回る程の強烈な耳の痛みを感じて大泣きをしました。
翌日になっても耳が痛いと大泣きする私を連れて母は病院に行くも調べても原因不明と言われて気休めの痛み止めを渡されて帰らされました。
翌日になっても状況が変わらず困った母があるお寺に出向いて相談をすると
「お子様の耳元で大勢の落ち武者が大声をあげながら取り囲んでいます」
と言われたそうです。
母はすぐにご祈祷をお願いしてその後、帰宅すると大泣きしてたのがうそだったかのようにケロッとした顔で私が遊んでいたそうです。
それ以来、母は土地の供養を毎月行いました。
その甲斐あってか落ち武者が敷地内の坂を登ってくる事はなくなり坂の下で恨めしそうにこちらを睨み付けるだけになりました。
しかし守られているのは敷地内だけで1歩敷地の外に出ると危険だったのは変わりません。
ここからは母の供養を軽んじた姉と兄の話、そして村の秘密にされた言い伝えです。
その村を作った人物はある有名な名士でした。
今から数年前にその人物が注目されるドラマも放送されてそのドラマのファンがその名士の墓参りに来るなど少し賑わった事があります。
しかしドラマでは語られていない秘密の話があります。
戦を逃れた者、戦に負けた者が山を切り開き村を作りました。
その土地では作物がよく育つため村の者は作物や薪の他にも土を売って生計をたてていました。
所帯持ちが増えて子供も多く生まれて穏やかに村の時間は過ぎていたある日、ある男が村を訪れました。
男は
「土を売って金を取るなどふざけた話があるか!」
そう言って引き連れていた兵士に村を襲わせて一晩で女も子供も関係なく村人全員を惨殺しました。
その後、その男がその土地に新たな土地を作りましたが1つの村が滅ぼされた事はドラマでは語られませんでした。
話は現代に戻り…。
ある晩、私の姉と兄が家を抜け出した日の話。
高校生だった2人はよく深夜に家を抜け出して親に内緒で仲間と遊び回っていた。
兄は改造した原チャリで仲間と走り回り姉はそのグループのリーダーのような男と付き合っていた。
その日も家を抜け出した2人は自宅から50メートル程離れた村の集会所にいた。
集会所はとても古く木にトタンを打ち付けただけのようなかなり古い建物でその敷地には何かを掘られた大きな石が祀られている。
仲間と6人程でそこで話をしているとそのうちの1人が酒盛りを始めバカ騒ぎをはじめた。
テンションがあがったその人はそこにあった大きな石に立ちションをしてそれを見ていた仲間は大笑いをして真似する者も。
固定されているその石をどうにか倒そうとドロップキックをしたりする者もいてそんな愚行が1時間程は続いた。
しばらくすると姉は友達のAの様子がおかしい事に気づく。
キョロキョロと周りを見ながら怯えている様子だったため声をかけると
「…なんか、誰か喋ってる?ボソボソ言ってて何言ってるか分かんないけどなんか聞こえるの。それに見られてる感じ…」
姉の後ろでは相変わらずのバカ騒ぎで姉にはその声が聞こえない。
聞こえない声に耳をかたむけるのはやめて誰が見ているのか周りを見ようとAから目を話した瞬間
「キャーーー!!」
と、ものすごいAの悲鳴が山を木霊した。
驚いた姉がすぐにAの方に向き直るとお腹を押さえてるAが
「う…痛い…」
と呻いている。
本来なら姉はどうしたのかと聞くところではあるが聞かずとも痛みの原因が見えていた。
Aの背中から日本刀が貫通している。
(え?なんで?)
そう思いながらAが座ってる集会所の縁側からゆっくりと視線をあげていく。
古く薄い窓の向こうは暗い集会所の室内だけで誰もいない。
さらに視線を上げていくとそれはいた。
窓の1番上にはめ込まれたガラス。
その端が5センチほど割れて穴があいていてその穴の中から血走った目だけが睨みつけている。
その穴以外のガラスは透明で人がいれば見えるのにやはり室内には誰もおらず目だけが穴の所に存在していた。
それを見て姉が悲鳴を上げると皆が一斉に逃げ出した。
自宅から5分ほど歩いた所にある停留所に姉たちは逃げてきた。
姉が真ん中に座って左に姉の彼氏、右に友達のAが座り姉たちの正面に兄や兄の友達が立って話を聞いていた。
Aになにがおきたのか、姉が何を見たのか。
話終えるとみんな黙り込んだ。
酒盛りをしたあの人も黙って怯えている。
誰も口を開く事は無かったが次に口を開いた時は次なる恐怖の時だった。
姉も黙って座っていると姉の右足が
ズズ…
と前にズレた。
姉は座り直して足も置き直す。
するとまた
ズズ…
とズレる。
(あれ?)
と思っていると
ズズズズズ…
と右足だけが勝手に進み始めた。
進むと言うよりも何かに引っ張られてるようで本人の意思で止める事は出来ない。
異変に気づいた兄や姉の彼氏など男4人が姉の右足を押さえつけようとするが右足は進み続ける。
その時に姉は
(集会所に引っ張られてるんだ)
と気づいた。
その事を話すと彼氏が姉の前に車を横付けして無理やり姉を車に押し込んでロックをかけた。
それからそこから車で5分程のところにあるコンビニへと車を走らせた。
コンビニついて少しして原チャリの兄たちが遅れて到着。
兄がコンビニで塩を買ってそれを姉の右足にぶちまけると姉の右足が動くのをやめた。
これまで異様さを目の当たりにしてすっかり怯えてしまったのは酒盛りをした彼。
「俺…すみません、帰ります!」
真っ青な顔でそう言って原チャリにまたがって急いで発進した。
それを見ていた兄が大声で引き止めるも聞こえておらず彼の姿が見えなくなった。
呼び止めた兄が今度は真っ青な顔になって姉にこう言った。
「あいつの原チャリの後ろ、上半身だけの落ち武者がしかみついてた」
空が少し明るみはじめた頃、姉たちは自宅近くの山上にある見晴台にきていた。
晴れた日中であればハイキングする人達が遠くに見える富士山を眺めるためによく立ち寄る場所。
そこで朝が来るのを待って帰宅しようとなったが街頭もなくただ薄暗い。
そんな中で誰も喋らず下を向いている。
しかしそんな状況に耐えかねた1人の男が喋りだした。
「あいつビビって帰るとか超ダサくねぇ?負け犬が逃げるみてぇでこっちが恥ずいよな」
そんな風に帰った彼の事を笑い者にしていたが笑う人は誰もおらずまた沈黙が流れた。
すると突然、兄の携帯が鳴りその場にいた全員がビクッとなったが着信の相手は帰って行った彼で心配していた兄がすぐ電話に出た。
「もしもし!お前大丈夫だったか!?お前が走ってく時、原チャリの後ろに変なのついてたから俺…もしもし?おい、どうした?よくきこえない…え?事故った!?おい、しっかりしろよ!!返事しろって!」
後半はほとんど涙声になっていて兄がパニックになってると全員が理解した。
ここにいても仕方ないからとにかく彼の家に行く事になりそれぞれが車や原チャリに乗り込んでエンジンをかけた。
が、誰も出発しない。
しないと言うよりはする勇気がない。
進行方向の左側の縁石、そこにズラリと並んだ生首が20メートルほど先にあるカーブの先まで続いている。
全員が恐怖でそれを見たままかたまっていた。
落ち武者と思われる者、結った髪がボサボサと乱れてる女、恐怖で引きつった子供や赤ちゃん…
それらが目を開ききったと同時くらいにその場に大音量の声が何重にも重なって響いた。
何を言ってるかわからないけど命乞いのよう物や恨み節のような物、ただ泣き叫ぶ声やお経のような物も聞こえてきた。
(ここを通らなきゃ…)
そう思うけど動き出す勇気が出ないでいると先程の男が要らぬ調子に乗ってきた。
「お前らビビってんの?マジだせぇ(笑)俺はこんな首なんかに負けねぇから余裕だけどね」
そう言うと自分の原チャリを急発進させて余裕を見せつけようと蛇行運転をはじめた。
(え…、あいつバカじゃん)
全員がそんな事を思いながらその男を見ていた時、誰が見ててもわかるくらいにその男が原チャリごと左側にグンとズレた。
男はそのまま転倒して原チャリは火花をあげながら滑っていく。
それを見ていた生首たちが一斉に笑いだした。
とても楽しそうではあるが聞いてる側は腹の底からの寒気と恐怖を感じた。
男もついにいきがっていた化けの皮が剥がれて
「ひ…ひぃぃぃぃ!!」
と悲鳴を木霊させてた。
恐怖で腰が抜けてるしおもらしをしたその男は這いずるように姉たちの乗る車の方へ向かってきた。
「お願い、助けて…ごめんなさい…」
と懇願している姿を見て
(いきがっといて結果これか…)
と姉が思っていると彼氏が運転席の窓を開けて顔を出した。
「え!?お前ビビってもらしてんの!?うわぁ…超だっせぇ(笑)シート汚されんのヤダから俺無理だわ」
そう言って男の横を通過した。
男は残された兄の方へ向き直って這いずってくる。
「なぁ、ダチなら乗せてくれんだろ?」
そう言われた兄はとても冷静に
「いや、お前の事友達だと思った事ねぇよ。ビビって帰るのだせぇとか言ってたけど今のお前の方が超だせぇから」
と言ってその男の顔を携帯のカメラでパシャリと撮って走り去った。
少し進むと姉の彼氏の車が止まっていた。
兄があの男を見捨てると分かっていたようで兄が合流してしばらく爆笑していた。
ひとしきり笑った後、事故を起こした彼の家を目指して改めて出発。
姉たちが乗る車が前を走っていたがかろうじて舗装されてる農道のような道でひどくデコボコしている。
揺られながら走っていると突然背後から
パーーー!!
とけたたましくクラクションが鳴らされた。
すぐに兄が鳴らしていると気づいて姉の彼氏が減速。
しかし兄はその横を弾丸のように走り抜けて行った。
「おい!どうした!」
そう言いながらアクセルを再度踏んで追いかけていると遠く方から
…シャン…シャン
と聞こえ始めた。
しかしその音は次第に大きくなり
ガッシャン!ガッシャン!
と耳の横で何かを打ち鳴らされているかのようだった。
耳を塞いで周りを見ていると後部座席のAが悲鳴をあげた。
「後ろ!後ろ!!」
そう言われた姉が車内で身をよじり後ろを見てみると恐怖で言葉を失った。
兜は無く甲冑を着た落ち武者が追いかけてきていた。
目を見開いてダラりと開いた口からはヨダレや血を垂れ流して頬がひどく痩けている。
しかしそれよりも異様だったのがその落ち武者の姿勢。
右手には錆びているのか血が着いているのか分からない変色した日本刀。
左腕と両足の3足歩行。
そんな落ち武者が甲冑を打ち鳴らしながら60キロは出ている車に差し迫っている。
路面状況が悪く車はこれ以上速度を上げることは出来ない。
もう落ち武者の手が車に届いてしまう…、そんな時にようやく開けた道に出て落ち武者を振り切る事が出来た。
時刻は進み昼過ぎ。
兄は病院にいた。
あの後、落ち武者から逃げた兄は一目散に事故を起こした彼の家に向かった。
日の出前ではあったがインターホンを鳴らすと彼の母親が青ざめた顔で玄関を開けた。
「今警察から電話があってあの子が事故を起こしたって…。病院に運ばれて危ない状況だって…」
事故を起こしたのはホントだったんだ…、そう思って兄はパニックになりかけた。
しかし彼の母親を見て
「俺までパニックになっちゃダメだ!」
と思い
「おばさん!あいつは大丈夫だって!事故なんかで死ぬやつじゃないって!」
何度もそう言って励ましていると母親もようやく落ち着いてきたのでこれまでの説明をして彼を引き止められなかった事に頭を下げた。
「病院から連絡きたら電話ください」
と自分の携帯番号を渡したがそんな状況でとても帰宅する気になれずコンビニなどで時間を潰した。
数時間後、見知らぬ番号からの着信があり兄はすぐにあの母親だと感じた。
「もしもし?今病院から連絡があってあの子助かったって…。一時、出血が多くて危険だったけど持ちこたえたって。〇〇君、自分も不安だったはずなのにおばさんの事励ましてくれてありがとうね」
そう言われて電話を切った後、兄は泣いた。
事故からしばらく経ったある日、彼が我が家にあそびにきた。
事故を起こした後に私が会うのは初めてで腕や顔などの傷が痛々しく思えた。
「あの時さ、俺ビビって帰ったじゃん?後で笑われるとか全然考えてなくてホントに怖さで頭がいっぱいだったんだよ。それで気づいたら交差点があって急いでハンドル切ったんだけどそのまま道端にあった石に突っ込んでその石で首切っちゃってさ。あーヤバいなぁと思ってお前に電話したんだけどそこら辺から意識飛んじゃって起きたら病院だったんだよ」
と当時の事を教えてくれた。
それを聞いて改めて恐怖を感じたが次に話す彼の言葉で一瞬恐怖を忘れられた。
「手術の後に気になって首の包帯とって傷口を見てみたんだけど傷口がEの字になってんだよ!これって慰霊碑のEだよな!?」
と慌て始めたがすかさず兄が
「いや、慰霊碑の【い】って言いたいんだろうけど【E】だと【え】になるから違うだろ」
とツッコミを入れた。
それを聞いて彼の天然ぶりが健在で良かったと思いながら実際の傷口を見せてもらって私はゾッとした。
Eと言うよりも後ろから何かに深く引っかかれたような傷口でもしかして彼の原チャリについていたやつが?と頭をよぎってしまった。
ちなみに見晴台に置き去りにされたあの男はその後、巡回中のパトカーに発見されて無事でした。
兄は当時の事を今も根に持っていて
「あいつはいつも人の事バカにしてたからあのくらい痛い目みていいんだよ」
とよく言っています。
これが私の生まれ育った村で起きたホントにあった事です。
とはいえ最近は建て売りなどで入居してくる人が増えました。
村おこしにもチカラを注いでいるようで少しばかり観光できるところも出来で人の往来も増えました。
しかしそれはその村で起きた事を知らない、見えない人たちだから良いんだろうなと思います。
最後に集会所にあったあの石、お気づきの方もいられると思いますがあれは惨殺された村人の慰霊碑でした。
落ち武者を見かける事は近年ほとんどありませんがあの石だけは未だに触れるだけでも不幸が起きる呪物のような存在になっています。
過去に道路の拡張工事と集会所の建て替えで2回、あの石を動かした事がありますがそのいずれの年もその村の住民や工事関係者などがそれぞれ10人前後亡くなっています。
恨みという感情はどれだけ年数が経っても消えない物なのかと感じています。