「令和都市伝説「ぬる様」」

投稿者:半分王

 

体験者  八神 聡 (14)

皆さんはゲームってやりますか?
今はどんなゲームも大体ネットで繋がってて、家にいても友達と一緒にプレイできますよね。
FPSのゲームやポ◯モンも流行ってたんですが、僕らの仲間内ではワールドを作って探索したり建物や武器なんかを作れるクラフトゲームが流行ってました。
特に仲の良かった4人の友達と暇さえあれば狂ったようにプレイしていて、小学生ながら深夜まで起きてる事もあったんでよく親に怒られました。

そんなにもハマったゲームだったのに、今はもうやってないんです。
正確に言うと僕は、全てのゲームと言うものに触れる事ができなくなってしまいました。
これはその原因となった、小学6年生の時に僕の周りで起こったある事件の話です。

小学生最後の夏休みのある日、普段ならゲームばかりしている僕らは珍しく外で遊んでました。
前日にいつものように日付が変わる直前までゲームをしていたんですが、1人の友達の家が厳しくて(今思うと当たり前かも知れませんが)ついにゲーム機を没収されちゃったんです。
仲間はずれみたいでなんとなくそいつが可哀想になり、その日はゲームはやめて小学生らしく外で遊ぼう!となりました。
いつもゲームばかりしてたインドアな僕らは、いざ外で遊ぶとなってもやりたい事がパッと思いつかなくてどうする?みたいな感じでなかなか遊ぶ場所も決まりませんでした。
みんなで待ち合わせ場所だった校門の前で、うーんうーんと暑さのせいで回らない頭で悩んでいるとゲームを没収された当人が声を上げました。

「とりあえず、図書館でも行く?」

生粋のインドアらしいその意見に、別の友達が言います。

「お前なー、それじゃゲームしてなくても結局屋内でダラダラ過ごして1日終わっちゃうだろ!
今日はせっかく小学生らしか外で遊ぼうって言ってるんだからさ」

ここで僕の友達を紹介しようと思うんですが、名前は伏せさせてもらいたいと思います。
全員ある理由から名前が全国報道されてしまったので、少し調べれば地域が特定されてしまう恐れがあるんです。
だから友達の名前はA、B、C、Dとさせてください。
僕を含めてこれと言って特徴のないメンツなので、ゲームを没収された奴がA、1番のオタクでゲーム以外にもパソコン全般に詳しいBの事だけ覚えておいてください。

「じゃあ、何かいい案があるのかよ?
俺のせいでみんなには迷惑かけちゃったけどさ、何も目的がないままこんなとこにいたら焼肉になっちゃうよ」

図書館発言を否定されたAが汗を拭いながら言いました。
確かにその日は猛暑日で、日向には10分といられないんじゃないかと思う程の暑さだったのを覚えています。
せっかくAを励ます為に外遊びを提案したのになんだか気まずいなぁと思っていると、Cが言いました。

「小学生の夏休みと言ったら、やっぱり川遊びだろ!
釣りとかまでは行かなくても、足だけ川に入るだけでもかなり涼しいんじゃね?」

正直暑いし考えるのめんどくさいしで、僕らはその意見に乗っかる事にしました。
僕らの住む町は関東近郊でそれなりには発展してましたが、数十組は泊まれるキャンプ施設のある山や1級河川もあり割と自然にも恵まれていたんです。
あまり外遊びをしてこなかった僕らは、水遊びしようなんて軽い気持ちで川へ向かいました。
道すがらやっぱり図書館行こうとか、コンビニでアイス食べようとか、そもそもAがゲーム機没収なんてされなきゃこんな事には!なんてグダグダしつつ、汗だくになりながらもチャリを漕ぎ続けました。

待ち合わせしたのは10時だったのに、時間はすでにお昼前。
これから午後にかけて暑さのピークを迎える炎天下に、外を歩く人の姿はほとんどありませんでした。
みんな運動不足だったせいでたった10分チャリを漕ぐだけで足がパンパンでしたが、川が見えてくると少しずつテンションも上がって来ます。

「なんかようやく夏休みって感じしてきたなー!
早く水に入りてー!」

さっきまでへたって1番後ろにいたBが僕らを追い抜いて行きます。

「待てー!」

「俺が1番だー!」

みんなクタクタのはずなのに、最後の方はレースみたいになっていました。
車通りが少ない道路だったとは言え、本当に危険な事をしたと反省しています。

「よーし、ビリだった奴が帰り全員にアイス奢りなー!」

誰がそう言ったかは覚えていません。
もしかしたら僕だったかも知れません。
それを聞いた最後尾にいたAが、僕らを追い抜こうと大きく車道にはみ出してしまったみたいなんです。
その時…

キキィーーーーーー!
ガシャン!

後方からすごく大きな、すごく嫌な音がしました。
僕らは一斉に止まってゆっくり振り返ります。
そこには2トントラックの前輪に巻き込まれているチャリと、その前に倒れているAがいました。

事故だと一瞬でわかりましたが、僕らは固まって動けません。
トラックの運転手が降りて来て、Aとトラックの様子を確認しながらどこかに電話しているのを眺めながら思っていた事。

「僕らのせいだ…」

それから僕らは各々泣き叫んだり、Aの名前を呼んだり、トラックの運転手に謝ったり、とにかくパニック状態だったと思います。
パトカーと救急車が来て色々聞かれましたが、うまく答えられずに泣きじゃくっているとAの乗せられた救急車がサイレンを鳴らして発進して行きました。
これが、人生で初めての友達との別れになりました。

次の日には夏休み中でしたが緊急の全校集会が開かれ、Aが交通事故で亡くなった事と自転車に乗る時は必ずヘルメットをしましょうとの注意喚起をされました。
僕らはチャリに乗る時にカッコ悪いからとヘルメットをかぶっておらず、Aの死因はまさに頭を強く打ったのが原因でした。
体育館の中は何があったのかまだ現実感がないようでしたが、僕ら4人がぶるぶる震えていたのを見てクラスメイト達は何か察したようでした。

もちろん親には全て話しましたが、その日のお通夜は体調不良という事で参加しませんでした。
Aの死を認めるのが、Aの親に会うのが、怖かったんです。
どうやらそれはみんな同じだったらしくB、C、Dもお通夜は行かなかったみたいですが、さすがに翌日のお葬式には出なさいと母親に手を引かれて斎場に向かいました。
斎場のホールに着くと、3人が親と一緒にいて誰かに頭を下げているのが見えました。
僕の母親もそれを見て僕の手を引っ張ってそっちの方へ足早に向かうと、

「この度はうちのバカ息子のせいで申し訳ありませんでした!」

と深々と頭を下げました。
目の前いたのはAのお母さんでした。
ずっと泣き腫らしていたんでしょう、両目の下は真っ黒にくすんでいてその顔には生気と言うものがかんじられませんでした。
僕も急いで頭を下げて、ごめんなさい!と謝ります。
何を言われるかわからない、どんな言葉で罵倒されるかわからないと怯えていると、Aのお母さんは静かに言いました。

「頭を上げてください。
ほら、君たちも。
今日は、来てくれてありがとう。
いつもAと仲良くしてくれてありがとうね。
Aの事を忘れないで、いつまでも友達でいてね」

僕は泣いていました。
横から3人の泣き声が聞こえて来ます。
Aは死んだんだ。
僕らのせいで。
この2日間のもしかしたら夢だったんじゃ無いかと言う淡い期待は打ち砕かれ、悪ふざけで大事な友達を死なせてしまったと言う現実だけがそこにはありました。
葬儀の間も僕らはずっと泣いていました。
笑った顔の最近の写真がなかったのか、遺影の中のAは真顔のままで僕を見つめていました。

その日の夜、母親に何か小言のような事を言われましたが頭に入ってこずボーっとしていました。
家族共有のタブレットでAとのチャットのやり取りを眺めて思い出に浸っていると、Bからチャットが入りました。

「今夜、俺のワールドに集合。絶対」

こんな時にゲーム?と思いましたが、4人でAについて話したい事があるのかなと思いその夜ゲームにログインする事にしました。

夜9時、いつもの時間にBのワールドに入るともう3人とも揃っていました。

「ごめん、遅れた」

「遅いぞ」

そんな会話をした後、少し間が空いてからBが言いました。

「お前ら、ぬる様の都市伝説って知ってる?」

「ぬる様?」

僕は初耳でしたが、Cが答えます。

「それって、このゲームの都市伝説のnullの事?
真っ黒い姿でバグを起こしたりするって言う」

それなら私も聞いた事がありました。
動画配信サイトのゲーム実況でそんなのを見た事があったからです。
でも、なんでこんな時にそんな話を?と思っているとBが答えます。

「違うんだ。
ぬる様はある特定のコードをプログラミングすると呼び出せる存在で、何かと引き換えにゲームの中に死んだ人の魂をデータとして甦らせてくれるらしいんだよ。
つまり、うまくいけばこのゲームのワールドの中でAを生き返らせてやれるんだ」

正直、意味がわかりませんでした。
死んだ人の魂をデータに?
オタクなのは知ってたけど、こんな変な話を持ち出すとは思っていませんでした。
しかし僕の疑問をよそにDが言います。

「それ知ってる。
うちの兄ちゃんが、仲が良かった友達が去年病気で亡くなった時そんな話してた。
ぬる様に頼んであいつの魂をゲーム内に…みたいな。
兄ちゃんもネット関係の都市伝説とか好きだから知ってたのかな、実際にやったかは聞いてないけど」

どうやらBとDは本気で言っているようでした。

「Aが死んじゃったのは俺たちのせいでもあるだろ?
だから嘘かもしんないけどさ、やってみないか?
もし本当にAを呼び出せるんだったら、ちゃんと謝ろうよ」

友達が死んだショックでおかしくなった訳じゃなさそうでした。
BはBなりに、Aの死への罪悪感で押しつぶされそうになっていたんだと思います。
だからできる事はなんでもやろうと思ったんでしょう。
僕らは賛成しました。
ぬる様を呼んで、Aの魂を呼び戻してもらおうと。

「やり方はネットで見つけたんだ。
本当だったらnullは何も無いって意味でプログラミングが失敗した時に出る表示なんだけど、あるコードを入力して最後にnullって打ち込むと…
じゃあ、やってみるよ」

うん、と返事を返して僕らはBがコードを打ち込むのを待ちました。
もちろん本気で信じた訳じゃないですが、Bの、みんなの気持ちがこれで少しは晴れるかなと言う思いでした。

「よし、いくぞ!」

そう言って入力が完了した瞬間、僕らしか入れないはずのワールドに5人目のキャラクターが現れました。
そいつは僕のキャラクターの真横にいて、こっちを見ています。
そいつは真っ白な見た目をしていて、目の部分がポッカリと空洞になっていて鼻や口はありませんでした。

「うわっ」

「なんだコイツ…」

「ホントに出た!」

ボイスチャットからみんなの声が聞こえて来ます。
どうやら、全員のゲーム画面にこいつは現れたようでした。
このゲームのワールドは、作った人が招待しなければ入る事ができないはずなのに。
その「null」と言う名前のキャラクターはいきなり現れたんです。
僕らが驚いていると、Bが言いました。

「ぬる様、ぬる様。
どうかAの魂をこのワールドに呼び戻してください」

しばらくなんの反応もなかったので単なるバグか?と思っていると、チャット欄に動きがありました。

null:もらう

しゃべった!
口々に驚きの声をあげる僕らをよそに続きが表示されます。

null:おまえらのいのちもらう

「うわっ!」

その瞬間画面が一瞬真っ白になった気がして、僕はゲーム機の電源ボタンを押していました。
画面は真っ暗になり、イヤホンからもみんなの声がしなくなりました。
またゲームを起動する気にもなれず、それでも友達が心配になり1階に降りてタブレットでみんなにメッセージを送ろうとしました。
しかし階下はすでに真っ暗で両親は寝てしまったらしく、タブレットは両親の部屋で充電するためその日は連絡をする事ができませんでした。

眠れぬ夜を過ごして朝の6時を迎えた頃、僕は両親の部屋へ向かいました。

「どうしたの、こんな早く?
いつもは8時くらいまで起きないのに」

不思議そうにしている母親からいいからタブレット貸して!と強引にタブレットを受け取り部屋に戻り、メッセージアプリを開きました。
そこにはCのメッセージだけが数件あり、

「なんだったんだ今の」

「みんな大丈夫か?」

「おい、誰が返事して!」

と焦っているようでしたが、BやDの返信はありません。
僕は慌ててメッセージを送りました。

「おはよう、ごめん!
親がもう寝ててタブレットが片付けられてて…
昨日のあれ、一体なんだったんだろう」

返事はすぐに来ましたが、わからない、残りの2人からはなんの返事もないと持っている情報は僕とあまり変わりませんでした。
できればその日集まりたかったんですが、あんな事故の後なので僕もCも親からしばらく家にいるよう言われてしまっていたので、モヤモヤした気持ちのままB、Dの返事を待ちました。

ゲームを起動する気にもなれずに溜まっていた夏休みの宿題をして過ごしていましたが、午後になっても2人からの返事はありません。
寝ていなかったせいかいつの間にか居眠りをしてたみたいなんですが、いきなり部屋に入って来た母親に起こされました。
びっくりして母親の顔を見ると泣きそうな顔をしながら

「よかった…」

と言い、ホッとしているようでした。
意味がわからないと言った顔をしている僕に、少し悲しそうな顔なった母親が言います。

「B君が亡くなったらしいの。
いつも昼くらいまで起きてこないからB君のお母さんもほっておいたみたいなんだけど、2時を過ぎても起きてこないから様子を見に行ったら…」

頭が真っ白になりました。
Bが死んだ?
僕の精神状態を考慮してか詳しい状況は教えてくれませんでしたが、自殺の可能性が高いと。
A君の死に責任を感じてのものだったらもしかして僕も、と母親は心配していたんです。
あなたが悪いんじゃない、自分を追い詰めないでねと僕を抱きしめ、母親は部屋から出て行きました。
その時の僕は、別の考えで頭がいっぱいでした。
もしかして、ぬる様に…?
そんな事ある訳ないと思いたくても、昨日の今日でのBの死に僕は恐ろしくなっていました。
僕もやつを見ている。
いのちをもらうと、言われている。
タブレットにCからメッセージが届いていました。

「Bが死んだらしい。

Dとは連絡がつかない」

心配ですぐにDの家に行きたかったんですが、こんな状況で母親が出かけるのを許してくれませんでした。
僕は真っ暗なゲーム画面を見つめながら、ひたすらDからのメッセージを待っていました。

嫌な予感は的中してしまい、それから数時間後Dの母親からうちの母親に連絡が来ました。
Dはあの事故の日向かっていた川にかかる橋から落ちて、川岸の砂利の部分に倒れて死んでいたそうです。
朝起きたらDが部屋にいないのを心配した両親が警察に捜索を依頼していたんですが、落ちた時に橋の真下に転がってしまい見つかるのが遅れたとの事でした。
橋は車がギリギリすれ違えるくらいの幅はあって割としっかりしていたので、真下は死角でした。
僕らを心配させないように、Dの両親はDが見つかるまでは僕らの親に連絡をしなかったようです。

これで2人。
ぬる様の事を知っていて、恐らく信じていた2人が死んでしまった。
きっと2人はあのぬる様からのメッセージの後もゲームをプレイし続けたんじゃないだろうか?
そこで何か恐ろしい事をされたり、自殺に向かうように洗脳されたりしたんじゃないか?
非現実的な考えが頭をぐるぐる巡り、次はCか、それとも僕か?と怖くなりタオルケットを被ったままベッドの上で丸まっている事しかできませんでした。

寝不足と心労がたたりそれから数十分だけ眠ってしまったんですが、何か得体の知れない白い影に追いかけられる夢を見ていた気がします。
嫌な汗をかいて目を覚ますともう夕飯の時間も過ぎていましたが、母親からの声はかかりませんでした。
恐らく部屋に様子を見に来たけど眠っていたので、そのままゆっくり休ませようと思ったんでしょう。
そのまま部屋に置きっぱなしだったタブレットを見ると、Cからのメッセージが来ていました。

「大事な話がある
通話できる?」

時間は20分くらい前だったのでOKと返信するとすぐにCからの着信が来ました。
すぐに通話を開始すると、Cは慌てたように捲し立てます。

「聞いたか?
Dも死んだってよ。
もう時間がないぞ、次は俺か、お前だ」

Dは何か知っているような口ぶりでした。

「どう言う事?
2人がなんで死んだか知ってるの?
やっぱりぬる様は悪霊みたいなもんで、何かしらの方法で罪悪感のある僕らを次々に自殺に追い込んでるの?」

「何言ってんだ、そんなもんある訳ないだろ!
あれは全部人間の仕業だよ!」

「だって、許可してないのにワールドに入って来たり、普通にありえないでしょ!」

僕が溜め込んでいた気持ちをぶちまけると、Cは少し冷静になったように1つずつ自分の考えを話してくれました。

「いいか、ぬる様なんていないし、2人は殺されたんだよ。
Bは部屋で自殺って言われてるけど、Bの家は平屋で夜は部屋の窓を開けて寝てたそうだ。
Dも橋から落ちたって話だけど、チャリは家に置きっぱだったらしい。
チャリでも10分以上かかるあの場所に、運動嫌いのDが歩いて行くと思うか?
誰かに誘い出されて、橋まで連れて行かれたんだよ」

まるで探偵ドラマの解決シーンのように話すCに圧倒されで黙って聞いていたが、もう1つの疑問をぶつけてみる。

「じゃ、じゃあどうやって俺らのワールドに入り込んできたんだ?
許可されてないワールドに入るなんて、ハッカーくらいしか無理じゃん!」

「わかんないか?
あのワールドに入れるのはAを含めた俺たち5人だけだ。
つまり、Aのアカウントなら入って来れるんだよ。
アカウント名と、見た目だけ変えて」

そこまで言われてやっとわかりました。
nullなんてキャラがいきなり現れたんじゃなくて、ワールドに入れる権利を持ったアカウントがnullと名前を変えて僕らの前に現れたんだって。
そして、それができるのはたった1人。
Aのゲーム機を没収していた人物…。

「Aの葬式のあとさ、俺たちが家に帰ってからもう一度親達だけでAの母ちゃんに謝りに行ったらしいんだ。
そこでAの母ちゃんにこう聞かれたらしいんだ。
皆さんのお子さん達は、うちの子をいじめてませんでしたか?って…」

「えっ?」

意外な言葉に驚きました。
もちろん僕ら5人は親友で、いじめなんかあり得ません。

「どう言う事ですか?ってうちの親が聞いたら、事故を起こしたトラックの運転手の話だとAは俺たちに置いて行かれて仲間はずれみたいに見えたらしい。
それで俺らが振り返って煽ったりした後にいきなり車道に飛び出て来たから、運転手から見たらちょっとしたいじめのように見えたんだってさ」

そんなバカな。
でも、大人の目から見たらそう見えてしまっていたんです。
4人の悪ガキが1人をからかって無理やりついて来させて、ビリだったら罰ゲームだ!みたいに見えたんでしょう。
事故の事もありますが、やっぱり車道でふざけるべきじゃなかったんだと思いました。

「もうわかるだろ。
Aの母ちゃんは俺らを恨んでる。
シングルマザーで頑張ってAに愛情を注いで来たんだ。

俺らがゲームをするのに集まる時間も知ってる。
ワールドに入ったのがバレないように、名前を空欄か.とかにしてたから俺らは気づかなかった。
そんで俺らのボイチャでAに謝りたいって言うのを聞いて、やっぱりこいつらのせいで!ってなったんじゃないかな。
会話の流れを聞いてぬる様になりきって俺たちを1人ずつ殺すことにしたんだよ、きっと」

自分が誰かに恨まれて命を狙われるなんて信じられませんでしたが、ぬる様なんて言う化け物よりは現実的な話でした。

「それなら…どうする?
今からでもAのお母さんに謝りに行く?」

すでに2人の命を奪っているのに僕らだけが許されるはずないかも知れませんが、どうしたらいいかわからない僕はそれしか思いつきませんでした。

「いや、今から俺がゲームにログインしてみるよ。
あれからずっとやってないけど、多分プレイし出せばAの母ちゃんもログインしてくるはずだ。
ホーム画面に通知が行くからな。
それで、ちゃんと話してみるよ。
俺らはいじめなんてしてません。
でも、本当にごめんなさいって。
それでもダメそうなら親に言って警察に相談かな」

「じゃあ僕も一緒にログインするよ!
1人だと危険だよ、もしかしたら親に相談する前にAのお母さんに…」

本当は怖かったけどCだけに押し付ける訳にはいきません。
けど、Cは覚悟を決めているようでした。

「…あの日、ビリはアイス奢りって言ったの俺なんだよ。
俺があんな事言わなきゃAは…

だから、これは俺の罪滅ぼしなんだ。
頼む、やらせてくれ」

もちろんあの事故はCのせいじゃありません。
僕ら全員に責任があります。
でもCは自分の最後の言葉のせいだと思い込んでしまっている。
意固地になったCを説得できないまま、いや、違いますね。
本当はやっぱり怖かったんです。
だから、気をつけてなんて都合のいい事だけ言ってCに任せてしまいました。

それから朝までCからのメッセージはなく、スマホを片手に泣きそうな顔で僕の部屋に入って来た母親の顔を見て全てを察しました。
僕は全てを両親に話し、警察に連絡してもらいました。

Aのお母さんは、亡くなっていました。
当初は息子を亡くし、その友人達を手にかけ最終的には自殺したのでは?と言われていましたが、少なくとも遺体は死後2、3日は経っているとの事でした。
つまりAの葬儀で目撃された後、すぐ亡くなっていたようなんです。
そして遺体が見つかった部屋のテレビにはゲーム画面がついたままになっていて、そこにはこんなチャット欄が残っていたそうです。

null:おまえのいのちもらう

Aのお母さんがどこで知ったかはわかりませんが、きっと息子の魂を呼び戻す為にぬる様を呼び出したんだと思います。
ぬる様は、願いを叶えてくれる神様なんかじゃありません。
目的もなくデータ上を彷徨い、自分の事を呼び出した者たちの命を奪う、死に神みたいなやつです。
僕はそれから、ゲームをしなくなりました。
そのおかげか中学生になった今も生きています。
これから先もきっと、どんなゲームもやらないと思います。
あいつはデータの世界でしか存在できません。
こちらから触れなければ、僕はきっと大丈夫なはずなんです。

クラスで人気者だった先生が、交通事故で亡くなってしまいました。
クラスは悲しみで満たされ、全校集会のあとの教室はすでに葬儀場のような雰囲気でした。
その空気をなんとかしようと、クラス委員長のEさんが突然こんな事を言いました。

「みんな、ぬる様って知ってる?
先生を、みんなのタブレットの中で生き返らせてあげようよ!」

僕は、学校へ行かなくなりました。

 

得点

評価者

怖さ鋭さ新しさユーモアさ意外さ合計
毛利嵩志121212151566
大赤見ノヴ171717171583
吉田猛々181617171785
合計4745464947234