「可愛いね」

投稿者:怖がりババア

 

物凄く申し訳ない話なのですが、私は誰かに「可愛いね」と褒められると、いつもゾワッと身の毛がよだってしまって、うまくリアクションできないのが悩みなんです。「可愛いね」って褒められているはずなのに、一体なぜゾワッっとしてしまうのか、今日はきっかけとなったその出来事についてお話をさせてください。

あれは小学5年生ぐらい頃の出来事でした。休日は家族でアスレチックなどが楽しめるレジャー施設によく遊びに行っていました。家族で遠出をする際は決まって家から車で10分ぐらいの商業施設に行って、車の中で食べるお菓子やお昼ご飯を調達する流れが定番だったんです。私達がよく行くその商業施設は、洋服館・野菜館・魚館・お肉館……といったように、カテゴリ毎に建物が分かれているタイプの施設でした。そしてその中の1つに、店内にお菓子しか売っていないお菓子館というのがありました。

私と当時小学2年生の妹は、親から各々300円を渡されて、お菓子館で好きなお菓子を買うのがお決まりのルーティーンでした。その間に両親は食品エリアでお昼ご飯や飲み物を調達します。私たちはお菓子館に入ると、早速今日食べるお菓子を物色するために、それぞれ目当てのお菓子のもとへ散らばりました。

当時小学生の私は歳の近い妹をライバル視していたので、どっちが良いお菓子を選べるか競争心を燃やしていました。よくある小学生らしい思考で、「できるだけ長い間楽しめて美味しいお菓子を選んだ方が勝ち」と勝手に思っていたんです。

私は自分が思う最高のお菓子をあらかた選び終えると、妹の選んだお菓子と比較しようと思いつき、妹を探しました。いつもツインテールの妹は、それほど混んでいない店内ですぐに見つかったんです。
「どのお菓子にした?」
私はいつもの調子で話しかけながら妹の持っていたカゴの中を覗いたのですが、それはいつもの妹らしくないチョイスでした。というのも、よくキラキラのネックレスとかキーホルダーとか、おもちゃ付きのお菓子ってあるじゃないですか。お菓子がラムネ10粒とかちょっとしか入ってなくて、どちらかと言うとおもちゃがメインの商品です。妹のカゴの中には、それがなんと2箱も入っていたんです。

レジャー施設に行くまで車で1〜2時間かかるのに、ラムネ10粒じゃ乗り切れません。これから遊びに行くのに大してお菓子の入っていないおもちゃ付きのお菓子を選ぶなんて馬鹿じゃないかと思いました。一方で、ライバルの妹がそんな愚かな選択をしていることに優越感が湧いた私は物凄く調子に乗りました。
「何こんなの選んでるの?」
私は妹を小馬鹿にした感じで笑ったんですね。

そしたら何か変なんです。妹は負けず嫌いで気が強いので、いつもだったら絶対何か言い返してくるんですけど、その時はなぜかずっと黙っていました。私は「ちょっと言い過ぎたかもしれない……」と不安になって妹の顔を見ました。すると、なんとそれは妹ではありませんでした。パッと見、妹に似ているツインテールの別の女の子でした。

私はすごい焦りました。妹は気の知れた仲なので許されるとしても、知らない女の子の選んだお菓子を馬鹿にするとか最悪じゃないですか。でも、小学生の頃の私は結構プライドが高かったので、普通に話しかけておいて今更「人違いでした」と謝るなんて、恥ずかしくてできません。
「まあ、これも可愛くて良いよね」
とりあえず女の子の選んだ商品を褒めることでその場を乗り切りました。その後はしれーっとして側を離れました。

私は先ほど人違いをした失敗を悔やみながらも、すぐに自分の選んだ最高のお菓子の最終検討に夢中になりました。他に気になっていたお菓子と見比べながら、「やっぱりこっちにしよう」などと入れ替えたりします。自分のお菓子を入れ替え終えると、改めて妹のお菓子選びの進捗状況が気になってきました。ふと店内を見渡すと、見慣れたツインテール姿を見つけたので声をかけました。

すると、その子はまたしても妹ではありませんでした。私がさっき妹と間違えた例の女の子だったのです。私は内心「また間違えたっ!」と焦ったのですが、やはりプライドの高さゆえに「人違いだった」とは言えませんでした。

「ふーん、それも選んだんだ。やるじゃん」
私は通りすがりのお菓子チェックの人を装うことにしました。その子のカゴを確認すると、先ほどとは違う種類のおもちゃがメインのお菓子の箱が増えていたので、それを確認しにきた体を取ったのです。そしてさりげなく自然な感じで側を離れることに成功しました。

私はすぐにその子とは距離の離れた棚の方へ行き、心を落ち着けました。「そもそも肝心の妹はどこに居るんだ?」と思っていると、後ろから声をかけられました。振り向くと紛れもなく妹でした。私はほっとしました。

「誰? 何話しかけてたの?」
妹は遠くから私が知らない女の子に話しかけていた様子を見ていたようで、不思議に思って聞いてきました。妹と人違いで話しかけてしまったことがバレたくない私は「別に?」と言ってはぐらかしました。

その後はお菓子選びの最終調整に入るため、妹と私はそれぞれ好きな所へ散りました。時計を確認すると、もうすぐ会計を済ませる時間です。私は妹に一声掛けようと思って、店内を探し、見慣れたツインテール姿に声を掛けました。

声を掛けた瞬間に私は「また、やってしまった……」と思いました。また、例の女の子を妹と間違えてしまったのです。この子に話しかけるのはもう3回目です。カゴの中のお菓子の数は先程と同じだし、良い加減話しかけた理由が尽きていました。それでも「人違いでした」と言えなかった私は、この場をどう無難に乗り切るか、一生懸命考えていました。

その時、女の子が前髪につけているキラキラしたぱっちん留めが目に入ったんです。そこで思いついた名案が、女の子の髪留めを「可愛いね」と褒める作戦でした。寧ろ髪留めを褒めるために「知らない子だけど何度も話しかけちゃってたんだ」という体を取ろうとしたんです。

私は早速その作戦を実行しました。
「そのぱっちん留め、可愛いね」
私の言葉を聞いた女の子は、ぱっちん留めを「あ、これ?」と外しました。私はその様子を見て「可愛いって褒めたから、私が欲しがってると勘違いして私にぱっちん留めをあげようとしてるのかな? いらないけどな」と思って、なるべく傷つけない断り文句を考え始めました。

しかし、女の子の次の行動に唖然としました。女の子は外したぱっちん留めを迷いなく口の中に入れたんです。しかも、「ふふふ」とニコニコ笑いながら、口の中でぱっちん留めを飴のように転がしてカラカラ音を鳴らしています。私は気味が悪くなり、愛想笑いをしながら早急に立ち去りました。

それからしばらく経ち、お菓子館でぱっちん留めを口に入れた奇妙な女の子のことはすっかり忘れていました。ある日、家族でホームセンターに出かけることになり、私は文具コーナーで色ペンを物色していました。当時学校では色ペンを集めるのが流行っていたので、誰もまだ持っていない珍しい種類のペンを見つけようと躍起になっていました。無事に近所ではまだ見ていない色のペンを発見して満足したため、ペンコーナーからノートコーナーへ移動しました。ノートコーナーには妹がいたので話しかけた所、それはなんと、いつかのぱっちん留めの女の子でした。

先日の嫌な記憶がよみがえりましたが、あの時に何度も話しかけておいて、今更「人違いでした」と謝るなんて流石にできません。なんとか穏便に離れようと焦っていました。すると、今度は彼女が指につけていたピンク色に光るプラスチックの可愛い指輪が目に入りました。当時馬鹿だった私は、浅ましくもまた同じ装飾物を褒める作戦で乗り切ろうと思ったんです。
「その指輪、可愛いね」
まるで最初からその指輪が可愛いとでも思って話しかけたかのように、自然に言うことに成功しました。すると彼女は自分の指から指輪をスッと外して、自分の口の中に入れたんです。女の子は口の中で指輪をカラコロ鳴らしながら、ニコニコと嬉しそうに笑いました。私はすごく不気味に思って、また愛想笑いでその場を立ち去ろうとしました。でもその時、「ゴクッ」と女の子が何かを飲み込む音が聞こえたんです。私はギョッとする余り、つい話しかけてしまいました。
「え、なんで飲み込んじゃったの?」
すると、女の子は不思議そうな顔をしてこう言ったんです。
「可愛いものを食べると、可愛くなれるんだよ」
私は「この子は何を言ってるんだろう。意味が分からない」と思って聞き返してしまいました。
「……そんなこと、ないよね?」
すると、女の子はいかにも当然といった雰囲気でこう言いました。
「ううん。ママが言ってたから、本当だよ?」

私はあまりの不気味さに耐えられず、足早にその場を立ち去りました。実は当時の私のクラスメイトには、空腹のあまり鉛筆や消しゴムを食べてしまう食いしん坊な子がいました。そのため、世の中には食べ物ではないものを食べてしまうちょっと変わった子もいるんだな、とは思っていました。でも、彼女の場合は食いしん坊とかの問題ではありません。ちょっと理解ができませんでした。そして、独特のあの異様な雰囲気。正直言って、もう関わりたくないと思いました。

あれ以降、家族で買い物に出かけた時、妹に話しかけるのがトラウマになってしまいました。しかし、あの一件以降、私から安易に妹に話しかけないように注意して過ごしていたせいか、あの奇妙な女の子と遭遇することもしばらくはありませんでした。

ある夕方、母親が夕飯に必要な材料を買い忘れたというので、私が近くのスーパーまでお使いに行くことになりました。普段なら「お使いなんて嫌だ」と断る所でしたが、当時の私はガチャガチャにすごくハマっており、母から「お釣りでガチャガチャをしても良いよ」と言われたので、喜んでお使いに出かけたのです。

ただ、買い物を済ませて意気揚々とガチャガチャコーナーに行くと、私がもう二度と会いたくないと思っていたぱっちん留めの女の子がそこにいました。その子を見た瞬間、体がこわばりましたが、幸運なことに女の子は私に気づいていないようでした。しかも、彼女はガチャガチャコーナーの奥の方にいました。私がいつもしているガチャガチャは手前の方だったので、彼女に気づかれずにガチャガチャをして帰ることはできそうです。

私はガチャガチャに使う小銭を予め財布から出して手に握りしめ、目当てのガチャガチャにそっと近づくと、なるべく静かにガチャガチャをしました。例のぱっちん留めの子と遭遇したくなかったので、本当はスーパーから離れてからカプセルを開けようと思っていました。でも、もし気に入らない中身だったらもう一回回したいという気持ちが勝り、その場でカプセルを開けました。カプセルの中を見ると、自分が目当てにしていた可愛いキャラが入っていました。思わずフィギュアに見入っていると、後ろから肩をぽんぽんとたたかれて、その瞬間身の毛がよだちました。

おそるおそる振り向くと、やっぱりそこには例のぱっちん留めの女の子がいました。彼女はあの独特の調子で話しかけてきます。
「それ、可愛いね」
私はサァーと血の気が引きそうになりながらも、力弱く「うん」と相槌を打ちました。女の子は追い打ちをかけるように言いました。
「ちょっと見して」
本当は渡したくなかったのですが、強く言えずに「うん」と答えて彼女の手にフィギュアを乗せました。
女の子は「可愛い……」と呟くと、手のひらのフィギュアをいろんな角度から見て、目を輝かせました。私はその様子を見て「流石に人のものは食べないよね」とちょっとホッとして話しました。
「これ可愛くてずっと欲しかったからすごく嬉しくてさ」
すると、女の子はなんの躊躇もせずにフィギュアを口に入れました。私が驚き過ぎて何も言えないままでいると、彼女の口の中から「ゴリゴリ」という音まで聞こえてきました。彼女はニコニコ笑いながら「美味しい……」と言っています。

すると、彼女は「あ」と何かに気づいたような顔で私の顔を覗き込みました。私はその瞬間、嫌な予感がして、この女の子の次にいう言葉が予想できてしまい、聞いてはいけないと思いました。そして女の子は、その言葉を言おうとしたんです。
「お姉さんも、かわ」
「#$%&#$%&#$$%&!!」
私は彼女が言い終える前に悲鳴をあげて逃げ去りました。

それ以降、あの女の子には会っていません。もう二度と会いたくもありません。あれから、人に「可愛い」と褒められるのが怖くてたまらないのです。

 

得点

評価者

怖さ鋭さ新しさユーモアさ意外さ合計
毛利嵩志121212151566
大赤見ノヴ151515151575
吉田猛々161717171683
合計4344444746224