先日、九州に住んでいる従兄が仕事帰りにうちに寄ってくれた。
これはその従兄が体験した話だ。
従兄は母の一番上の姉の子で、僕とは10歳以上年が離れており、見た目はタレントのヒロミにめちゃくちゃ似てる(僕は20代前半)。
兄ちゃんは、20代後半までは陸上自衛隊に居たのでとてもガタイが良い。
除隊後は田舎に帰り長距離トラックの運転手をしている。
僕の家は愛知県にあり、兄ちゃんはこっち方面の仕事がある時は休憩や宿泊目的でたまにうちに泊まるのだ。
兄ちゃんが来ると、母も喜ぶし、兄弟がいない僕は兄ちゃんが大好きで話を聞くのが毎回とても楽しみだった。
今回は、東京まで荷物を運んだ帰りで次の仕事もないため一晩泊ってくれるということだった。
皆で夕飯を済ませ談笑したあと、兄ちゃんは二階の僕の部屋へ来てくれた。
二人でビールを飲みながらTVを見て過ごしていたが、番組と番組の間に流れる短いニュースを見た後、兄ちゃんがふと思い出したようにスマホを取り出し、何枚かの写真を見せてくれた。
見せてくれた写真は、古びた感じの田舎にポツンと建ったガソリンスタンドの写真が二枚。
遠くから写したものと、ガソリンスタンド内で老夫婦らしい男女を撮った写真。
そして、トラックの運転席から右前方の道路際を撮った風景写真。
最後の写真は、運転席からどこかのサービスエリアを写した写真。
真っ暗な中、駐車場を通ってサービスエリアの建物に向かって歩いていく三人の男性が写っていた。
「?」僕は、よくわからなかったので、兄ちゃんに「これどこなの?」と聞いてみた。
兄ちゃんは、少し考えるようにしてから、
「う~ん、これなぁ、鹿児島と広島で写した奴なんだわ。ちょっと怖い思いをしたんだ・・・」と話し始めた。
【兄ちゃんの話】
※ここからは兄ちゃんから聞いた話を兄ちゃん視点で書かせていただきます。
今回の目的地は東京、実家の阿久根市(鹿児島県)から出発し、片道二日かけて行く行程だった。
夕方、実家を出発、阿久根IC(鹿児島県)から南九州自動車道へ入るのだが、給油をしてからにしようと思い走らせていると初めて見るガソリンスタンドを見つけた。
「こんな田舎にもあったんだな・・・。」
海沿いの国道にポツンと建っている、ちょっと古めかしいガソリンスタンドだが、割と金額も安いし、車は一台も停まってないので「ちょうどいいや」と思い入ることにした。
ポツンと建っているのがちょっと面白くて、入る前にスマホで一枚撮った。
トラックをおりると、小柄なおばあさんがこじんまりした店舗から出てきた。
見た感じは80代でにこやかな、感じの良いおばあさんだった。
「すいません、給油お願いできますか?何なら自分でも出来ますけど。」と少し大きな声で話しかけると、おばあさんは、「はいはい、そりゃあありがたいです。」と言って給油場所に案内してくれた。
トラックを停め自分で給油を始めると、裏手の方からしっかりした足取りのおじいさんが手拭いで顔を拭きながら近寄ってきた。どうやらご主人のようだ。
「いやあ、いやあ、おっきなトラックだねぇ、どこに行くんだい?」
おじいさんは、トラックを見上げて楽し気に聞いて来たので、「これから東京まで荷物を届けに行くんですよ。」と答えた。
「ほうかほうか、東京なんて行ったこともねぇわ、気ぃ付けて行ってきてなぁ。」
そうおじいさんが言うのを、おばあさんはニコニコしながら頷いて聞いていた。
俺はこの老夫婦がとても気に入り、ちょっとだけ話を聞いてみたいと思った。
「このガソリンスタンドってどれくらいやってるんですか?俺、今日初めて知ったんですよ。全然気づかなかったなぁ・・・」
おじいさんは「ほうだなぁ、もう何十年もやっとるけど、あまり普段はお客も来んでなぁ、裏で畑やったりしとるんよ。」とニコニコしながら教えてくれた。
俺は心の中で「それにしてもほんとに気付かなかったな・・・」そう思いながらも、この老夫婦に会いにまた来たいなと思うようになっていた。
給油が終わると、老夫婦に「記念写真撮っていいですか?」とお願いし、写真を撮らせてもらった。それが一枚目と二枚目の写真だ。
写真を撮ってトラックの運転席に乗り込もうとした時、おばあさんが前掛けのポケットから小さな巾着を取り出して俺に手渡してくれた。
「あんさんね、道中気を付けてね。これはお守りだから持ってって。」おばあさんは、にこやかな笑顔で手作りの御守りをくれた。
おじいさんは最後に「いま、時期が時期やからなあ・・・気をつけてな。」とこれもまたにこやかに声をかけてくれた。
俺はおじいさんの言葉の意味が分からず「ん?なんだ?虫とか食中毒とかのことかな?(笑)」と思いながら、ガソリンスタンドを後にした。
充分に給油も済ませ、気の良い老夫婦にも会い、今回は気分よく仕事が出来そうだと思いながら国道を走らせると、10分も行かないうちに、前方、かなり離れているが、ピョンピョンと飛び跳ねながら両手で大きく手を振る二人組が目に入った。
「ヒッチハイクなんて最近珍しいなぁ」と思いつつスピードを落として近付くと二人組は必死の形相でこちらが停まるのも待たずに駆け寄ってきた。
危なすぎるので最徐行しながら、かなりゆっくりと停車させて、俺は窓から大声で
「こらこら!危ないだろ!停まるまでちょっと待ってろよ!」と二人を制止した。
夕方とは言え、まだまだ明るく、二人の姿はよく見える。
二人とも大学生と言う感じ。
やんちゃな感じでも羽目を外すような感じでもないように見えた。
トラックを停め、運転席から降りると、二人は我慢しきれないといった風に駆け寄ってきて、二人で一斉にしゃべりだした。
「すみませんすみません!お礼はしますんで乗せてください!」
「はやくはやく!お願いです!お願いです!」
片方の男の子は顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていた。
もう一人の子も顔面蒼白で、いつの間にか俺の右腕を両手でしっかりと握っている。
その手はあまりに冷たく、びっくりしたが、力がこもって爪が食い込むほどだったので、反射的に「いたたたた!おいおい、落ち着けって!」とその手を強引に振りほどいた。
あまり面倒事に巻き込まれたくはなかったが、止まった以上放っておくわけにもいかず、IC手前に長距離バスのターミナルがあったことを思い出して、そこまで乗せれば良いか、と思い二人をトラックに乗せることにした。
二人をトラックの助手席に乗せ、ペットボトルのお茶を渡すと、二人は慌ててグビグビと飲みだした。
「おいおい、慌てるな、慌てるな。いったい何があった?」
俺はさすがに事情が知りたくて聞いてみた。
すると俺の腕をつかんできた方の男の子が、ガチガチと震えて歯を鳴らしながら、話し始めた。
ICまではまだ30分以上は走らせなきゃならない。
男の子「あのですね、僕ら広島から旅行に来ているんですけど、昨夜、そこの浜辺で野宿してまして・・・」
阿久根市は東シナ海に面していて、あまり知られていないが、かなり景色が良い。
初夏から夏にかけては、湿気も少なく爽やかな暑さで都会よりもよっぽど過ごしやすい。
東京から来る旅行者はあまりいないが、広島辺りからは結構来るのかもしれない。
彼らは広島に住む大学生ということだった。
時期が良いので、キャンプしたりして自然を満喫するつもりだったという。
最初に話をしてくれた男の子をA君、泣きじゃくっている男の子をB君と呼ぶ。
二人はヒッチハイクではなく、普通に電車やバスを利用して旅行していた。
荷物は最小限でキャンプと言ってもほとんど現地のコンビニで何か買って飲み食いする、と言う感じだったらしい。行き当たりばったりの気ままな旅行だ。
A君は静かにゆっくりと話し始めた。
「数日旅行して満足したので、昨晩、旅行の記念に1回は野宿してみようと思って、さっき乗せていただいた場所から少し降りた浜辺で野宿したんです。」
「天気も良かったし、浜辺は綺麗で旅を締めくくるにはもってこいの場所だと思いました。」
俺はさっきの様子から何が起こったか知りたくて話をせかすように「そこで何があったんだ?ちょっと異常だったぞ。」と文句交じりに問いかけた。
A君は頭を抱えて震えているB君に目をやり、また話し始めた。
「自分もちょっとわからないんです。いや、起こったことは話せるんですが、理解できないところもあって・・・」
「僕らは、飯も食って色々しゃべったりしたあと、夜空と海に浮かぶイカ釣り船の灯りがきれいだったので、スマホのカメラでお互いを撮りだしました。」
「何枚か撮っていると、海を背にしていたBの後ろにいつのまにか男の人が立っていて、びっくりして話しかけたんです。」
「騒がしくしてすみません、土地の人ですか?と聞くと、その男の人は黙って海の方を指さしました。」
B君は小さく「ひっ!」と声を出した。まだ頭を抱えている。
A君は続けた。
「僕は、ああ、向こう岸に住んでいるんだな、と思いましたが、その時、海に浮かんでいたイカ釣り船の灯りがすべて消えていることに気が付きました。」
「そして、空にはいつの間にかどんよりとした雲がかかっていて、月も星も見えなくなっていることにも気が付きました。」
「辺りに灯りになるようなものは何もないのに、僕らはお互いの顔を見ることが出来ました。男の人の顔は見たと思いますが今は思い出せません。」
「たぶん、男の人自身が淡く光っていたんだと思います・・・何を言っているのか、自分でもわかりませんが・・・」
俺は、運転しながら助手席へ顔を向けた。A君はこちらも見ずに正面を向いている。
B君は両手で頭を抱えて震えていた。
俺は、ちょっと意地悪っぽく「え?それって幽霊ってこと?怪談なの?」と半笑いで問いかけた。
A君は正面を向いたまま「ええ・・・どうなんでしょうか・・・今にして思えば、夢なのかも、と思い始めてます・・・でも、」
A君が言い終わらないうちに、B君が突然大声で叫び出した。
B君は頭を上げて、正面を見ていた。いや、右前方に目をやっている感じだ。
B君の視線を追うように俺も右前方に目をやった。
ちょっと離れた前方の道路際にぽつんと黒い人影が立っていた。
「あれ?これもヒッチハイクかな?」と思って、スピードを落としかけた時、B君とA君が同時に「止まらないで!!」と叫んだ。
「え?え?だって手ぇあげてんじゃん。君らと同じヒッチハイクだぞ。ここらは店も何もないし・・・」
ちょっとムカッと来た俺は、すぐに道路際にトラックを寄せて停車した。
前方の人影にはまだ100メートルくらいある。その気があれば、向こうから歩いてこれる距離だ。
俺は二人の身勝手さを注意しようと体の向きを変え「あのなぁ、お前ら・・・」と話し出した。
A君はその俺を制するように「早く行ってください。あいつは人じゃないです・・・」
と静かに前を見据えながらポツリと言った。
「はあ???」と俺は呆れた顔をして説教をしようとしたが、A君は、「お兄さん、スマホあります?カメラであれを見てください」と言った。
「え?何で・・・」俺は、A君の態度に真剣なものを感じたからなのか、自分のスマホを取り出してカメラを起動させていた。
「お兄さん、あれ・・・写ります?画面に映ってます?」
A君がそういうので、俺は「はあ?何言ってんの?」と言いながら、スマホを前方に向けた。
いつのまにか人影は、左手を高くあげながら、こちらにゆっくり歩きだしていた。
「ほら、やっぱり困ってるんじゃん・・・」そう言いながら俺は自分のスマホに目をやった・・・「!?」俺は声を上げることが出来なかった。
スマホには、何も映っていない・・・
スマホの画面には・・・もう夕闇も迫りだしている一本道の広い国道と周りの殺風景な風景以外・・・何も映っていなかった。
「カシャッ!」とスマホの音がしたのは、俺が無意識に指を置いたせいだ。
スマホの画面から目を離して、前方の道路を見る。
黒い影が左手を大きくあげながら、ゆっくり、ゆっくり歩いてくる・・・。
もう一度、スマホに目をやる。
先ほどと同じく、写っているのは道路と景色だけ・・・。
俺は背筋が凍りつくのを生まれて初めて体験した。
「で、出るぞ・・・」
俺は、トラックを発進させた。
“あの人影”のすぐ横を、スピードを上げながら通り過ぎる・・・
バックミラーを除くと、何も映っていない。
運転を始めたので、自分の目で後方を確かめることは出来なかった。
「あ、あ、あ、あれって・・・」情けないことに俺は声が上ずっていた。
A君は後ろを振り返っていた。
A君の席は窓から離れているので後ろは見えないのだが、気持ちはわかる。
B君の席からは窓から後方を見ることは出来ただろうが、B君の怯えようを考えるとそんなことは出来ないだろうと思った。
「“あれ”がスマホに映らないんだって、わかったのは、自分が“あれ”に声をかけた直後でした。」
A君はさっきの話の続きをし始めた。
「どこの方なのか男性に聞いて、その男性が海の方を指さした時、Bを写そうと思って立ち上げっぱなしになっていたスマホのカメラが目に入りました。そこにはBしか映っていませんでした。スマホのレンズを指で拭いて、改めてその男性に向けましたが、B以外は写りません・・・これはヤバい、と思い。Bの手を引いて走り出したんです。」
「最初に男性が近付いて来るのがわからなかったのは、画面に映っていないからだと気付きました。僕たちは必死で、道路のある土手の上を目指して走りました。やっとの思いで上にたどり着いたと思ったら、いつの間にか日が昇っていて、お兄さんのトラックが来るのが見えたんです。自分たちの体感では何時間も経っていないはずなのに、もう夕方だなんて・・・わけがわかりませんよ・・・」
俺は頭が混乱して、どう答えることも出来ないまま、トラックを走らせていた。
もう阿久根ICに差し掛かっており、当初この二人を降ろそうと考えていたバスターミナルはとっくに通り過ぎていた。
「仕方ない、広島で降ろそう」そう思って、二人には「広島まで送るよ。」と伝え、少し休むように言った。二人はホッとした表情になり、B君も怯えた様子もなく安堵していた。
そうして6時間ほどで広島に入ると、A君は「サービスエリアで降ろしていただければタクシー呼べますので、そこで良いです。」と言ってくれた。
正直、こちらとしてもありがたい。
B君は、トラックを下りる時に「自分ら、お金も置いてきちゃったんで、住所を教えてください。」と言ってくれたが、俺は「礼は要らない」と断った。
「それじゃあ申し訳ないから」とB君はウエストポーチに入っていた、コンビニのサンドイッチを渡してくれた。
俺はちょっと笑って、それを受け取り、サービスエリアの建物に向かって歩き出す二人を見送った。話のタネにと思ってスマホでその後姿を撮り、東京に向かってまた走り出した。
「と、まあこれが俺の体験した話なんだけど・・・」と言って兄ちゃんは、自分の傍らに置いていたカバンに手を伸ばした。
「ちょっとさぁ、これ見てくれよ・・・」と言ってガサガサ出してきたのは、中身のないコンビニのサンドイッチの袋だった。
「え、何?ゴミじゃん(笑)」僕は笑って、兄ちゃんの話のオチはどんなもんなのか、ちょっと期待していた。たぶん作り話なんだろうな、と思いながら。
サンドイッチの袋を見ながら、意味が分からない僕に、兄ちゃんは「わかんない?変なとこあるだろ?」と痺れを切らして言ってきた。
僕は本当に何のことかわからない。
「そのさ、賞味期限見てみ」
そう言われて「あれ?」って思った。
賞味期限が・・・1年前だ・・・。
「え?これって去年の話??」
僕が聞くと兄ちゃんは、困った顔をして
「いやいや一昨日の話なんだよな・・・」とだけ言った。
兄ちゃんは、僕をからかうことは昔からしていたが、こんな嘘やイタズラはしない人だ。
「な、訳が分からんだろ?」と言った兄ちゃんは、また
「ほら、この写真、もう一度見てみ、最後のやつ」と言いながら、もう一度スマホを見せてきた。
最後の写真に写っていたのは、若い二人の男性の後ろ姿と、少し後ろについていくような形で、青白い服を着た男性の後ろ姿が写っている。
「これな、写真を撮った時は気付かなかったけど、一人多いんだよ。広島まで着いてきちゃったんだろうな、って思うわ」と兄ちゃんは淡々と話した。
何とも言えない空気が流れた僕の部屋だったが、「おーい、○○ちゃん(にいちゃんのこと)来てたか~」と階下から親父の声がした。
深夜になって、親父が仕事から帰ってきたのだ。
親父は僕の部屋まで上がって来て、「何の話をしとったんだ?」とニコニコしながら聞いて来た。
僕は兄ちゃんが不思議な体験をした、と親父に話し、兄ちゃんは親父に同じ話をもう一度してくれた。
親父は実家が寺で、怖い話と歴史の話がめっぽう好きな人間だ。
兄ちゃんの話を聞くと、親父は、
「そういや、今頃って、東シナ海じゃ慰霊の時期だろ。」
僕と兄ちゃんはそれを聞いても良くわからなかった。
「第二次世界大戦の終わりくらいだけど、戦艦大和って知っとるか?大和は東シナ海の結構南の方で沈んだんだわ。4月7日だったかな?大和の乗組員で亡くなった兵隊さんも多くてな。沈んでしばらく経ってから遺体が流れ着くことも多かったらしい。」
「だから今の時期、あそこら辺は慰霊の時期なんだな・・・」
「海からあがってきたのは、兵隊さんだったのかもなぁ」としみじみ言いながら、
親父はハッと思い出したように兄ちゃんに
「あ、おばあさんからもらった御守りはどんなのなんだ?見せてくれ。」と言い、兄ちゃんはまたカバンから小さな布製の巾着で出来た御守りを取り出し、親父に手渡した。
親父はその御守りをひっくり返したりして見ていたが、巾着を開いて中を覗き、「ああ、これなぁ・・・」と納得した表情を見せた。
「何なんです?」兄ちゃんは、親父に聞いた。
「ほら、これ見てみな。これはな、『千人針(せんにんばり)』だわ。」
キョトンとする僕に親父は説明してくれた。
『千人針(せんにんばり)』とは、かつて戦時中に、出征する兵士に向けて送った御守りで、地域の女性がひと針ひと針、縫い目をつけて兵士(家族)の無事を祈願したものだそうだ。
「これは切れ端を巾着に入れたものだから、たぶん、遺族に戻ってきたものなんだろうな・・・」
「本来はもっと大きくて、腹巻なんかにしてたもんだからな。想像だけど、ご遺体と一緒に戻ってきたか、切れ端だけ戻ってきたかわからんが、それを使ってご家族が記念にこしらえた御守りなんだろう。」
「○○ちゃん、これが守ってくれたんかもな・・・」
親父は「うんうん」と自分で納得したように腕を組んで頷いていた。
兄ちゃんも「そうかぁ」と言う感じでしんみりとうなずいていたが、
僕だけは、いまいち納得できずにいた。
「本当に守ってくれたの?ひょっとして呼び寄せていたんじゃないの?」
「あのふたりの大学生は生きている人だったの?」
翌日、兄ちゃんは元気にトラックで鹿児島まで帰って行った。
その後、特に事故や病気になったわけでもない。
ただ、あの老夫婦のガソリンスタンドはどれだけ探しても、まだ見つからないそうだ・・・。