祖父は心の病を長く患っていた。
山の中の集落で。築70年にもなる暗く湿った家の中で。祖父含め全員が疲弊していた。
ある日、ぼうっと俯く祖父は、隣にいた私へ囁く。
「毎晩夜中になるとな、男が天井からぶら下がってウラを見て、笑ってる」
大好きだった祖父が、いよいよ壊れてしまったように思えて私は泣いた。
その晩もいつものように祖父は「来るな!殺してやる!」と寝ながら絶叫して、布団の上で暴れる。
数年後、祖父は自死を選んだ。
天井からぶら下がる方法で。
夜中に現れる何かは祖父自身だったんじゃないかと、家族には言えない。