蝉が好きで。蝉捕りが好きで。
血走った眼のように筋が広がる羽がキレイで、それをむしり取るのがどうしよもなく好きだった。
死んだ蝉ではダメ。生命力溢れる蝉からもいだ羽だけが美しく、暴れるせいでキレイに剥ぐのは苦労するが、その分うまくいけば感動もの。胴体だけの蝉は幼虫に赤ちゃん返りしたふうで、それもそれでかわいかった。
ある夏、耳が変に。中で何か這うようで気持ち悪く、と、急に蝉の声がぐわんぐわん木霊する。血が出ても構わず執拗にほじくった結果、失聴した。
昆虫の羽は人間の耳に当たるのか、とぼくは不思議だった。