…迷子のお知らせです…
デパートの放送。続きは、ノイズでよく聞こえない。
「いい子だから、いくよ」
“母”は振り向かず、幼い私の手を引く。ヌメヌメ。妙に汗ばんでいる。エレベーターへ。体臭が生臭い。
着くと、扉が開いた。強烈な潮の香り。海の死臭。
吐き気を催し、腕を振り逃げた。
「クソがッ」
その憎悪でようやく、母でないと気づいた。
泣き惑う私は保護され、本物の母に返された。なぜあの女を母と思ったのか。思い出せるのは、ドロドロに腐った卵に手を浸したような、ぬらぬらした感触だけ。
彼女も迷子だったのかも、ふと思った。