お母さんは泣き虫な私によくウソをついた。
私が黒焦げの卵焼きを出した時も
「とっても美味しいよ」
と食べてくれた。
私が窓ガラスを割った時も
「窓ガラスにヒビが入っていたから、取り替えようと思ってたのよ」
と心配そうに笑ってくれた。
私が病室でお母さんの手を握って泣いていた時も
「来月には退院できるからね」
と頭を撫でてくれた。
お母さんが亡くなって年月が経ち、私は1人暮らしを始めた。
ある夜、部屋の隅に髪の長い女が立っていた。
その時
「悪いオバケじゃないから怖がっちゃダメよ」
と耳元で優しく力強いお母さんの声がした。