時々行く理髪店の、鏡と反対側の棚にはカット練習用のマネキンが多くあった。みな前向きなので、鏡で目が合う。
「緊張しますね」
冗談で言った。
「ははっ、でも時々来ますから。教えてもらわないと」
意味が分からない。後は会話もなく、睡魔の中ふっと見ると、首だけのマネキンらがバラバラに顔を向けていた。まるで正面から目を逸らすように……。
「動くな。切りにくい」
獣臭が漂った。店主の口から。ぬめった息が当たる。だらり、膿んだ唾液がうなじから背へ、生温かく伝った。
ヂョギンッ……音を立てる。
「じゃあカッコよく切りますね」