私は昔から、人には見えないモノが見えた。もう大抵の事には驚かない。
「いないいなぁい…」
昼下がりの電車、前の駅で乗ってきた若い女が私の前に立ち、両手で顔を覆っている。
「ばあ!」
現れた顔は、福笑いの様にパーツがバラバラだった。
「いなぁいいなぁい、ばあ!」
大袈裟な身振りで再び現れたのは、先程とは違う散らかり方の顔。この程度の怪異、見えないフリをすればやり過ごせる…
ふと異様な空気に気付いて、凍りついた。車内のまばらな乗客は全員青い顔で俯き、こちらから目を逸らしている。
みんな、見えてる。
え、これ、なに?