夜中に誰かが頬をなでた。その手の温かさで目覚めた。母が今まで見たことのない、優しい顔で私を見ていた。
「夢を見たの。あなたが川で溺れている。手をのばしても届かない。夢でよかった」
まどろみながら母の声を聴いていた。母の手の温かさにつつまれて、再び眠りに落ちていった。
―それは、幼い日の記憶。
夜中に息苦しくて目覚めた。母の手が私の首を絞めていた。
「ごめんね。一人で死ぬのはさびしいの」
母は謝りながら、私の首を絞め続けた。遠ざかる意識の中、ふいに幼い日の記憶が甦ったーあの時、私は十年の人生で一番幸せだった。