「顔なじみの乗客」

投稿者:幻月 沙波

 

 田中さんは毎朝、同じ時刻の電車で通勤している。
 その車内で、ここ最近、必ず隣り合わせる女性がいた。
(明日は会釈でもしてみようかな)
 そう考えていたが、翌朝はうっかり寝坊してしまった。
 ホームに駆け込んだ田中さんの目の前で、いつもの電車のドアが閉まる。
 ドアの側には例の女性がいた。田中さんを見てクスクスと笑っていた。
 三分後、次の電車が来た。
 それに乗ると、目の前にあの女性が立っていた。
(そんな馬鹿な……?)
 すると、女性は田中さんの耳元で、
「ダレニモイウナヨ」
 そうつぶやき、泥のように崩れて消えた。

 

得点

評価者

怖さ鋭さ新しさユーモアさ意外さ合計点
大赤見ノヴ171716161783
毛利嵩志151215121569
合計3229312832152