田中さんは毎朝、同じ時刻の電車で通勤している。
その車内で、ここ最近、必ず隣り合わせる女性がいた。
(明日は会釈でもしてみようかな)
そう考えていたが、翌朝はうっかり寝坊してしまった。
ホームに駆け込んだ田中さんの目の前で、いつもの電車のドアが閉まる。
ドアの側には例の女性がいた。田中さんを見てクスクスと笑っていた。
三分後、次の電車が来た。
それに乗ると、目の前にあの女性が立っていた。
(そんな馬鹿な……?)
すると、女性は田中さんの耳元で、
「ダレニモイウナヨ」
そうつぶやき、泥のように崩れて消えた。