骨董屋で掛け軸を買った。
床の間に吊っておいた。
数日後、夜中ふと目が覚めると、老人の顔が宙に浮いているではないか。
声を上げようとしたが身体が動かない。老人は一心に掛け軸を見ており、私には目もくれない。
暫くして老人は消えていった。
それから毎夜、出現するようになった。
もしかしたら掛け軸の持ち主かもしれない。
ある時そう思った。その夜は老人に向かって心の中で叫んだ。
「それ偽物だぞ。五百円だったぞ」
老人が私をにらんだ。ぞっとしたが、ふっと放心した表情になったのを見逃さなかった。
それから、老人は出なくなった。