「祠のお姉さん」

投稿者:ミサカ

 

私ナナフシギさんにぜひ聞いて欲しい話があるんです。
人に話すと呼んでしまうんじゃないかと思って
ずっと秘めてた体験があるんです。
もう私の中ではあれから何年も経つし時効だと思いますので
目を通して頂ければ幸いです。
信じてもらえなくても構いません。

今から20数年前、父方の田舎で体験したお話です
元々は祖父母とは近距離別居でしたが
地方の山の田舎。
当時は近所のお姑達と結託して嫁いびりをするような土地でした。
私の母と祖父母も当然うまく行かず近距離別居は解消し私が幼稚園に上るタイミンで市内に移り住みました。

お正月やお盆時などで定期的に帰省はするものの
母はいつしか泊まらなくなり父も仕事が忙しく弟もいましたが、まだ小さかったので
私だけで泊まることが多くなってきました。

私個人と祖父母との関係は特に悪くなかったのですが
一つだけ嫌だったことが。
それは鍵をかけないので近所の方が自由に出入りしていた事です。
知らない間に近所の人が勝手に入ってきて
1階のリビングでいつの間にかコーヒーを飲んでいたりするんです。
それだけでしたらいいんです。
お菓子をくれたり、運が良ければお小遣いをもらったり…可愛がってもらってましたから。
ただ勝手に上がり込んでくるその中の1人のおばぁさんがすごく嫌だったんです。
特に嫌なことを言われたり実害があったわけではありません。

ただ怖かったんです。
顔つきもまるで鬼のようで小さい私にはそれすら恐ろしくて
何より恐ろしいのは黒かったんです。
肌が黒いとかそういう事ではないんですが
体に纏っている空気感と言いますか…
とにかく黒くてドロドロしていて
気持ち悪かったんです。
同じ空間に居るのも耐えられませんでした。
なのでその人が来てると思うと
顔を合わさないように
2階へ逃げるようにしていました。

そんな嫌なこともありますが
何もすることがない田舎で唯一楽しみにしていたのが
夕方に祖父と行く山での犬の散歩でした。
山と言っても小さい小山で子どもの足でも30分もあれば降りてこられるような小さな山です。
道も何となく舗装されていて
ポツンポツンと民家が立っているような場所です。

私が小学1年生の頃だったと思います
その年のお盆は母に送ってもらい私1人で泊まりました。
その帰省の際にも犬の散歩へ連れてってもらっていました。
何度も通った山道ですがその時は見慣れない物を見つけました。
子供から見ても朽ち果てていて今にも壊れてしまいそうな小さな祠を見つけたんです。
それまでは全く気づきませんでした。

何かあると認識したと同時に
漠然となぜか私の中に「さみしい」と言う気持ちが湧き上がってきました。
お供えできるようなものを何も持っていなかったのですが
近くに生えていた白い小さなお花を1輪ちぎって祠の前に置き
これでさみしくないよ!大丈夫だよ!
と思いながら手を合わせていました。

すると祖父が

お〜い!早く行くぞ〜!

と私を呼び何事もなく、いつものルートで近所の人たちと挨拶や雑談をしながら散歩を終えて帰りました。

田舎の朝は早く、祖母も朝5時には起きて身支度や朝ご飯の準備をするので
私が起きる7時頃にはリビングで近所のお友達数名と朝のコーヒーを飲んで雑談をしていたりするのですが
その日は私の大嫌いなおばぁさんの声がしました。
寝室は2階なのですが
顔をあわせたくなかったので
その日はそのおばぁさん達が帰ってから
1階に降りました。

いくら子どもと言えど寝起きから嫌な人と会うと気が滅入るものです。
その日は祖父に無理を言って
気晴らしにお昼ご飯を終えてから早めの散歩に連れて行ってもらいました。

犬を連れて山道に入り
昨日祠を見つけた所が見えてきました。
すると祠があった場所から
巫女さんと言いますか‥天女様と言ったほうがいいのか‥
白い服を着たキレイな色白のお姉さんが
長い黒髪をサラサラなびかせて山からスッーと滑るように出てきたんです。
昨日お供えしたお花を手に持っていました。

私は、あ!祠の人だ!と思いました。
祖父には見えてないようです。
もうこの頃には見える人と見えない人がいると
何となく分かっていたのもあって
こういった不思議な事には慣れていました。
祖父に見えていなくても私は何も不思議には思いませんでした。

祠のお姉さんは私と目が合うと
ありがとうと言わんばかりにキレイに微笑んで
私に会釈をしてスッと消えて行きました。
私は何だか新しいお友達が出来たような嬉しい気持ちになり
その日もまたお花を祠の前に置き手を合わせました。
今日の夜にはお母さんたちが迎えに来て私はお家に帰るけどまた来るからね!
と心のなかで話しかけました。

そして次のお正月に帰省した際は
母も父も弟も一泊することになりました。
その時の散歩は弟も一緒に行くことになりました。
犬を連れた祖父が先を歩き
私と弟は少し後ろから続く形で歩いていました。
祠を見つけた場所が見えてきたので
弟にも祠を見せてあげようと思って
これ見て!と教えてあげたのですが
「え。何言ってるの?何もないよ」と怪訝そうに言われ弟は少し先を歩く祖父の方へ走って行きました。
でも私にはハッキリ見えてるんです。
少し驚いたんですが、そういうのには慣れっこだったので
あまり気になりませんでした。
私1人祠の前で立ち止まって家から持ってきていた飴を一つお供えしてまた手を合わせました。

散歩から帰ってから弟が母に
お姉ちゃんが変なこと言ってきて怖いと
母に告げ口され母にも
また変なこと言って!やめなさい!
と気味悪がられましたが
それも度々あることなので気にしていませんでした。

その日を堺に田舎に泊まっていると
たまに夢に祠のお姉さんが出てくるようになりました。
真っ白な空間の中で自分が遊んでるんです。
仕切りや壁も何も無いんですが
感覚でここまでは自分の部屋。
そこから先は外。そんな感覚です。
自分の部屋でお絵かきだったり、縄跳びだったりしてると祠のお姉さんがいつの間にか
私の部屋に現れて一緒に遊んだり
私が遊んでるのを隣で微笑みながら見守ってくれる、毎回そんな夢でした。
特別な会話も何かをするわけではないんですが
私にはとても安らげる心地の良い夢でした。

それから翌年のお正月。
帰省のたびに散歩へ付いていき
祠に何かお供えしてたんですが
その日は初めて違和感を感じました。
祠の位置が違うんです。
同じような所にはあるんですが‥
何だか山の奥に微妙に移動してるような気がしたんです。
道脇にあったはずなのに。

不思議だな〜私の思い違いかな〜
そう思いながらその晩は眠りました。
その日は祠のお姉さんが夢に出てきました。
夢の中でお姉さんに
お姉さんのお家(祠)動かした?と
聞いてみたんですが
ふふ
と優しく笑うだけで答えてはくれませんでした。

そしてその年のお盆は私だけでのお泊り。
祖父の犬の散歩に付いていきました。
私は祠の場所を確認しました。
やっぱり場所が1メートルほどですかね‥
山の中へずれていました。
前回は山道の脇にあったのに
足を一歩、山肌へ踏み入れないと届かない距離。

ですが祖父との約束があるので山道以外は歩けません。
何があっても女と子どもはこの山には足を踏み入れるなと、舗装されてる道以外は歩くな、と
祖父から言われていたんです。
昔から言われてるからとにかく山に触れるなと。
理由は教えてくれませんでした。
今でもわかりません。
もしかしたら祖父もその云われの起因は知らないかもしれません。
ですが私が祖父との約束を破るともう散歩に連れて行ってくれないかもしれません。
なので破るわけにはいかなかったんです。

なので私は山自体へ足を踏み入れることは出来ないので
腕を伸ばして精一杯届く所へ
摘んであったお花をお供えしました。
山へは入らないっておじいちゃんと約束してるから
お家(祠)から遠いけど、お姉ちゃんごめんね!
と手を合わせて帰りました。
その日はまた祠のお姉さんと白い空間で一緒に遊ぶ夢を見ました。

その次の日、朝から私の大嫌いなおばぁさんがコーヒーを飲みにやってきてましたが、
私は寝ぼけてたのか気づかず二階の寝室から一階に降りてしまい
話しかけられてしまいました。

こんな田舎で子どもがすることも楽しいことも無いだろうに‥
うちにおいで、うちにおいで
お菓子もいっぱいあげるよ
何かおもちゃも買ってあげようか!

と、ひつこく誘われましたが
頑なに私が断り続けたので傷つけてしまったのか
帰り際に

さみしいのよね‥〇〇ちゃんが
私の孫だったら良いのに‥
そうしたらいつでも会えるのに

と、寂しそうにつぶやいて名残惜しそうに帰っていきました。

私は大嫌いな黒いおばぁさんと一緒にいたからなのか気分が悪くなり
少し横になっていました。
もう一泊する予定でしたが、体調がすぐれなかったので
母に迎えに来てもらい
泊まらずに帰ることにしました。

帰る道中に母にもそれから気分が悪くなったと話すと
母も当時は黒いおばぁさんに
イビられた事があったそうで
大嫌いだと言っていました。
まだ私は幼かったので詳細までは語りませんでしたが
母の雰囲気から相当なことをされたんだなと幼いながら察しました。

次は秋の中頃の連休に帰省しました。
お昼ごろに家族で帰省しリビングに行きました。
リビングの勝手口に人影が立っているのが見えました。
あの黒いおばぁさんだ!と思いました。
勝手口にも鍵はかけないので入ってくるかもしれない!と思ったのですが
人影はすぐに立ち去っていきました。

やっと私に嫌われていることを自覚して
入ってこなかったのかな?と勝手に
思っていました。

その日の夕方も散歩に付いていき
祠のお姉さんに挨拶をして
持ってきていたお菓子を一つ備えて
祠のお姉さん、また来たよ!と
手を合わせました。

夜はみんなでご飯を食べました。
私のみ泊まることになっていたので
父母弟はご飯を食べ終わってから
家に帰っていきました。
その後すぐにお風呂に入り就寝。

次の日の朝6時頃ですかね…
トイレで目が覚めました。
お布団を敷いて祖父母と川の字で寝るのですが
祖母はもう起きているようで隣にはいませんでした。
2階にもトイレはあるのですが
たまたま修理中で使えなかったので
1階に降りるしかありません。

のそのそと起き上がって
階段を2.3段、寝ぼけた体でゆっくり
降りたところで

ダメ。

と真横で声が聞こえました。
私はとっさに

え?何?と小声で呟きました

目を合わせてはダメ。

と次は頭の中で声がしました。
祠のお姉さんの声だったと思います。
ビックリしている私を宥めるように
優しく肩をなでられた気がしました。

何が何だか私には分かりませんでしたが
物音をたてないように慎重に降りて行きました。
ダイニングテーブルが少し見えるあたりの階段の中腹で立ち止まり
上半身だけ前のめりにかがめてリビングの様子を伺いました。
あの黒いおばぁさんがコーヒーを1人啜っていました。
その横顔が不気味で仕方ありませんでした。
いつもよりもずっと黒く淀んでいる気がしました。

祖母も起きて書類の整理なのか掃除をしているのか
リビングの横の書斎で何かしている音が聞こえていました。
1階のトイレは書斎の奥隣。
祖母がいるなら急いでリビングを抜けて書斎に行って
とりあえずトイレに行って
あの人が帰るまでリビングに戻らず書斎にいればいいやと思いました。

祠のお姉さんは目を合わせるのがダメって
言ってたから目は合わせないように
私はうつむき加減で小走りにそのおばぁさんの横を駆け抜けました。
目を見ないように。

目を見ないようにしていても
人間の視野は意外と広くて
どうしても姿は視界の端に入ってきます。
私は息が吸えなくなりました。
その日のおばぁさんは黒すぎて
まるで闇がそこに佇んでいるような感じでした。
かろうじて凹凸で髪、顔、肩を認識してるようなそんな感覚でした。
息を吸ってしまうと何だかもう
みんなに会えない気がしたんです。

すごい形相で私がドタバタと降りて来たので
祖母はどうしたの?そんなに慌てて
とすごく笑っていましたが
私は何となく、漏れそうだったの…と
誤魔化しました。

祖母が書斎でゴソゴソしている傍ら
お絵かきをしながら時間を潰したいました。
気付くと、おばぁさんは帰っていました。

祖母は黒いおばぁさんが来ていたことには
気づいていない様子でしたが
何となくですが黒いおばぁさんが来ていたことを
祖母には言えずに黙っていました。

その日はお昼すぎに母が迎えに来てくれ
自宅に帰宅しました。

そしてその年の年末年始。
最低限の交流はあったものの
私の母と祖父母との関係は良くありませんでした。

何か揉め事があったのか…
帰る帰らないで父と母は少し口論をしていたと思います。
私は気を使ったつもりで
私が1人で泊まるよ!と言ったのですが
母は行かせたくない様子で
じゃぁ31日から一泊だけね!次の日の11時には迎えに行くからちゃんと朝から準備しといて!!
とかなり強めに言われました。

そして31日から一泊の予定でお昼すぎに母に送ってもらい田舎へ。
いつもなら晩ごはんまでは一緒に過ごして
帰るのですが
その日は私だけ送って挨拶もそこそこに
母と弟は帰っていきました。

そして毎度恒例の夕方の祖父との犬の散歩。
祠もその頃には木々の間に遠目に見えるのみ。
私は精一杯手を伸ばしてなるべく近くに
その辺りで積んだお花をお供えして
手を合わせる。
帰って豪華な晩ごはんを食べて
お風呂に入って紅白を見て寝ました。
その日も祠のお姉さんが夢に出てきましたが
いつもと違いました。

いつもの通り何も無い白い空間。
私は自分のスペースだと認識している所で遊んでいました。
いつもなら気付くと私のすぐ隣にいてくれるのに

私のすぐ隣には来てくれず
少し離れた場所から私の様子をニコニコしながら
見ているだけでした。

私は何で今日はそこにいるの?
今日は一緒に遊んでくれないの?
と聞くと

私ね、すごくさみしいの
だから今日は私のお家で遊ばない?

と、言われました。
私は頷こうと思ったのですが
その瞬間に
母の言葉が頭に響きました。
「11時には迎えに行くからね!」
私は母の言葉を思い出したので

お母さんが明日迎えに来るし
今日は行けないから
また今度ね!
もし寝坊して帰るの遅れたら
怒られちゃう!

と答えると
祠のお姉さんは少し寂しそうにニコリと笑って
何も言わずに帰っていくという夢でした。

朝目覚めて、何となく
もう祠のお姉さんとは会えない気がしました。
そんなことを思いながら帰る準備を整えて
母の迎えを待ち、家に帰りました。

何となく祠のお姉さんの事が気になっていましたが
祖父母宅は家から車で1時間以上かかるので
子どもの私には学校もありますし簡単には行けません。

その年のお盆は祖父母と何か大きな揉め事があったみたいで帰省はなくなりました。

年始は祖父母から帰省しろと
強い要望があったみたいで
泊まりは無しになりましたが
元旦のみ家族で帰省することになりました。

なるべく祖父母と一緒に居たくないのか
母父弟は2階で過ごし
私は祖父母と1階のリビングで夕飯まで
時間を潰していました。

2階に行けば弟がゲーム機を持ってきていたので
ゲームで遊べるんですが
子供ながら何となく私まで2階に行くと
空気が余計悪くなるんじゃないかと思い
暇を持て余しながら1階で
なんの興味もないお正月の特番をジュースを飲みながら祖父母と見ていました。

何となく気になり
私は黒いおばぁさんの事を唐突ですが
祖父母に聞いてみました。

あの(黒い)おばぁさん、今回は来ないんだね?
と私が聞くと祖父が

あー、〇〇さんはもう来れんで
一昨年のお盆終わった頃だったか‥
亡くなってな〜
〇〇(私)とお盆にみんなでここで
喋ったのが〇〇(私)と会ったのは最後じゃわ。
その後すぐにな‥

と祖父が話してる最中に祖父母宅の電話が鳴りました。
プルル、プルル…
祖母がは〜い。と電話に駆け寄りました。

祖母が受話器に手をかけながら電話のディスプレイを確認していました。
そのまま何故か祖母は固まってしまい電話も切れてしまいました。

祖父が誰だったか祖母に尋ねました。

〇〇さん(黒いおばぁさん)から…

祖母は〇〇さんと言って少し固まっていました。
祖父も少しビックリした様子でしたが
大きめなため息をついて

あ〜〇〇さん、
〇〇(私)に固執しとったからな
それで来てるかどうかの確認に
電話してきたんかもな

と祖父が言った所で
祖母が「お父さん!〇〇(私)の前で!」と祖父が話すのを止めました。

それでも私は気になったので祖父と二人になるタイミングで先程のことを改めて教えて欲しいと伝えると

あの黒いおばぁさんは嫁イビりがすごくて
息子にも嫁にも孫にも出ていかれて
それでもお正月には帰ってきてくれてたのに
それでも嫁イビリをやめなかったそうです。
そして帰省もしてくれなくなったそうです。
そのタイミングで私の事に固執するようになったそうです。

私がいつ帰省するのか
好きなものは何か聞いてきたり
私を連れて家に遊びに来て欲しい等の
要望もあったそうです。
ですが祖父母は私が嫌がっているのを
分かってくれていたみたいで
ごまかしてくれていたそうです。

幼かった私には話しにくい内容だったのか
濁されてしまったので
どんな最期だったのかはわかりません。

確かなことは私が最後に見たあの時のおばぁさんは
もうこの世のものではなかったみたいです。
私を連れて行こうとしてのかもしれない…と
幼いながらとても怖い状況だったと
理解しました。

黒いおばぁさんと生前最後に会ったときに
私が孫だったらいいのに
そうしたら毎日会えるのに
と言われた言葉が
不気味によみがえって来ました。

そして夕方に恒例の祖父と犬の散歩へ。
夕方になっても怖い気持ちは消えていませんでしたが
私の身の危険を教えてくれた祠のお姉さんに
お礼を言わないといけないと思い
茶菓子を握りしめて向かいました。

祠があったであろう場所を
木々の間を一生懸命探しましたが
見つけることは叶いませんでしたが
初めて祠を見つけた場所に茶菓子を置いて
手を合わせて
精一杯の感謝の気持ちを伝えました。

そして私は中学生になりました。
そんなこともすっかり忘れて過ごしていました。
寝ぼけた頭でボーっと
朝のニュース番組を見ていたとき
1枚の小さな男の子の顔写真が報じられました。
その瞬間に映像が頭に流れて来ました。

その小さな男の子が見覚えのある田畑の端で
しゃがみ込んで1人で遊んでるんです。
そして少し離れた所でカマの様な農具を持ったおじいさんが畑仕事をしてる光景です。

そして男の子の目線の少し先に
あの優しい祠のお姉さんがニコリと立っています。
お姉さんは

君もさみしいの?
私と来る?

と最後に夢で会ったときに
私に問いかけてきた内容と同じような会話を男の子としてるんです。

ただ違ったのは私は頷かなかった。
でも男の子はニコニコしながら
祠のお姉さんに駆け寄って
お姉さんの手を取りそのまま手を引かれて
一緒に山の方へ行ってしまう光景でした。
ほんの一瞬の出来事でした。

私は我に返りました。
テレビでは報道の続きが流れていました。
私が見た光景、そのままをアナウンサーが
喋っていました。

男の子は消息不明。

私はこの男の子は祠のお姉さんと一緒に行ってしまったんだと思いました。
すぐ側で炊事をしているお母さんに

ここって…祖父母宅の近くだよね!?
何度か通ったことある気がするんだけど‥

と確かめるように尋ねると
やはりそうでした。
祖父母宅の近くでした。

それから数年。
当時は行方不明者を生放送で視聴者から電話で情報を求めたり
国内外から霊能者を集めて探すと言う特番が
時折していましたが
そこにとりあげられた事もありました。

有力な情報もなくて
霊能者が霊視をしても空振り。
何も手がかりは掴めませんでした。
今でも残念ながら手がかりも
その男の子も見つかってないと思います。

なぜならきっとあの祠のお姉さんと
きっと今でも一緒にいるから。
そんな気がしてならないんです。

もし私もあの時、男の子のように頷いていたら
母の言葉を思い出さなかったら
祠のお姉さんの手をとってしまっていたら…
何かの拍子に山へ踏み入れてしまっていたら
どうなっていたんでしょうか。

ですが…あの黒いおばぁさんから守ってくれて
危険を知らせてくれた事は今でもとても感謝しています。
今でも言葉では伝えられないとても複雑な気持ちになります。

今では私も子どもがおり
私の父がたまに祖父母宅へ
連れて行ってくれたりするのですが
あの山にだけは何があっても近づかないよう
近づかせないように
子どもたちが1人にならないように
祖父母宅から出さないように、出ないように
父と子ども達に強く強く言い聞かせています。

もし、もう一度私や私の血を引く子どもたちが
祠のお姉さんと縁が出来てしまったら
もうその縁は切れないと思うんです。
二度と会えない気がしてならないんです。

ほんの少しだけ祖父にあの山について
教えてもらったことがあるんです。
あの山の所有者は年をとってしまい
山の管理が何年も前から行き届いてないそうです。
祠や何かを祀っている事も少なくとも
祖父は聞いたことがないそうです。
あったとしてもほんとに大昔の事で
今では調べても何も分からないだろうと教えてもらいました。

祠のお姉さんがどういった存在なのか
知りたい気持ちはあります。
亡霊なのか…山の怪なのか…
本来なら祀られるはずの
神様の様な存在なのか…
でもきっと一生分からないままなんだと思います。
もう一度近づいてしまうと
きっと私も祠のお姉さんとずっと一緒にいないといけなくなりますから。
なんだか今でもそんな気持ちになるんです。

 

得点

評価者

怖さ鋭さ新しさユーモアさ意外さ合計点
毛利嵩志151510101060
大赤見ノヴ161617151781
吉田猛々192018172094
合計5051454247235

 

書評:毛利嵩志
白い女性と黒いお婆さんの対比が効いています。単純な善悪では片付けられない話。「息を吸ってしまうともう、みんなに会えない気がした」という表現は見事でした。

書評:大赤見ノヴ
なんですかねぇ特有の村感。黒いおばさんの嫁いびりからの念飛ばし。完全に味方だと思われた祠のお姉さんも最後は神隠しちゃうんかい!と思わず口に出してしまいました。文章が丁寧かつ簡潔なのでサクッと読める素晴らしい昨品です。

書評:吉田猛々
謎の祠と女性、黒いお婆さん、とても読みごたえがありました。ラストの未解決事件に繋がるくだりは特にゾクゾクしましたね。山には神が宿るとされ、多産であり、子供を好むと云われており、古には贄として子供を山に捧げていたという伝承もあります。実際に残るそういった事柄とピースがはまっていく感覚がたまらないです。個人的に大好きなお話でした。