優さんの父の体験談。
深夜自室で眠っているとふいに目が覚めた。何気なく部屋の壁を見ると、窓から差し込んだ月明かりが壁一面に〈巨大な鳥居〉らしき影を作っている。周辺に神社などはないし、部屋の中にもそれらしきものは存在しない。一体あれはなんだ、と布団の中で考えているうち、影はみるみる薄くなり掻き消えた。
翌朝、優さんに「昨日こんな体験をしたんだ」と話したその日の夕方、父は自室で首を括って自殺した。
遺書の類は一切なかったが葬儀で受け取った香典の中に〈奉納〉と書かれた小さな紙が一枚挟まってあったそうだ。